スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(19)が2022年9月、ウクライナ戦争と電力価格の高騰を受け、「危機意識が欠けている。環境危機を遠い未来の脅威と扱い、今ここにいる人々には何ら影響がないものとしているが、実際は非常に大きな影響を与えている」などと提言したことをきっかけに、世界中の若者のあいだで、環境問題への関心が高まっている。イギリスの環境活動家兼アーティストのトルメイア・グレゴリーさん(22)も、そのひとり。自身の活動や生き方について、時事YouTuberで笑下村塾代表のたかまつななが、現地で話を聞きました。
アートを通じて気候変動問題などを伝えたい
──トルメイアさんは現在、どのような活動を?
「環境活動家としては、野外での抗議活動のほか、地元の環境保護団体と協力して、野菜のプランターを設置したり、地域と交流したり、無料の洋服店を開いたりしています。この活動を通じて、人々が気候変動(※)について話すとか、考えるきっかけになればと思っています。
アーティストとしては、アートを通じて気候危機、特に、気候変動に対して抱く感情を表現しています。時にはとても悲しく、時にはとても腹立たしい感情を……。
GIPHY(短いループビデオを検索&シェアできるサービス)で作成したギフトステッカーが人気で、InstagramなどのSNSで環境問題に関するメッセージを共有して楽しんでいます。最近では、絵画や有形作品なども手がけているんです。今年の目標は、アート作品を通して気候変動の話題に関わってもらえるような展示会などを開くことです」
(※ 気温および気象パターンの長期的な変化を指す。1800年代以降は主に人間活動が気候変動を引き起こしており、その主な原因は石炭、石油、ガスなど化石燃料の燃焼。現在見られる気候変動の影響には、深刻な干ばつ、水不足、大規模火災、海面上昇、洪水、極地の氷の融解、壊滅的な暴風雨、生物多様性の減少などが挙げられ、人々の生活に深刻な影響を及ぼすとされている)
──エシカルファッション(※)の活動をしている理由は?
(※ 直訳すると、倫理的・道徳的なファッション。かみくだくと、人と地球にやさしいファッション。素材の選定、生産、販売までのプロセスで人と地球環境に配慮して作られたファッションを指し、近年ではファッション業界のトレンド・キーワードにもなっている)
「昔からファッションが大好きで、ファッションブログやウェブサイトを立ち上げたり、ファッション業界とその仕組みについて学んだりしてきました。そのなかで、’13年にバングラデシュで起こったラナ・プラザ衣料品工場の崩壊事故で1000人以上の従業員が亡くなったことを知ったんです。それがきっかけで、自分の着ている服がどこから来て、どのように作られているのか、なぜ自分がエシカルファッションについて関心があるのか、地球だけでなく私たちの服を作っている人たちを守ることがなぜ重要なのかなどを考え、行動するようになりました」
──環境問題やファッション全般については、何から影響を?
「ファッションや気候危機、気候変動に関することは、環境保護団体『Extinction Rebellion』が出している本などから学びました。ほかにファッションに興味を持つようになったきっかけは、ファッションとその仕組みについて書かれたルーシー・シーグルの『To Die For』、ラナ・プラザ衣料品工場の崩壊を追ったドキュメンタリー『The True Cost』ですね」
服は古着や中古品を。とにかく買わないことが近道
──トルメイアさんが服を選ぶ際のポイントは?
「基本的に、古着や中古の商品しか買わなくなりました。それが、いちばんサステナブル(持続可能)な方法のひとつだからです。
以前は、エシカルブランドや、従業員に高いお給料を払っている会社、持続可能な素材を使っている会社などに注目していました。でも私が思うに、最大の問題は、私たちがどれだけ買い、企業がどれだけ売っているかということです。生産・消費量を抑えないことには始まらない。だから中古品だけ、さらには自分が本当に気に入ったものだけを買うようにしています。
たまに新しい服を入手するとしたら、たいてい小さな独立ブランドのものですね。最近はBlack Lodge Pressという過激なアーティストが出しているブランドのTシャツを買いました。個性的なデザインで、気候問題に配慮しているアーティストをサポートしている商品だと、“欲しいな”と思います」
──周りの人はどうですか?
「私がオンラインで積極的に活動し始めたら、多くの友人も同じことをするようになりました。みんなサステナブルな買い物をすることに、とても賛同してくれています。ただ、時間がない人、お金がない人、家族の面倒を見なければならない人などには、ちょっと難しいかもしれませんね。でも、私が情報発信したものから、多くを学んでもらえているのではないでしょうか」
──ファッションの楽しみに制限が生まれたりしないのでしょうか。
「そうは思いません。量やブランドなどの制限があると、必要なものが明確になるし、すでに持っているものを使ってやりくりするので、よりクリエイティブになれると思うんです。それに、環境に対するコスト(※)を知っていると、その商品についてもっと考えるようになります」
(※ 環境省によると、服1着あたりのCO2排出量は約25.5キロで、500ミリのペットボトル約255本製造分にあたる。水の消費量は約2300リットルで、これは浴槽約11杯分。たった1着を作るためにも、環境に対してさまざまな負担がかかっている)
──ファッションに興味のない人や情報が少ない人は、エシカルファッションについてどのように取り組んでいけばいいと思いますか?
「3つあると思います。まず1つ目は、知識を身につけることです。その問題について学ぶことで、ファッション業界に存在する本当の大きな課題に気づくことができ、変化を起こしやすくなります。
2つ目は、シンプルに買う量を減らすこと。
そして3つ目は、ファッションに関連する地域社会の活動に参加することです。私が地元で行っているのはフリーショップです。必要とする方に無料で商品を提供することで、持続可能な代替品を購入する余裕がない人々にとっても、エシカルファッションがずっと身近なものになります」
環境配慮をうたう「グリーンウォッシュ」に危機感
──ファッションでもサスティナビリティがトレンドになってきていますが、このことをどう思いますか?
「トレンドになりつつあるのなら、それは、すばらしいことだと思います。
一方で、企業が実際よりも環境に配慮しているように見せかける、“グリーンウォッシュ”の問題が出てきます。その一例がH&Mのようなファストファッションの会社で、広告などで持続可能性について多くの言葉を使用していますが、実際には、年に何百万トンもの衣服を生産しているのです。SHEIN(低価格なアパレル業者として認知されている、中国のオンラインファッション小売業者)なども同じです。これらは非常に大きな企業ですが、生産量が多ければ多いほど、サスティナビリティとは言えないでしょう」
──SDGsウォッシュなども増えてます。どうやって見抜くべきだと思いますか?
「見抜くというよりも、まずはとにかく、買う量を減らすことです。必ずしも特定の企業を完全に避ける必要はありませんが、もし私たちが買う量を減らせば、企業はその分、生産する必要がなくなるでしょうから。
繰り返しますが、ファッションにおける最大の問題は、生産量だと思います。だから、一人ひとりが買い物の習慣や、毎年どれくらいの量を買い、捨てているかを見直すことが、とても重要なのです(※)。
しかし私は現在、個人が持っている洋服の数の多い少ないよりも、企業の宣伝の仕方を問題視しています。毎週のように新しい洋服を買ったり、1年に何百着も新調したりする買い方を促したり、YouTubeやInstagramでよく見るような、大量の購入品を紹介をしたりする宣伝の仕方です」
(※ 環境省によると、1年間に1回も着られていない服が1人あたり25枚もある。また、家庭から手放される衣服の量は年間約75万トンで、そのうち約50万トンがごみとして出されているという)
どんな人でも、環境を守れるような役割がある
──気候変動対策などへの参加を促すメッセージは、どのように発信を?
「Instagramやソーシャルメディアのプラットフォームを利用しています。人々に興味を持ってもらうには、私がしていること、私が気にかけていることを共有することで、“これなら自分も参加できるかもしれない”と思ってもらうことが大事だと思います。
メディアは、気候変動の活動家になるには、道路に座り込んで交通を遮断したり、抗議行動で破壊的な行動をとるしかないと思っているようですが、実際には、さまざまな方法があります。私のように、抗議活動のためのポスターなどをデザインするアーティストや、あらゆるものを撮影する写真家、映画を作る人にも、環境を守れるような役割があるのです」
──トルメイアさんにはInstagramに約17500人、Twitterには約5800人のフォロワーがいますよね。どのような人たちですか?
「ほとんどが20代から30代だと思います」
──なぜあなたをフォローするのだと思いますか?
「わかりやすく、楽しく、興味を引くような内容なので、みなさんフォローしてくださるのではないかと。気候変動のような話は、多くの人にとって恐怖であり、どうしたらいいのかわからないような難題だと思うんです。ですから、私はできるだけわかりやすく、怖がらせるのではなく、実際に関わりたいと思わせるような内容にするよう心がけています。
私がやりたいことのひとつは、気候変動運動に参加する方法を紹介することなんです。以前、人々が実行できるあらゆることを詳しく調べて、その結果を投稿したんです。例えば、“もしあなたが会計士で、スプレッドシートの使い方を知っているなら、気候変動運動や気候変動組織の資金繰りを手助けすることができます”というふうに、自分の好きなことや得意なことを活かして参加することができるという好例を示すことができました。このように、自分のスキルは何なのかという観点で考えることは、人々の理解にとても役立つと思います。みなさん、こういう発想は初めてだと思うので、その点は自信を持って発信しました」
環境問題は未来の自分ごとだと知ってほしい
──日本では、気候変動に関する運動があまり盛り上がっていません。この現状についてどう思いますか?
「地域によって直面している課題はさまざまですから、ほかの地域についてコメントするのは難しいですね。
運動も教育の一環であり、この問題がいかに深刻であるかを多くの人に知ってもらうためのもの。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書が数年おきに発表されますが、その内容について話し合うことも大切なことだと思います。しかし、最近出た報告書によると、気候変動を本当に緩和するためには今後、数年間しか猶予がない、というようなことが述べられています。ですから、もし多くの人が環境問題の深刻さを本当に認識していれば、これらの運動にもっと多くの人が参加するようになると思います」
──若い人たちが参加するようになるためには、どうしたらいいと思いますか?
「環境問題が自分たちの未来に関わることであり、すでに世界の特定の場所では気候変動の影響が起こっている、という事実に注目することだと思います。
将来、自分が子どもを持つことが正しい選択だと思えるかどうか、ということです。気候変動の影響を受ける世界で、子どもが育つことを望む人はいませんよね」
──日本の若者に伝えたいことはありますか?
「私からのメッセージは、もし私の活動に少しでも目を向けてくださったのなら、あなたと同じように、この問題に関心を持つ人を見つけてください、ということ。そして、もしあなたが気候変動や、それがあなたの生活に及ぼす影響について心配しているのであれば、友人や家族、学校の友達に話してみてください。ひとりで抱え込まず、この問題について話し合ったり、一緒に行動を起こせる人を周りに見つけてください。なぜなら、私たちは、ひとりではこの問題を解決できないからです」
(取材・文/たかまつなな)
【PROFILE】
たかまつなな ◎株式会社笑下村塾 代表取締役。’93年、神奈川県生まれ。時事YouTuberとして、政治や教育現場を中心に取材し、若者に社会問題をわかりやすく伝える。18歳選挙権をきっかけに、株式会社笑下村塾を設立し、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶ SDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。
◇トルメイアさんTwitter:https://twitter.com/tolmeia
◇『たかまつななチャンネル』:https://www.youtube.com/c/takamatsuch/featured
◇参考:環境省ホームページ:https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/