今や1タイトル当たりの開発費は15億を超えるといわれる「アプリゲーム」。人気ゲームが流行(はや)る一方、やむなくサービス終了するアプリゲームは後を絶ちません。
今回はエンタメ社会学者・中山淳雄さんに、かつて“冬の時代”と言われていた家庭用ゲームが復活した理由と、アプリゲームが生き残るために日本がすべきことなど、アプリゲームの「未来」について探っていきます。
【前編→新作アプリゲームの96.4%は5年以内に消える。「サ終」が続くアプリゲームの“冬の時代”はいつ来る?】
“冬の時代”を乗り越えた家庭用ゲーム市場
──“手元に残る家庭用ゲーム(※)は、クリエイターにとって救いがある”というお話がありました。それでいうと2015〜2016年は家庭用ゲームが“冬の時代”と言われるなか、ここ数年でまた盛り返していますよね。その要因は?
※家庭用ゲーム: Nintendo Switch(任天堂株式会社)、Play Station(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)、Xbox(Microsoft)など、「専用のゲーム機」で遊べるゲーム全般。
「コロナによる巣ごもり需要もありますが、ビジネスモデルがサブスクリプション主流になったことが大きいです。2006年からサービス開始したPlayStation Network(以下、PSN)、2018年に任天堂が始めたNintendo Switch Online(以下、Switch)等があり、PSNは月850円~、Switchは月306円と微々たる金額ですが、数百万人が加入したら企業としては相当な売上になります。
またオンラインでソフトを購入する人の割合が増えました。デジタルの場合、店舗に置かなくてもいいし、パッケージを生産しなくてもいいため、利益率がハードの4倍になります。単純計算で、ネットで1本買ってもらうとハード4本分売れたことになります。このような理由から家庭用ゲームは息を吹き返し、安定した家庭用ゲームを開発したいと考える企業も増えています」
日本のアプリゲームが生き残るためにすべきは「IPの理解」
──家庭用ゲームのように再び息を吹き返すために、アプリゲームは何をすべきだと思いますか?
「たくさんあるので難しいですが、重要なのは“IPの理解”(※)でしょうか。
やはりIPを活用したアプリゲームは圧倒的に生存率が高いです。大半のオリジナルコンテンツは誰にも知られることなく終了してしまいますが、IPはもともとの知名度があるだけに一定数のユーザーが入ってくるので残りやすい。2010年代前半は著作権料が高いという理由でオリジナルをつくっている会社がほとんどでしたが、2010年代後半にIPタイトルだけが残っていったことで、業界もユーザーも“ありがたい!” “IPすごい!”という認識に変わっていきました」
※IP:Intellectual Property(知的財産)の頭文字をとった用語。ゲーム業界では主に、アニメ、マンガ、それらに登場するキャラクターなどの著作権を指すことが一般的。
──日本はマンガやアニメの文化が浸透しているので、IPを活用することは特に重要ですね。
「そうなんです。ただし、IPの中でもアプリゲームに適した作品と適していない作品があるため、何でもアプリゲームにするのではなく、まずそれを見極めることが重要です。
また、IPの世界観を正確に再現できているか、キャラクターが愛されるコンテンツになっているか、原作者や制作陣の背景・意図・苦労も理解したうえでアプリゲームに落とし込めるかどうか。真摯(しんし)な気持ちで“このコンテンツをプレイしたら、より作品を好きになってもらえます”という付加価値をつけることが成功のカギだと思います。
最近は『原神』(mihoyo)、『勝利の女神:NIKKE』(テンセント)、『アークナイツ』(Yostar)と中国の会社が勢いをつけていますが、日本はIPファンとゲーム内容をすり合わせる技術に優れている。正しいIP・正しい設計・正しい開発会社に依頼すれば、成功確率は7割くらいにはなるかなと」
──それでも3割は失敗するんですね……。では、IPを使わない場合にすべきことはありますか?
「まず、既存のIPを活用したアプリゲームの成功率を7割としましたが、新規IPのアプリゲームになると“まともにかっちり開発したゲーム”でも、成功率は私の体感値として3割に下がります。そのような中で、特に重要なのはキャラクターの浸透です。日本人はキャラクター文化が根強く、キャラクターが欲しいからガチャを回すことに慣れており、ガチャに対する敷居も低いです」
──オリジナルIPでキャラクターに興味を持ってもらうには、知名度のあるイラストレーターや声優の起用も重要ですよね。
「イラスト、ボイスはもちろん、キャラクターがどんなストーリーでゲーム中に登場するかというキャラクター設定、キャラクタートレンドも考える必要がありますね。
例えば、『新世紀エヴァンゲリオン』(テレビ東京系)が流行ったときは、綾波レイの成功例をもって、水色髪のクール系のキャラが他作品でもどんどん使われていきました。最近だとアニメ『リコリスリコイル』(TOKYO MXほか)の錦木千束のように、”天然で超明るいキャラクターだけど、実は業を背負っている”みたいなものが流行ったり、キャラクターひとつとってもトレンドや他作品への派生が起こりえます。そういったさまざまな要素をかけ合わせて、オリジナルIPでのキャラクターの浸透を図ることが必要です。それは別次元の難しさがあります。
そうした中、2021年に『ウマ娘』(Cygames)がリリースされたことは希望につながりました。’12年には『パズル&ドラゴンズ』(ガンホー)、’13年には『モンスターストライク』(mixi)、’15年には『Fate/Grand Order』(アニプレックス)と、ヒットコンテンツが続々と生まれましたが、その後は“中国や韓国のアプリゲームのほうがおもしろい”という時期がありました。
しかし、『ウマ娘』がリリースされ、約7か月で1000万ダウンロードを突破した。運営元は過去最高益を更新し、“日本でもまだすごいコンテンツが作れるんだ!”という勇気をもらいました。今後も日本でヒットコンテンツが生まれる可能性はあると感じています」
(取材・文/阿部 裕華、編集/FM中西)