2010年にデビューして以来、数々の作品に出演している俳優の三浦貴大さん。そんな三浦さんが出演する映画『Winny』が、3月10日から公開されます。ファイル共有ソフト「Winny」をめぐり、天才開発者・金子勇氏が著作権法違反ほう助容疑で逮捕・起訴された世界的にも有名な「Winny事件」を題材にした社会派の作品です。
本作で、金子氏とともに、裁判で警察の不当逮捕を主張するサイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光を演じた三浦さん。インタビュー前編では、役づくりや東出昌大さんとの共演で感じたこと、また、デビュー当時に目指した俳優像のお話なども伺いました。
「Winny」開発者の逮捕に、当時は違和感を覚えた
――今作の一大テーマである「Winny事件」について、三浦さんは公式サイトのコメントで「私自身、当時関心を持っていた出来事でした」とおっしゃっていますが、特にどういったところに関心があったのですか。
僕も当時は「2ちゃんねる」などを見ていたので、「Winny」や、「WinMX」といったファイル共有ソフトがあることは知っていました。でも、用途があまりよくわかっていなかったので使ったことはなかったんですけど「新しい技術が出てきた」ということはなんとなく記憶しています。
その後、「Winny」を開発した金子勇さんが逮捕されたというニュースを報道で見たときに、なんだか違和感を覚えたんですよね。
――その違和感は、どんなところから湧いたのでしょうか。
このソフトを使って何か悪事を働いた人が捕まったのではなく、作った人が逮捕されたというところに、ちょっと引っかかりがあったんです。でも、当時はそのことについて深くまで調べようとまでは考えなかったし「悪用されるようなものを作った人が悪いのかな」となんとなく思っていました。
それは今回の映画のテーマに通ずるところもあるのですが、例えば包丁で人を殺したという事件があったときに「じゃあその包丁を作った職人も捕まるのか」といったことになるのかと、疑問に感じたのだと思います。
――今作のように、実話をもとにしている作品に出演される際に何か心がけていることはありますか?
「実際にあった出来事」でいうと時代劇もそうですよね。そういうときは当時のことを詳しく研究されている方にお話を聞くこともありますし、今回の壇さんのように今でも現役バリバリな方がいるときは、当事者の方の気持ちを大切にすることを心がけています。自分が演じた役や作品を見て、その方が「そんなこと言っていないよ」とか、「そんな風に思っていなかった」と思われるようなことはしたくないなと思っています。
思い出話をしているときの表情を観察
――役をつかむために、壇さんご本人と直接コミュニケーションを取られたそうですが、具体的にどういったお話をされたのでしょうか。
当時はどんなことが大変で、壇さんが金子さんとどんな話をしたのかなど、いろいろなことを伺いました。その中でも、僕が一番興味を持って聞いていたのは「壇さんが金子さんをどう思っていたのか」ということです。
「Winny」の事件とはまったく関係ないところで、金子さんとどういう話をしていたのか。金子さんの思い出を語っているときの壇さんの表情を見ていると、壇さんが持っている金子さんへの思いが見て取れるような気がしたんです。少し言い方は悪いですが、その様子をずっと観察していました。
――壇さんが金子さんの思い出話をしていたとき、どんな表情をされていたのですか?
大変な事件と裁判であったことは想像に難くないんですけど、終始楽しそうでした。たぶん壇さんは、金子さんのことを友人や兄弟、仲間のように思っていたところもあるんじゃないかな。単純にプログラマーとしてすごく尊敬していると思いますし、ほかにもいろいろな感情があると思うんです。担当弁護士としての立場を超えた感情は、確実にあるのかなと感じました。
――「裁判劇」ではなく「人間ドラマ」に重きを置かれた本作ですが、演じるうえでどんなことを大切にしていたのでしょうか。
この作品って基本的には、実際に起こった出来事と実際にあった会話で構成されているので、演じていてもすごく難しいんですよね。最初はそれをどう演じようかなと考えたのですが、僕は映画のテーマのことはまったく考えないようにして、その当時の壇さんを演じられればいいと思ったんです。なので、先ほどお話ししたような、壇さんが当時どんな思いを金子さんに持っていたのか、金子さんとの付き合い方や、話しかけるときの仕草などをなるべく同じように表現できればという思いだけで現場にいました。
東出くんの役への集中力は尋常じゃない
――金子さんを演じた東出さんとのシーンには、常に独特の緊張感があったように感じたのですが、三浦さんは東出さんと共演されてどんなことを感じましたか。
とにかく東出くんの役作りはすごかったです。僕も含めて、実際の金子さんにお会いしたことはないですし、写真や当時の記事などでしか拝見したことはないんですけど、「金子さんって本当にこういう人だったんだろうな」と思わせるような立ち居振る舞いを、東出くんが現場でずっとしてくれていました。
東出くんって、役への集中力が人並み外れているというか、ちょっと尋常じゃないんですよ。 常に金子さんがそこにいるような感じがあったので、僕が少しでも「三浦貴大」でいてしまうと、彼との段差が生じてしまうというか。なので、「自分もこのくらいの気持ちで役に挑んでいなければならない」みたいな緊張感は、自分にも現場にもあったような気がします。
自分の生きる道は「うっすらクズ」なのかも?
――2010年の俳優デビューから10年以上がたちます。最初のころは好青年役が多い印象でしたが、近年はドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』での「どこの会社にもいそうなちょっとイラッとする人」や、映画『もっと超越した所へ。』では、プライドだけは一人前の元子役俳優、そして『仮面ライダーBLACK SUN』では、古代甲冑魚怪人・ビルゲニアと、演じる役の振り幅が広がっていますね。
いろいろな役を演じさせてもらうのは楽しいし嬉しいです。僕が役者を始めたころに立てた目標が「俳優界の便利屋になろう」だったんですよ。便利屋って聞こえは悪いかもしれないですけど、例えば、明日から撮影が始まるという作品で「この役の人が急に降板することになってしました」となったときに「じゃあ三浦を使ってみるか」と思ってもらえる俳優が、実は一番強いんじゃないかと考えたんです。
最近は「うっすらクズ」みたいな役が多いですね。しかも、そういう作品ばかりがやたら評価されているので、もしかしたら僕の生きる道はそっちなのかなって(笑)。完全に嫌なヤツじゃないけど「こういうヤツっているよな」とか「あいつムカつくけど、なんか憎めないんだよな」という役は、演じていても結構楽しいです。
――そういう人って身のまわりに1人はいるから身近に感じるし、観ているほうも感情移入しやすいところはありますね。
そうですね。なので、どんな役でもなるべく「リアルにいそうな人」と思っていただけるように演じたいですし「なんでも演じられる人」になりたいです。
後編では、年齢を重ねてきたことで変化したお父様・三浦友和さんへの思いや、大好きなあんこへの思いを熱くお話ししていただきます!
(取材・文/根津香菜子、編集/福アニー、撮影/有村蓮)
【Profile】
●三浦貴大(みうら・たかひろ)
1985年11月10日生まれ、東京都出身。2010年、映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』で俳優デビューし、同作で第34回日本アカデミー賞新人俳優賞等を受賞。近年では『栞』『ゴーストマスター』『初恋』『流浪の⽉』『キングダム2 遥かなる⼤地へ』など話題作に出演。
【Information】
●映画『Winny』
2023年3月10日(金)公開
監督・脚本:松本優作
出演:東出昌⼤ 三浦貴⼤ 皆川猿時 和⽥正⼈ ⽊⻯⿇⽣ 池⽥⼤ ⾦⼦⼤地 阿部進之