かつての大人気番組『アメリカ横断ウルトラクイズ』(以下、ウルトラクイズ)。その第10回大会で、決勝まで行かせていただいた私の体験から、これまで6回にわたり、ウルトラクイズ裏話をお伝えしてきました。
●第1弾:伝説の『アメリカ横断ウルトラクイズ』、砂漠を歩いて帰るなど、罰ゲームの“裏側”
●第2弾:「会場付近で3時間待機」「本番前はずっと目隠し」、『アメリカ横断ウルトラクイズ』準優勝者が明かす収録の“謎”
●第3弾:伝説の番組『アメリカ横断ウルトラクイズ』に台本はあったのか!? 準優勝者が語る“撮影秘話”
●第4弾:『アメリカ横断ウルトラクイズ』準優勝者、ニューヨークのホテルで起きた“事件”を激白!
●第5弾:【アメリカ横断ウルトラクイズ裏話】第10回の準優勝者が、NYでの決勝前夜に司会の福留功男アナと話したこと
●第6弾:【アメリカ横断ウルトラクイズ裏話】挑戦者たちの食費はタダだった? メニューは? 気になる“食事情”
今回は、その第7弾。ウルトラクイズのクライマックスである、ニューヨークでの決勝戦に進出したふたりを乗せたヘリコプターが、映画の『007』のテーマ曲とともに摩天楼の上を飛ぶ、あの名場面の裏話です。
空撮といえば、ヘリコプターだったあの時代
最近のテレビ番組を見ていて、つくづく思うこと。それは、「ドローンの登場によって、空撮が安上がりになったなぁ」ということです。
何しろ、私が第10回のウルトラクイズに参加したのは、1986年のこと。
ドローンを番組の撮影に利用するなどとは、誰も発想していなかった時代です。
砂漠にそびえたつ“メサ”も、ナイアガラの滝も、空からの絵を撮るためには、すべてヘリコプターをチャーターし、カメラマンが乗り込んで撮影をしていました。
クイズの問題文が入った封筒を、砂漠や平原などの広大な土地の上空からまいて、それを挑戦者たちが走って拾ってきてからクイズに解答する、という“バラマキクイズ”も、わざわざヘリコプターをチャーターして封筒をバラまいていたのです。
想像するだけでも、「製作費がかかったなぁ……」という思いです。おそらく、1回の空撮費用で、現在のテレビ番組の数回分は制作できたのではないでしょうか。
これが現代なら、ドローンで全部できてしまうのですから、本当に便利になったものです。
さて、ウルトラクイズの空撮といえば、ニューヨークでの決勝戦の直前のあのシーン。挑戦者を乗せた2台のヘリコプターが、摩天楼の上空を飛ぶという場面が、最も印象的でしょう。
かつて、ウルトラクイズをテレビで見た私は、あの場面に果てしないロマンを感じました。そして「いつか、ウルトラクイズに出て、あのヘリコプターに乗りたい!」という夢……というか“野望”を抱いたのでした。
ニューヨークの上空で見た、命がけの撮影
「ウルトラクイズでニューヨークへ行って、摩天楼の上をヘリコプターで飛ぶ」
そんな途方もない野望が、まさか実現するとは、正直思いませんでした。
どんなに無理に思える野望でも、とりあえずは抱いてみるものです。
さて、ニューヨークでの決勝の当日、ホテルからヘリポートへ移動した私。
第10回のウルトラクイズは、唯一、旅の途中で挑戦者を北米ルートと南米ルートに分けたため、私は南米ルートから誰が勝ち上がってくるかも知りません。たった1人、カメラマンとともに、ヘリコプターに乗り込みました。
いよいよ、ずっと憧れていた、摩天楼上空へのフライトです。
しかし、実際に飛んでみたら……。
「こ、怖い!」
何が怖いのかというと、迫力ある映像を撮るために、カメラマンが座っているすぐ横の扉が全開なのです。私の席のサイドも、全開ではありませんが窓を開けているので、風がビュービュー入ってきます。
その状態で、エンパイヤステートビルのすぐ間近を通り過ぎたり、摩天楼を見下ろす絵を撮影するために、機体を斜めに傾けて、らせん状に旋回しながら降下したりするのです。
私は高所恐怖症ではありませんが、高いところが得意というわけでもありません。
普通に飛んでいる分には“天下を取った”ような気分でしたが、時折「あっ、このヘリ落ちる、死んだ」と思う瞬間があり、かなり怖かったのを覚えています。
シートベルトを締めている私でも怖いのに、あろうことか、カメラマンは(見間違いでなければ)、ヘリコプターの機体の下についている脚(あし)の部分に自分の足を乗せ、身体のほとんどを外に乗り出し撮影している瞬間がありました。
もちろん命綱はつけていましたが、オーバーでなく命がけの撮影です。
そんな姿を見て、私は「ああ、この人たちは、ファインダーをのぞくと怖いモノがなくなるのだな……」と、つくづく思いました。
コンプライアンスなどという言葉がない時代のテレビ番組は、本当に無茶をやっていたと、今にして思います。
テレビで見ていたときは、決勝前のこのヘリコプターの場面を「カッコいいなぁ」と思って見ていました。しかし、実際に体験すると、ヘリコプターを上から撮っている絵や、摩天楼を俯瞰(ふかん)する絵が、すべて、カメラマンがヘリコプターから撮影しているのだという当たり前の事実に、改めて気づかされたのでした。
今なら、ドローンで、もっと大胆な絵を撮ることが可能なのかもしれません。
しかし、映画でCGを使わないアクションシーンが見直されているのと同様に、当時の手作りの映像にノスタルジックなロマンを感じてしまうのです。
(文・西沢泰生)