アイドルが私たちの前から姿を消すのは、どんなときだろうか。「印象的な引退」と言われて思い浮かぶのは、昭和を代表するトップアイドル・山口百恵さん。結婚のため、人気絶頂期に芸能界を引退することを決めた百恵さんが、ファイナルコンサートで涙を流し、ステージにマイクを置いたまま立ち去る姿は、今でも語り継がれています。
では、もしもアイドルがコンサートで引退ではなく、突然「結婚します」と発表したら……。キャストが歌って踊るライブ&バー『秋葉原ディアステージ』から生まれたグループ『でんぱ組.inc』。そのセンターを務める古川未鈴(ふるかわ・みりん)さんは、まさにライブで結婚を発表し、ファンを驚かせました。
未鈴さんは2019年に漫画家の麻生周一さんと結婚、’21年には男児を出産。かつては、アイドルは恋愛や結婚を機に引退をするのが通例というイメージがありました。しかし、結婚や出産を経験しても、でんぱ組.incのメンバーとしてアイドルであり続ける未鈴さん。その理由は? 令和の新しいアイドルの形とは? インタビューを通して、ひも解いていきます──。
【未鈴さんがアイドルになるまでの道のりや、なかなか人気が出ずに苦労したでんぱ組.incの黎明期、メンバーとの関係性については、第1弾で詳しくお聞きしました→『でんぱ組.inc』古川未鈴、引きこもりからアイドルへの道のりと「観客数人」時代やグループへの思い語る】
ライブで結婚を報告。客席がイメージカラーの赤一色に
──2014年には日本武道館公演という目標を達成し、その後も対バンツアーの開催やオリコンシングルチャートで初の2位を獲得、メンバーの増減を乗り越えるなど、アイドル活動は順風満帆に見えましたが、ライブ(2019年9月18日、Zepp DiverCity TOKYOにて開催)で突然、結婚を発表されたのはどうしてですか?
「まず、結婚を決めたのには、スタッフさんに何気なく言われた言葉が引っかかっていたからです。“アイドルとしてだけじゃなく、未鈴ちゃん個人としての生き方も考えたほうがいいんじゃない”ってぽろっと言われたときに、“それって何だろう”って考えてみたら、一般的には結婚になるのかな、みたいな。私はそれまでは、結婚っていうこと自体に興味はなかったんですよ」
──そこから急に結婚ですからね。ファンのみなさんも驚きが大きかったと思います。
「そうですよね。でも、“これから20、30年と年をとって、残るものって何なんだろうな”って考えてみたときに、“さすがにアイドルは辞めているだろうし、あれっ? 何も残らないな”って気づいたんです。“そうしたら私、また生きる目的がなくなってしまうな”って思ってしまって」
──未鈴さんは、たびたび「アイドルを辞めたら死ぬしかない」というようなことを語られていますからね。
「そうなんですよ。私の“死にたい”は、“この世から本当にいなくなりたい”ではなくて、“生きる糧がなくなってしまう”っていうのに近い。アイドルをもしも辞めたときに、次の生きる目的って何だろうって考えたら、“家族”なのかもしれないなって思ったんです」
──結婚してもアイドル活動を続けることは、いつごろから考えていたのですか?
「2013年に『白魔女学園』(でんぱ組.inc主演)という映画を撮ったときに、メンバー全員で、ホテルの一室に泊まったんですよ。そのときに、みんなで語ったことをずっと覚えていて。私はそこで、ねむさん(夢眠ねむ・でんぱ組.incの元メンバー)に、“もし結婚するようなことがあったら、みんなの前で宣言したいんだよね”っていうことを話しました。もちろん当時、結婚の予定はまったくなかったんですが、“それでも(結婚しても)応援してもらえるアイドルになりたい”っていう決意が、そのころからあったんですよね」
──どういった思いからそのように発言されたか覚えていますか?
「普通は、結婚したらアイドルという職業は終わっちゃうものじゃないですか。そうじゃなくて、アイドルっていう言葉の価値をもっと高めたい。結婚したからって途切れるわけじゃない、そういう職業にしたいって思ったんです」
──それでいうと、ねむさんの場合は、グループを卒業されてから結婚されていますからね(2019年にグループを卒業後、芸人のバカリズムと結婚)。
「そうですね。選ぶ道にもよるんですけれど、私はずっと“結婚してもアイドルをやっていきたい”って言っていたので。結婚してもアイドルを続けられる方法って何だろうって考えたときに、まずは“隠さないことだな”思って」

──でもライブで結婚を発表されるのは、前代未聞だったと思います。どのような気持ちで臨んだのですか。
「ファンの方々に自分の口から伝えたら、そこでファンを辞める人もいるだろうけれど、きっと納得してくれる人もいる。そう思っていました」
──事務所の人からは、反対されませんでしたか?
「ありがたいことに一切、反対されませんでしたね。数年前からなんとなく思っていたことを、実現するときがきたんだなって思いました。でも、いざ発表するとなると悩みましたよ。“これで本当にいいのかな”って不安だった」
《とっても悩んだ期間でした。私の一番の夢で一番やりたい事であるアイドルという職業。そこに自ら一石を投じる。ファンの方が離れてしまうかもしれない。とにかく不安だらけの発表でした》(古川未鈴オフィシャルブログからの引用)
──どういう部分を不安に感じていましたか?
「発表したとたん、“金返せー”みたいに、みんな出て行っちゃったらどうしようって想像したり(笑)。でも実際には、“結婚します”って言った瞬間に、客席から“わー!”っていう喜びの歓声があがった。 “不安にならないでよかったんだな”ってほっとして、その場に座り込んでしまいましたね……」
──SNSでは「アイドルを辞めないでいてくれてよかった」という声も多かったですよね。
「はい。“ありがとう”っていう反響が、すごく多かったです。“辞めないでくれてありがとう”っていう。発表まで不安になっていた自分がうそみたいで。“ファンの人をもっと信じればよかったな”、“でんぱ組.incのファンは、いい人ばかりだな”と、再確認しました。会場が、私のイメージカラーである赤のサイリウムで埋まった光景は、忘れられないです」
──たくさんライブをされていても、そのときの記憶は鮮明に残っているのですね。
「何かが変わった瞬間みたいなのって、わかるんですよ。脳裏に焼きついているというか。初めて投票式のライブで勝った瞬間(2012年。第1弾参照)、初めて武道館に立った瞬間(2014年)、結婚を発表するとき。次の“結婚します”っていう一言で、私の人生が変わるぞっていうくらいの覚悟でしたね」

辞めるときが来ても、卒業式はやりたくない。その真意とは
──ご自身の中では、結婚でアイドルを辞めようと言う選択肢はなかったのでしょうか。
「私は、一生アイドルしかやらないつもりだったので、辞めるっていう選択肢はなかったです。もちろん、いいタイミングで、きれいな卒業式をやって辞めるのもいいと思う。自分の頭の片隅で、“あのときに卒業しておけば、違う人生だったんだろうな”っていう思いもあるし、そういう悩みがゼロだとはいえないんです。でも、卒業はめちゃくちゃ覚悟がいる。私はこれまで、その覚悟がなかっただけとも言えるかも……」
──ファンからしたら、推しがアイドル活動を続けていてくれて、うれしいと思いますよ。
「でも私、辞めるときにも、卒業式はしたくないんですよ」
──ええっ! それはなぜですか。
「辞める人のために、そこまでしてくれなくてもいいよ、みたいな(笑)。もし辞めるのだったら、元SMAPの中居正広さんみたいに、個室で配信して“今日、辞めるんだよ”っていう。正直、あれが理想に近いんじゃないかなって思っています」
──それだと、ファンの方も寂しいのではないかと思いますよ。
「でもなんか、自分の卒業式に関しては、最小限の人が見てくれればいいっていう気持ち。“自分のお葬式は小さくていいよ”みたいな気分ってあるじゃないですか(笑)。それに近いかもしれないですね」

女性が苦手だったのに、結婚したら同性の友人も増えたワケ
──結婚されて、変わったと思う部分ってありますか?
「結婚して実感したんですけれど、女性ファンからの応援が増えたんです。“私も子育てしています”、“妊活中です”とか。自分のところに、そういう声が届くようになった。なかには、“出産をへて、アイドルとして頑張っている姿を見て元気が出ます”っていう言葉もあって、その言葉に私のほうが元気をもらっています。応援してくれている人たちの声で、私ももっと頑張らなきゃ、と思えるんです」
──その姿勢が、アイドルですよね。
「本当に、今のほうが、アイドルとしての真の目的は“人を元気づける”ということなんだ、と実感していますね」
──子育ては、時に孤独ですよね。
「今は夜泣きとか大変です。子育て中は、身近な人や憧れている人が同じ経験をしていると思うと、めちゃくちゃ元気になれるなって思って。勝手に仲間みたいな気持ちになるんです。私もブログなどを見てくれているファンの方のために、ママになっても奇麗でいたいと思って、骨盤矯正とかも頑張っているんですよ」
──結婚や出産前は、あまり女性ファンを意識していなかったのですか?
「もともと、いじめられていたので、女性が苦手だった部分もあります。“女性って裏があるしな……みたいな(笑)。ゲーマーの男性と話すほうが気が楽で、友だちも男の子のほうが多くて。でも結婚、出産をへて、私生活でも女性の友達が増えたんですよ」

──それはよかったですね。女性の友人が増えたのは、どうしてだと思いますか?
「私はアイドルなので、自分の私生活の話は基本しないんですよ。でも今は、結婚も出産も公にしているので、周囲に多少はパートナーや子どもの話もするようになったんです。それが同性と仲よくなるきっかけになったのかなと思います」
──結婚や出産という経験で、未鈴さん自身も変わっていったのですね。
「いや~、共有できる人がいてくれることが、いかに大事かって感じましたね。でも私は今、ママ友っていう存在はいないんですよ。私の中のママ友の定義って、私のことを古川未鈴って知らずに関われる人。でも、“〇〇くんのママ”って呼ばれる関係性の人が今はまだいない。だから今後の課題は、ママ友ができるかどうか。どうやって作ればいいのか考えたりしますね」
──未鈴さんがアイドルだということに、気づく人は気づきますからね。
「そうなんですよ。“お仕事、何やっていますか”って聞かれたらどうしようって悩んでいます。“ダンサーです”にしようかな、みたいな。一応、外れてはないな、って(笑)」

結婚してもなお、「一生、アイドルとして生きていきたい」という未鈴さん。そんな未鈴さんが出産を経験して気づいた大切なもの、新たに芽生えた思いとは……? 最終章となる第3弾では、未鈴さんが毎日奮闘している育児について、語っていただきます。
(取材・文/池守りぜね)
【PROFILE】
古川未鈴(ふるかわ・みりん) ◎香川県出身、165センチ、A型。『でんぱ組.inc』のセンターを務める。キャッチフレーズは「歌って踊れるゲーマーアイドル」。コンシューマーからアーケード、ネットゲームまで幅広く網羅し、ゲーム番組のMCもこなす。新体操やクラッシックバレエの経験を生かしたダンスも得意。イメージカラーは「赤」。
Twitter→@FurukawaMirin、Instagram→furukawamirin、ブログ→「みりんのメモ帳.txt」
でんぱ組.inc Zeppツアー2022 『お前らDEMPARKまで行くんだろ?乗りな!』
一般チケット、各種プレイガイドにて発売中!
▼イベント日程
2022年4月22日(金):福岡・Zepp Fukuoka
2022年5月7日(土):札幌・Zepp Sapporo
2022年6月11日(土):東京・Zepp DiverCity(TOKYO)
2022年6月14日(火):名古屋・Zepp Nagoya
2022年7月8日(金):大阪・Zepp Namba
▼詳細はこちら
https://dempagumi.tokyo/news/2022/01/10/2022_zepptour/