1983年に開園した東京ディズニーリゾート。その来場者数の推移を知っているだろうか。実はコロナ以前までは、開園からほとんど右肩上がりなのだ。最多である2018年は3255万人、単純計算で1日あたり8万9200人という市町村の人口レベルの人たちがディズニーで遊んでいる。
これ、個人的にはめちゃくちゃ驚いた。というのも“東京ディズニーリゾートに行く”ということは「人生で数回の貴重な経験」というイメージがあったからだ。毎日約9万人が人生の数回を楽しんでいるというのだろうか……?
いやいやそんなわけはなかろう。では、なぜこんなにも人々が集まるのか。そう、そこには、もはや「イオンモールでも行くか」くらいのテンションで東京ディズニーリゾートに通いつめるモンスター級のオタクがいるからだ。
今回はそんなオタクのなかでも7冊のディズニーリゾート本を出版し、Twitterのフォロワー数5万人以上のディズニーオタク・みっこさんにインタビュー。「東京ディズニーリゾートのどこにそこまでハマれる要素があるのか」をじっくりと伺ってみた。
“おなかがすいたからディズニーに行く”というとんでもない感覚
――東京ディズニーリゾート(以下、TDR)について日々SNSで情報発信をしており、もう7冊も本を出版されているみっこさんですが、今まで何回くらい行かれたんですか?
「もう全然数えてないですが、たぶん東京ディズニーランド(以下、TDL)と東京ディズニーシー(以下、TDS)を合わせたら1000回くらいは行ってるんじゃないかと思います」
――すごい。もう完全に”庭”ですね。
「いやいや、一般の方からすると異常な数字かもしれませんが、TDRのオタク界隈では、たぶん平均的なレベルなんですよ。今は年間パスポートが休止中なのですが、年パスがあったときは“おなかすいたな。ちょっとごはん食べに行くか”くらいのノリでTDRのレストランに行ってました。
だから1000回すべてにおいて、朝から晩までいるわけではないです。お昼どきだけディズニーシーのレストランでご飯食べて、遠目でショーを見て、ぶらっと散歩して帰るなんてことも多々ありますからね」
――もう、極めるとその境地まで達するんですね。
「そうですね。それでオタク友達のTwitterアカウントを見て、偶然TDRに来てることがわかったら“ちょっと一緒にお茶しない?”って誘うこともあったり……。感覚としては居酒屋に近いかもしれない(笑)」
――なんてぜいたくなんだ……。
「今は年パスが休止中なので、以前のようにフランクには通えなくなりましたけどね。それでも、ランチを食べるために行くことはあります。
なぜ近場の居酒屋じゃなくて、わざわざディズニーで食べるのかっていうと“落ち着くから”なんですよね。もはや実家に近いんですよ。だからもちろん耳のカチューシャはつけないですし“楽しむぞ~!”と意気込むこともない。自宅よりTDRのほうが羽を伸ばせるんですよね(笑)。これはディズニーオタクなら共感できるんじゃないかな、と」
ハマったきっかけは、まさかの”ゴミ箱のデザイン”
――いや、ちょっともう冒頭から想像を絶していました。そもそも何がきっかけでそこまでTDRにハマったんですか? 幼少期からよく行かれたとか?
「いえ、小さいころはまったく興味なかったんですよね。別に遊園地やアトラクションが好きではなかったし、ディズニーキャラクターにも興味はありませんでした。
きっかけは高校生くらいだったと思うのですが、友達と東京ディズニーランドに行ったんですけど、その“作り込みの細かさ”に衝撃を受けたんですよ」
――どういった部分に衝撃を?
「最初に気づいたのはゴミ箱でした。TDLではテーマごとに7つのエリアがあるんですが、それぞれでゴミ箱のデザインやカラーリングがまったく違うんですよ。いま考えたら“なんでゴミ箱にここまで感動したんだろう”って思うんですが、当時は“これはすごい。徹底されているな”って、驚いたんです。
それで注意深く見ていくと、地面の色も違うんですね。例えば1860年代に始まったアメリカ西部開拓時代をイメージした“ウエスタンランド”では茶色の地面なんですが、未来をイメージした“トゥモローランド”では青色になっている。地面ひとつとっても、まったく違う世界観に没頭できるように徹底しているわけです」
――なるほど……。
「それで音楽を聴いてみると、もちろんBGMも違うわけですよ。すごいのが、エリアの境目で音楽が混ざらないようになっているわけです。“ファンタジーランド”と“ウエスタンランド”は隣接していますが、必ずどちらかの音楽しか聴こえないように設計されています。
このあたりの工夫を見て“あ、これはちょっとレベルが違う”と、めちゃめちゃ感動してわくわくしたのを覚えていますね」
――では、そこから”TDL沼”にハマっていくわけですか?
「いや、その衝撃はすごかったんですが、当時は今と違って“ひとりディズニー”なんて行けるような雰囲気じゃなかったんですよ。“ひとりカラオケ”ですら、ちょっと恥ずかしい、みたいな風潮でした。
だからソロでは行けない。でも学生でお金もないので、友達を何回も誘うわけにはいかないじゃないですか。だから“また行きたいのに”と、悶々(もんもん)とした日々を過ごしていましたね(笑)」
――なるほど。そこでいったん喪失体験をされているわけですね。
「そうですね。で、そんなもどかしさを感じながら大人になるんですけど、そこでTDR好きの友達と知り合ったんですよ。ふたりで年間パスポートを買ってからは、本格的に通うようになりました。
年間パスポートがあると、時間が足りなくてアトラクションに乗れなくても“また来たときに乗ればいいや”って、何回も通えるんですよね。だから自然と何回も何回も通うようになっていくんです(笑)」
――なるほど……年パスは罪深い(笑)。やっぱり通う中で新たな気づきはありましたか?
「もちろん毎回発見の連続でしたよ。有名どころでいうと、TDRの各エリアでは、基本的に“他のエリアが見えにくいように”設計されています(例外エリアもあり)。例えばTDSの『メディテレーニアンハーバー』という地中海をコンセプトにしたエリアからは『ポートディスカバリー』という未来の世界をイメージしたエリアは見られません。必ずその世界に没頭できるようになっているんです。こうした設計の細かさに毎回感動を覚えていました」
――さすが、徹底していますね。同じテーマパークで連想するのだとユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)ですが、コンセプトがまったく違う……。
「そうですね。USJはTDRに比べて”攻めの姿勢”ですよね。アトラクションもスリリングですし、ハロウィンイベントのゾンビとか”ガチ”ですからね(笑)。
その点、TDRはディズニーのブランドもありますし、”優等生”だと思います。だからこそ、バックグラウンドストーリーや設計がしっかりしている。そのプロ意識というか、おもてなしの心に毎回興奮していたら、いつの間にか1000回も通ってしまったという(笑)」
なぜTDRは1000回通っても飽きないのか
――たしかにTDRは老若男女みんなが興奮できる場所だと思うんですけど、1000回行っても飽きないのがすごいなぁ、と(笑)。なんでここまでハマり続けられるんでしょうか。
「まず前提としてTDRって、ハマれるポイントがたくさんあるんですよ。例えば私はパーク自体の世界観を愛しているオタクですが、もちろんディズニーキャラクターのオタクもいます。またパレード・ショーだけを見続けている方もいるし、レアなケースだとレストランで食事をするのが好き、とか、建物の設計が好きという方もいるくらい」
――たしかに言われてみれば、見どころだらけだ。
「そうなんです。だからハマれる理由は人それぞれなんですが”世界観やバックグラウンドストーリーのオタク”としては、やっぱり毎回新しい気づきがある部分が大きいと思いますね」
――1000回行っても、まだ新たな発見があるんですね。
「ありますよ(笑)。かなり衝撃を受けた例でいうと、TDSの『メディテレーニアンハーバー』の街灯を、なんとなく見ていたんですよ。すると、表向きには見えないんですけど、裏に“NERI LONGIANO ITALIA”という文字があるんですね。気になって、すべての街灯の裏を見て回ったんですが、ほぼ全部に印字してあるんです。
なんだろう、と思って調べてみると、実在するイタリアの街灯器具メーカー名だったんですよ。つまりイタリアの世界観を忠実に再現するために、現地の製品を使っているんですよ。これだけでもすごいのに、あえてロゴを見えない位置に配置して世界観を崩さないようにしている……。すごいこだわりっぷりですよね」
――確かに。TDSももちろんすごいんですが、みっこさん、わざわざ全部の街灯の裏をのぞき込んで回ったんですね。その行動も一般人的にはだいぶヤバいです。
「(笑)。さすがに誰かと行ったら大人しいですけどね。あ、それで言うと“ひとりだからこそ、毎回新しい発見ができる”という部分もありますね。
やっぱり誰かと行くと“できるだけ多くのアトラクションに乗ろう”とか“パレードをいい位置で見るためにタイムスケジュールを決めよう”という制約が生まれてしまう。でもひとりで行くと、全部自分で決められるので、本当に楽です。
最近だとひとりディズニーの方も多いんですよ。私の友人でも20代から70代まで、本当に幅広い年齢層の方が、ひとりで楽しんでいます。もしかしたら“ひとりでじっくり見たい”という感覚を覚えられるかどうかが、オタクと一般人との境界なのかもしれません」
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※記事後半では、ときに「ちょっと怖いかも」なんて言われるTDRオタクの特徴を、多ジャンルにわたって教えていただく。【後編→オタク極まりディズニー本を7冊も出版! 幅広すぎる東京ディズニーリゾートの魅力をマニアに聞いてみた】
(取材・文/ジュウ・ショ、編集/FM中西)
〇みっこさんのTwitter:@mikko_20100518