テレビ、映画、舞台で活躍中の石橋静河さん。俳優の活動をする前は、バレエ留学の経験を持ち、コンテンポラリーダンサーとして活動されていました。
現在の魅力的な石橋静河さんになるまでには、どのような経緯があるのか、また「忙しい中、自己を保つ秘訣」など生き方や人生観についてお話を伺いました。
【第1弾インタビュー:石橋静河、『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』にかける思い 「ダンサー」と「役者」ふたりの自分】
型にはまらず、自分の道を進む!
──デビューする前はコンテンポラリーダンサーとして活動されていたんですよね。コンテンポラリーダンスの魅力は何ですか?
「今はフルでやっていないので、ダンサーとしてではなく観客としての意見にはなりますが、ひとつの答えを提示するのではなく、いろいろな見え方があるのがコンテンポラリーダンスの面白さだと思います。例えば、目の前にあるものを、正面から見るのか、下から見るのか、遠くから見るのかでまったく見え方が変わる、というのを身体で表現しているところです。
日々の生活の中で、“こうするべき”“こう生きるべき”と決めつけられてしまうことに対して、“本当にそうなのかな?”と考え直すきっかけになったり、新しいものの見方を自分に蓄えてくれたりするものだと感じています」
──15歳からバレエ留学し、その後、コンテンポラリーダンスに方向転換した理由は何ですか?
「自分はバレエダンサーになれないなって思うことがあったんです。バレエって本当に狭き門ですし、型が大事で、それをずっと学んできたのですが、逆に、“型がないモノの面白さ”というのを、コンテンポラリーダンスに出合って感じたんです。“自由がある”というのが、私には魅力的に感じました」
──もともとは「ご両親が俳優だ」と言われるのが苦手で、「だったら、自分は別の道に」と思って踊りを始めたのだとか。俳優になった今は、ご両親が俳優であることに対して、どのように感じていますか?
「もう気にならなくなりました。私は私で、いろいろな仕事をしていくうちに面白い人たちと出会って、“自分の道”に進んでいます」
──ご両親を見て、影響を受けたところはありますか?
「(芸能界は)大変な世界ですし、いろいろな人がいたり、さまざまな出来事が起こったりますが、両親とも自分の芝居や音楽に対して誠実さを持って続けているので、すごいなって感じています。だから、私もまっすぐに誠実でありたいという気持ちでいます」
アメリカからの帰国後、苦労した「言葉の壁」
──石橋さんからは「自分の言葉できちんと話す人」という感じがします。それは、海外留学をした影響もあるのでしょうか?
「15歳で留学したときは英語も話せない状態でしたが、アメリカは自分の意見を伝えるのが大切な国で、言わないと置いていかれてしまうと学び、鍛え上げられました。
でも、日本に帰ってきたときに同じように表現しようとしたら、相手には強く聞こえてしまうことがあって戸惑いもありました。
そのとき、“日本語って、すごく難しい!”と思ったのですが、言葉を上手に使っている人の伝え方を学んだり、日記帳に自分の思いを書き出して、言葉にする方法を考えたりしました」
──その作業をしていくうちに、何か発見はありました?
「最初は、“私はこう思う。なぜなら、こうだから”と、英語のように言ったほうがわかりやすいでしょ? と思っていたんです。
ただ、日本語もいい面はたくさんあるんですよね。曖昧(あいまい)であったり、遠回しだったりはするのですが、日本の文化の面白さを知っていくにつれて、そういう文化から生まれてきた言葉を、自分はどうやったら使えるようになるのか、ということを考えるようになりました」
──お忙しいと思うのですが、「自己を見失わないためにやっていること」はありますか?
「いろいろな人に会って、たくさん影響を受ける仕事ではありますが、1日の仕事が終わった時は、自分の中から流して、リセットしています。“自分と向き合うこと”“自分の軸に戻ってくること”は意図的にしていかないといけないので、気をつけています。
また、小さなノートを持ち歩いていて、気になることがあったときやモヤモヤしたことがあったときに思いを書き出すようにしています。
日本では、“言葉にしてはいけないこと”があると感じています。でも、“自分がそう思った”ということはきちんと認めてあげないと、人の気持ちも受け入れられなくなってしまうので、受け止めています」
◇ ◇ ◇
書くことで、自分を俯瞰(ふかん)できるところもありますよね。お話を伺っていても、“(自分の内側から)自己ときちんと向き合っている視点”と“(自分の外側から)自己を客観視する視点”の両方を持っているのを感じます。
「与えるものが与えられる」ことを学んだ、沖縄の出来事
──ご自身のInstagramで昨年の8月に、“最近の発見したこと”として「出し惜しみしない(「これをもらったからこれだけ返す」とか対価ではないやりとり そのほうが返ってこなくてもあげた喜びだけが残る)」といったことが書かれていました。これは、どんな経験から発見したことなのでしょうか?
「そのころ、お休みをいただき3週間くらい沖縄に行って、琉球舞踊を習ったんです。先生方が“やるからには、ちゃんと覚えてもらいたい”といってくださって、お稽古の時間を増やしてくれて、毎日2~4時間くらいみっちりお稽古をしていただきました。
舞台に立つといった目標があるわけではなく、ただ“学びたい”という思いに対して、“きちんと覚えてほしい”と自分の時間や労力を割いてくださるというのは、すごいことだと感じました。しかも、対価を求めることなく、“自分がそうしたい”という思いから、教えてくださったんです」
──それで、石橋さんも「出し惜しみをしないようにしよう」と思うようになったのですね。
「あげた分だけ、もらうこともあると思うんです。誰かに何かをしてあげるという行為が、(結果的に)見えない形、喜びとして返ってくることは多いんですよね」
──それにしても、休暇なのに「みっちり踊りの稽古をする」というのがスゴイです。やはり踊ることが好きなんですね。
「好きですね。稽古しているときは身体と心と向き合わなくていけないのですが、逆を言えば、それだけしか必要なことはなくて、シンプルなんです。
“身体をどうやってコントロールし、美しく見せるのか”というのをやっていると、心が健康になっていくような感覚がありました」
──来年は30歳。「こんな30代になりたい」という理想はありますか?
「特にないんです。年齢はあまり気にしないです。未来はどうなっているのか……。
ひとつの作品をしっかりやったら、次の扉が開くことは多いですが、それが俳優として続いていく扉なのか、また違う扉が開くのかもわからないです。ただ、“自分が楽しく生きられる道”を探せたらいいなって思います」
◇ ◇ ◇
お話を伺ってみて、柔軟性を持って、自分らしく生きている姿が魅力的だと感じました。自分に正直な生き方、人生哲学が、芝居にもにじみ出るからこそ、人々を魅了させるのでしょうね。
(取材・文/加藤弓子)
【PROFILE】
石橋静河(いしばし・しずか) 1994年生まれ、東京都出身。15歳から4年間のバレエ留学より帰国後、2015年の舞台『銀河鉄道の夜2015』 で俳優デビュー。初主演作『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(’17)で第60回ブルーリボン賞新人賞をはじめ数多くの新人賞を受賞。近年の主な出演作に【舞台】『桜姫東文章』(’23)、『近松心中物語』『未練の幽霊と怪物』(’21)、『神の子』『ビビを見た!』(’19)、【映画】『DEATH DAYS』『前科者』(’22)、『DIVOC-12』(’21)『あのこは貴族』(’21)、『ばるぼら』『人数の町』(’20)、【ドラマ】『探偵ロマンス』(NHK・23)、『まんぞく まんぞく』(NHK BSプレミアム・22)、『鎌倉殿の13人』(NHK・22)、『前科者-新米保護司・阿川佳代-』(WOWOW・21)、『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系・’21)など。
■『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』
人生にかけられた重い枷(かせ)。そこから目をそらし生きてきた渡守ソウシ(窪田正孝)。贖罪、そして再生のため、彼は世界の秘密を解き放つ――。
15 年前、世界各地に謎の「侵略者」が出没。公式には日本のある集落に巨大隕石が落下し巨大なクレーターが生まれ、そこから「宇宙からの侵略者、使徒」が出現したと発表される。
使徒に対抗するため、特務機関「メンシュ」最高司令官、叶サネユキ(田中哲司)は部下の桜井エツコ(宮下今日子)とともに4体のエヴァンゲリオンを開発。サネユキは自らの息子トウマ(永田崇人)をパイロットとしてエヴァンゲリオンに搭乗させる。
さらに、現場指揮官のイオリ(石橋静河)のもと、ヒナタ(坂ノ上茜)、エリ(村田寛奈)、そしてナヲ(板垣瑞生)ら少年少女もパイロットとして秘密裏に配属された。
次々と襲来する使徒、しかしパイロットたちの思いはさまざまでやがて彼らの思いはすれ違っていく。そしてイオリも自らのパイロットたちへの対応に疑問を持ち悩む。
そんなイオリの前に大学時代の友人であり、恋人だったソウシが現れる。ソウシはイオリのことを気遣いつつ、エヴァパイロットが通う学校の臨時教師になったことを告げる。
原案・構成・演出・振付:シディ・ラルビ・シェルカウイ
舞台版構成台本:ノゾエ征爾
上演脚本:渡部亮平
出演:窪田正孝 石橋静河 板垣瑞生 永田崇人 坂ノ上茜 村田寛奈 宮下今日子 田中哲司 ほか
公式サイト:https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/evangelion2023.html
【東京公演】
公演期間:2023年5月6日(土)~5月28日(日)
会場:THEATER MILANO-Za (東急歌舞伎町タワー6階)
お問合せ:Bunkamura 03-3477-3244(10:00~18:00)
【長野公演】
公演日程・会場:6月3日(土)・4日(日)まつもと市民芸術館
お問合せ:サンライズプロモーション北陸 025-246-3939(火~金 12:00~16:00 土 10:00~15:00 日祝月曜休業)
長野公演主催:サンライズプロモーション北陸
【大阪公演】
公演日程・会場:6月10日(土)~19 日(月)森ノ宮ピロティホール
お問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~18:00 日祝休業)
大阪公演主催:サンライズプロモーション大阪