今年の3月に、約7年間専属モデルを務めた雑誌『MEN’S NON-NO』を卒業し、俳優としての活動をますます広げている宮沢氷魚さん。インタビュー前編では、5月26日に公開の主演映画『はざまに生きる、春』についてお話を伺いました。後編では、宮沢さんが自分に戻れる時間の過ごし方や、最近作ったアメリカの定番メニューについてなど、プライベートのお話もたくさんしていただきました!
散歩しているときが自分に戻れる時間
──映画『はざまに生きる、春』で演じた屋内透は、発達障がいという面も持ちつつ、画家という表現者でもありました。透にとって絵を描くことは「自分らしさを保つもの」であるように、宮沢さんにとって自分らしくいられるものや時間はありますか。
僕も版画をやっているので、透にとっての絵に近いものを感じています。自分で描いた絵を彫って、プリントしたものをデザインしたトートバックなどのグッズも作っているんですけど、その時間は作業に没頭して他のことを考えられないくらい集中できるんです。
──役者の方は、常に「誰か」を演じるために勉強されたり、役のことを考えたりして、自分に戻る時間を作るのが難しいお仕事かと思うのですが、宮沢さんが「いつもの自分」に戻れるのはどんなときですか。
散歩しているときが一番自分に戻れるような気がします。最近はちょっと忙しくてあまり歩けていないんですけど、撮影が続いてスタジオにずっといると、外の空気や太陽の光をほとんど感じなくなってしまうので、なるべく外に出たいんですよ。
以前、すごく煮詰まっていたときに「ちょっと外を歩かないと!」と思って歩き始めたんですけど、気がついたらすっごく遠いところまで歩いていて。帰る道も覚えていなかったし、時間も遅かったのでどうしようかと……。
──その後、どうされたんですか?
電車で帰りました(笑)。そのときは、歩きながら仕事のことを考えたり、急にボーッとしたり、途中でベンチに座ったりして、気づいたら「こんなところ、来たことない!」って焦りました(苦笑)。でも、きっとあのときはそういう時間が必要だったんだなと思います。
時間がたって、演じた役のことがクリアに見える
──今年公開された映画で言うと『エゴイスト』も『レジェンド&バタフライ』も素晴らしかったです。作品を通していろいろなことを経験されたと思いますが、一作、一役が今の宮沢さんにとってどんなものになっていますか?
どちらも2年くらい前に撮った作品なので過去の自分ではあるのですが、いろいろ忙しくさせていただいていると、ついそのときに感じたことを忘れてしまうんですよね。だけど、こうして作品についてのインタビューを受けていると、一瞬でそのときのことを思い出せるんです。
「精神状態がだいぶ変わったな」とか、「物事の感じ方や考え方が変わったな」ということを、意外とこういうタイミングで思い出すんですよね。それに、今こうやっていろいろお話ししていますけど、当時の自分はここまで感じ取れていなかったと思います。その瞬間を一生懸命にやっているから、感じ取れていたとしても他のことで埋もれてしまっていたので、2年という時を経て、やっとその作品の本質や自分が演じた人物がはっきりとクリアに見えている気がします。
──『はざまに生きる、春』を含め、今年公開の3作だけでもそれぞれ役の振り幅がすごいなと感じましたが、役を生きているときは「楽しい」「面白い」「しんどい」などなど……どの感情が一番大きいですか。
今となっては「どの役も楽しかったな」って思えるんですけど、その当時は「キツい」が一番ですかね。どの現場でもそうですが、自分が演じたいもの、表現したいものがそのレベルまでに達してないと、フラストレーションが溜まることはあります。
ただ、今作の透のように発達障がいをもつ役や、『エゴイスト』の役もそうですけど、自分がちょっと間違った表現や演じ方をすることで誰かをとても傷つけてしまう、差別を助長してしまう可能性が十分ある役だったので、その責任感みたいなものに押し潰されそうになったこともありました。でも、作品が完成して公開されたら、自分の中にあった不安もすべて払拭された気がするんです。
フランス産のチーズは「いい意味で大雑把」
──では、恒例の「イケメンたちの意外なイチメン」のコーナーに移りたいと思います。以前、映画『エゴイスト』で共演された鈴木亮平さんからは「みたらし(だんご)は友達です」という名言(!)をいただきましたが、宮沢さんの「実はこれが好き」といったことやものがあれば、ぜひ教えてください。
亮平さん、みたらし好きだったんですか! それは知らなかったな。僕はそれで言うとチーズですかね。昨年の12月と今年の1月に仕事でパリに行ったとき、現地で売っていた真空パックのチーズを買ってきたんです。もともとチーズ好きなんですけど、向こうのチーズ専門店には100種類くらいあって、僕は特にハードタイプのものが好きなんですけど、ハードチーズも30種類ぐらいあったので、その中から気になったものを3種類ほど買ってきました。
──チーズには何かのせたり、アレンジを加えたりしますか?
基本はそのまま食べますが、カマンベールのようなちょっと柔らかいチーズも買ったときは、クラッカーにのせたり、溶かして野菜スティックにディップしたりして食べました。
──ハードタイプチーズの特にどんなところがお好きなのですか。
食感も好きだし、噛めば噛むほど味が出てくる感じですね。柔らかいチーズは口に入れた瞬間に香りがふわっと広がる感じがあるのですが、ハードタイプのものは噛んでいると口の中でどんどん味も香りもふくらんでいくところが好きなんですよ。あとは手が汚れないのもいいですね(笑)。お酒を飲みながら、少しずつスライスしたチーズを食べるのがすごく幸せな時間です。
──日本のチーズとフランスのチーズの一番の違いはどんなところに感じましたか?
フランスのほうがいい意味で大雑把かなと思います。味もちょっと雑味があって、塩の粒を噛んだような “ジャリ”っとした食感があるんですよ。日本のチーズは不純物みたいなものも全部取り除いた、純度の高いものを作っていることが多いと思うのですが、フランスはもう少し適当というか、布でこしたときに出るカスのようなものも残していて、そこが好きなんですよね。フランスのチーズは個性があるなと思います。
──私は昔からチーズ工房に行ってみたいなと思っているのですが、宮沢さんがチーズで知りたいことや興味があることは何かありますか。
僕も作っている工程を見てみたいので、チーズ工房に行ってみたいです。写真や映像でしか見たことがないのですが、チーズを発酵・熟成させる部屋みたいなところがあるじゃないですか。そこにいろいろなチーズがずらっと並んでいて、「〇月〇日に作り始めた」みたいなことが書いてあるのを、実際に自分の目で見てみたいです。
あと、あの部屋がいったいどんな匂いがするんだろう?って気になりますね。めっちゃ臭いのか、「あぁ、チーズのいい香り」って思えるのか(笑)。
アメリカの一大イベントメニューを手作り♪
──以前、宮沢さんのSNSで、手作りのチョコチップクッキーを撮影現場に持って行かれたという投稿を拝見しましたが、他によく作るものはありますか。
スイーツではないんですけど、この間友達が何人かうちに来たときに、「バッファローチキンウィング」という料理を作りました。素揚げやグリルした手羽先を、スパイスの効いた甘辛いソースで味付けしたアメリカでは定番のメニューなのですが、向こうでは「スーパーボウル」というアメリカンフットボールの一番大きな試合があって、その日にみんな食べる恒例のチキン料理なんです。それを作ってみようと思い、パプリカの粉やガーリックパウダー、アメリカで買ってきたスパイシーソースも混ぜて、オーブンでカリカリになるまで焼きました。
──聞いているだけでおいしそうですね! 作り方はどうやって知ったのですか?
ネットでレシピを調べました。でも、ガーリックパウダーって日本はあまり売ってないんですよ。なので、そのときはすりおろした玉ねぎを加えて、ちょっと自己流にアレンジしてみました。
基本的に「バッファローウィング」は家で作るものじゃなく、出前するかお店に食べに行くものなので、それを自分で作れたっていうのは結構達成感がありましたね。
──「バッファローウィング」は行事食やイベントメニューのようなものなんですね。
そうなんです。それに一人で食べるものではないので、そのときはちょうど友達が来たタイミングでもあったから一から作ってみたいなと思って。みんなで食べるからおいしいものってあるんじゃないですか。この「バッファローウィング」は、まさにそういう食べ物なんです。
(取材・文/根津香菜子、編集/福アニー、撮影/junko、ヘアメイク/吉田太郎(W)、スタイリスト/庄将司)
【Profile】
●宮沢氷魚(みやざわ・ひお)
1994年4月24日生まれ、アメリカ・サンフラシスコ出身。2015年に、第30回『MEN’S NON-NO』専属モデルオーディションでグランプリを受賞しモデルデビュー。17年にTVドラマ『コウノドリ』で本格的に俳優デビューを果たす。その後も数多くの映画やドラマに出演し、映画『エゴイスト』(23年)で第16回アジア・フィルム・アワード最優秀助演男優賞を受賞した。6月から始まる舞台『パラサイト』に出演。
【Information】
●映画『はざまに生きる、春』
監督、脚本:葛里華
出演:宮沢氷魚、小西桜子、細田善彦、平井亜門、葉丸あすか、芦那すみれ、田中穂先、鈴木浩文、タカハシシンノスケ、椎名香織、黒川大聖、斉藤千穂、小倉百代、渡辺潤、ボブ鈴木、戸田昌宏
公開日:2023年5月26日(金)
(C)2022「はざまに生きる、春」製作委員会