ゴキブリの生態を探ってきた旅もいよいよ最終話。これまでゴキブリが脱皮を繰り返すことや飢えれば共食いもすること、退治のコツなどをお聞きしてきましたが、シリーズ最終話では、“ゴキブリは本当に嫌なやつなのか”をアース製薬で虫の飼育を担当されている有吉立さんと学術研究課の野村拓志さんに伺います。
◎第2回:【Gの生態#2】ゴキブリの食生活「食べたことのないものを食べたがる」「紙をかじっていたことも」
◎第3回:【Gの生態#3】ゴキブリ退治の基本は待ち伏せ!後ずさりできない習性を利用する
フムフムな発見11:日本のゴキブリ研究は新しいフェーズに入った!
──ご同席いただいた野村さんに伺います。新種のゴキブリが増えているというのは本当ですか?
野村「私は学術研究課に所属していて、最新の学術情報を調査しています。いま言われたように、日本ではゴキブリの種類が増えています。これが日本のゴキブリ界で一番ホットな話題ですね」
──新種が次々に発見されているのですか?
野村「いえ、いきなり現れたわけではなく、もともと日本に生息していたけれど、誰も名前をつけていなかったゴキブリに名前がつけられているんです。
静岡県磐田市には『竜洋昆虫自然観察公園』という昆虫公園があるのですが、そこにお勤めの方などの研究で、3~4年のあいだに新種が4種類ぐらい増えました。まだこんなにもゴキブリの種類があるんだなと、胸が熱くなりましたね」
有吉「野村は私と違って、昆虫大好き人間で、大学でも虫の研究をしていたんですよ」
野村「でも、社内では少数派です。虫が好きでこの会社に入ったのに、研究所でも虫は嫌いだと言う人ばかりでした」
──意外ですね。でも新種が発見されるということは、日本のゴキブリ研究は新しいフェーズに入ったということでしょうか。
野村「そうですね。その点では期待できると思います。害虫駆除剤などの研究者が虫嫌いというのも考え方としてはありで、虫が苦手だったり嫌いな人だったりしたほうが、嫌いだからこそ絶対に退治する商品を開発してやるという気持ちになるのではないでしょうか。私のような虫好きだと、ついつい昆虫を守る発想になりがちなので」
フムフムな発見12:駆除しなくてもいいゴキブリがいる
──有吉さんは研究用のさまざまな虫の飼育を担当されているわけですが、どのような苦労がありますか?
「生物飼育室では、ゴキブリの他に100種類以上の虫を飼育しています。最初はおっかなびっくりでしたけど、もう20年もやっているのですっかり慣れました。研究棟には“虫がいる”という前提があるので気にならないんですが、不思議なもので、自宅でゴキブリが出たりするといまだにビックリしちゃうんですよね」
──飼育をしていると、ゴキブリに愛着が湧いたりするんですか?
「ここではネズミみたいにチュウチュウ鳴く変わったゴキブリや、ペットとして飼われるゴキブリなども飼育しています。クロゴキブリやチャバネゴキブリは繁殖力が強く、食欲旺盛でなんでも食べますが、変わり種のゴキブリは繁殖が難しいんです。
今ではブリーダー飼育(繁殖用に育てること)の方法もわかりましたけど、熟す前の青いバナナのような色をしたグリーンバナナローチや、テントウムシみたいに丸くて、羽の部分に白い“?マーク”のような模様のついたクエスチョンマークローチという種類のゴキブリを繁殖させるのは難しかったですね。
クロゴキブリなら産卵から40~50日もすれば幼虫が出てきます。でもクエスチョンマークローチは孵化(ふか)するまでに数か月もかかるんですよ。当時は資料もなかったので成虫を死なせてしまったり、本当に卵鞘(らんしょう)がかえるのかなと心配しながら飼育していました。
育てるのが難しい虫のブリーダー飼育ができたら喜びを感じます。そういった意味では、愛着が湧くと言っていいのかもしれません」
──有吉さんも、社内では“本当は虫が苦手派”ですか?
「はい。わたしも虫が大嫌いで、虫の飼育を担当するまでは虫という虫を受け付けませんでした。でも、虫の飼育をするようになってからは、ムカデのように毒を持っていたり、ゴキブリのように食中毒の原因になったりするなど、何らかの害があるから注意しなければならない虫と、放っておいてもいい虫の区別ができるようになりました。
日本にはゴキブリが63種類いますが、家の中に侵入してくるチャバネゴキブリやクロゴキブリのような“わたしたちの生活に害を及ぼすゴキブリ”は駆除してもいいと思っています。
それ以外の、屋外にいる新種のゴキブリなどは“路上の分解者”の役割を果たしてくれるので、無理して駆除しなくてもいいのではないかと思っています」
──路上の分解者?
「生物の死骸や排せつ物を分解し、有機物を無機物に戻してくれるゴキブリたちです。そういったゴキブリは無機物を多く含んだ“栄養豊かな土壌”を作ってくれるので、生態系でとても重要な役割を担っています。だから、すべてのゴキブリが“害虫”というわけではないんです」
有吉さんが話していたように、日本には63種類ものゴキブリが生息しています。その中で、人間に害を及ぼすゴキブリはたった4~5種類だそうです。でも、その4~5種類のゴキブリがバイ菌やサルモネラ菌を運んできて、食中毒の原因になったりするんですね(第1回参照)。不衛生なゴキブリを家の中に侵入させないように心がけ、室内で見かけたら今回学んだ方法で退治するようにしましょう。
(取材・文/久保弘毅)