昨年末はコロナ感染者数も激減し、たまったストレスを忘年会で解消した人も多いはず。年が明ければ明けたで新年会があって、これまた飲む機会だらけ。どうせ好きなお酒を楽しむなら、身体にいい飲み方をしたほうがいい。肝臓専門医の栗原毅先生が提言するのは、「休肝日不要」で「人生最後の日までお酒を楽しむ」ためのお酒との付き合い方だ。
生ビールとポテサラは肝臓にWパンチ
居酒屋に行って、“とりあえず生ビール”を頼む人は多い。でも、それはNG。大量のビールが空っぽの胃腸に流れ込むと、アルコールが一気に吸収され、肝臓に負担がかかるのだ。
「500mlの生ビールは20グラムのアルコールを含んでいますから、肝臓はフル稼働で働かなければならない。そんな肝臓に追い打ちをかけるのが、ダメなつまみ。“生ビールとポテサラ”はよくあるオーダーですが、これがいけません。
サラダといえば健康的なイメージですが、じゃがいもに含まれるデンプンは糖質たっぷり。肝臓は糖質を分解・代謝するために、さらに稼働しなければならない。すきっ腹に生ビールとポテサラを流し込むのは、無防備な肝臓に先制ワンツーパンチを浴びせているようなものなのです」(栗原先生、以下同)
ビールをノンアルコールビールで割る
とはいえ“とりあえず生”の誘惑は強いけど……。
「最初の一杯をビールにしたいなら、ジョッキではなく、瓶ビールを頼んでください。小さなグラスで飲むことで一気にアルコールが流し込まれるのを防げますし、手酌で飲めば自分のペースも守れる。
家で飲むときなら、ノンアルコールビールで本物のビールを割って、ハーフ&ハーフにするのも手です。700mlのビールを飲んだ気分になれるうえに、アルコールの摂取量は半分。これはぜひ試してみてください」
つまみも糖質オフ、糖質控えめ
“とりあえず”のつまみはポテサラではなく、タンパク質と食物繊維を含むものが正解。
「具体的には、枝豆、冷ややっこ、卵焼き、きんぴらごぼうや焼き魚です。油類も胃にとどまってアルコールの吸収を遅くしますから、鶏のから揚げ、オリーブオイルのかかったカルパッチョなどもオススメです。ポテトサラダはポテトがNGなので、油を使っていてもフライドポテトなどはもちろんダメですよ!」
アルコール分解がスムーズにいかなくなる糖質の多いメニューはすべてアウト。だが、そんなものに限って魅惑的なものが多いのが悲しい。フライドポテトだって、居酒屋での飲み会の大定番メニューだろうに……!
「悪酔いしてしまい、身体に負担がかかるのです。ほかに居酒屋メニューで糖質が多いのは、マカロニサラダ、焼きそば、チヂミ、たこ焼きなど。最近は、糖質ゼロやオフをうたうお酒もありますが、つまみも糖質オフ、糖質控えめを意識することが重要です。スナックやバーの定番、フルーツの盛り合わせといったものも注意です」
おしゃれに、フルーツをつまみにウイスキーやブランデーを飲むのは、生ビールとポテサラの組み合わせ同様、アルコールと糖質による肝臓へのW攻撃になるのだ。
休肝日ではなく週単位でアルコール量を管理
「患者さんから聞いた話ですが、その方のお父さんは、成人してから毎日1合、常温の日本酒を飲むのを習慣にしていたそうです。92歳のある日、“今日の晩酌はやめておこう”と言って眠った翌朝、大往生を遂げていたというのです。
70年近く晩酌を欠かさなかったお父さんにとって、1合の日本酒は良薬だったのでしょう。事実、“適量のお酒は健康にいい”という研究結果が、米国保健科学協議会(ACSH)によって発表されています」
1日の飲酒量と死亡率の相関関係を見ると、まったくアルコールを飲まない人に比べて、適度の飲酒を習慣にする人は死亡率が下がり、一方で飲みすぎの人は死亡率が上昇することが明らか。これはそのグラフの形状から「Jカーブ効果」と呼ばれている。
「週に1回は休肝日とも言われますが、休肝日の翌日に飲みすぎては意味がない。週単位で摂取したアルコール量を管理するのが合理的でしょう。私は、1日20~40グラム、週140~280グラムまでが許容範囲と考えています。
無論、高血圧や糖尿病などのリスクを抱えている場合は少量のアルコールでもマイナス因子となるのを忘れてはいけません」
ストロング系は絶対NG
“適量のお酒は百薬の長”、“毎日飲んで大往生”とは、のんべえにとって朗報だが、栗原先生いわく、すべてのアルコールが薬になるわけではない。
「最近流行(はや)っているストロング系の缶チューハイは絶対にオススメできません」
ストロング系缶チューハイは高アルコール度数で人気だが、アルコール度数9%のストロング缶(350ml)の純アルコール量は36グラムあり、これはアルコール度数43%のウイスキーロック(30ml)約3.5杯分だ。テキーラのショットに換算すると約4杯分に相当する。
「さらに、単糖類の果汁とコーンシロップが加えられていますから、体内での分解・吸収の速度が速く、血糖値が急上昇しやすいため、肥満の原因になります」
チューハイ類は甘くて飲みやすく女性にも人気だが、甘い酒は果糖や甘味料が入っているし、飲み口がよくてどれだけのアルコールを摂取したか自分でわかりにくい。
乙類焼酎を自分で割って飲む アルコールと同量の水を飲む
「いちばんよいのは、自分でお湯割りや水割りを作って飲むこと。その際は、乙類焼酎を選んでください。米・芋・大麦などの原料を麹で発酵させて蒸留した乙類焼酎は、風味豊かで作り手の個性も感じられます。
一方、居酒屋のチューハイや缶チューハイで利用されているのは、甲類焼酎。原料は特定されておらず、いろいろな雑穀でエタノールを生成し、それを水で薄めて製品化するため、低コストで大量生産できるのです」
ストロング缶の原材料であるウオツカも、同様に低コストで生産されたアルコール。
「私の患者さんにも、ストロング缶を飲んで意識をなくした人や、転倒してケガをした人がいます。安くて早く酔えるからという理由で、お酒を選ばないでください。
そして、飲酒時には、必ずアルコールと同量の水を飲むのを心がけましょう。アルコールは利尿作用がありますから、水を飲むことで脱水症状を防ぎ、肝機能を助けます。本来、お酒は味わって楽しむものだと忘れないでください」
(取材・文/ガンガーラ田津美)
《PROFILE》
栗原毅 ◎1951年生まれ。北里大学医学部卒業、医学博士。慶應義塾大学大学院教授、東京女子医科大学教授を歴任。日本肝臓学会専門医、日本内科学会認定医等。現在、栗原クリニック東京・日本橋院長。『セルフ・メディカ 予防と健康の事典』、『禁酒しないでγ-GTPを下げる本』ほか著書多数。