かつての大人気番組、『アメリカ横断ウルトラクイズ』(以下、ウルトラクイズ)。その第10回大会(1986年)で、決勝まで行かせていただいた私の体験から、前回、前々回と、いわゆる「体力クイズ」のチェックポイントでの裏話を紹介しました。
○準優勝者が語る、想像を絶する「マラソンクイズ」の過酷な事情
○絶体絶命! 本番中に思わず「カメラを止めて!」と言いそうになった「砂地獄早押しクイズ」
今回は、いわば「体力クイズ裏話三部作」(三部作だったのか!)の締めくくり。私が参加した第10回大会で、“もっともキツかった体力クイズ”についての裏話です。
体力的にもっともキツかったクイズ形式は、「バラマキクイズ」!
ウルトラクイズの旅から帰国し、放送も終了したころ、周りからこんな質問をよくされました。
「実際にやってみて、体力的にもっともキツかったクイズ形式はどれだったの?」
はい。引っ張らずにズバリお答えしましょう。
私個人の感想ですが、体力面で圧倒的にキツかったのは「バラマキクイズ」でした。
ご存じない方のために説明しましょう。
「バラマキクイズ」とは、離れた場所(ときには砂漠や平原など、広大な土地の一角)にバラまかれたクイズの問題が入った封筒を、挑戦者がスタート地点から一斉に走って取りに行き、1通を拾って福留功男さん(以下、留さん)の元に戻り、早く戻った順に解答するというルール。
第10回大会では、2問正解で勝ち抜け。封筒の何パーセントかは、中にクイズ問題が入っていない代わりに「ハズレ」と書かれたカードが入っていて、これが出たときには、司会の留さんが、それをチャレンジャーに見せて、「これをなんと読む!」と言うのが恒例でした。
ウルトラクイズでは早くも第3回大会(1979年)で初登場した定番のルールで、以後、最後の第16回大会まで毎回登場した、番組を代表するクイズ形式のひとつです。
もちろん、かつての私は、「ウルトラクイズに行くことができたら、絶対にバラマキクイズをやってみたい」と憧れていました。
しかし……。
実際にやってみると、数ある体力クイズの中にあって、ダントツで「キツいルール」だったのです。
作戦があだに……。「ハズレカード」連発で大ピンチに!
スタート地点からクイズ問題入りの封筒までの距離はどれくらいだったのか?
いまでは正確にはわかりませんが、オンエアされた映像などを見ると、150メートルから200メートルくらいでしょうか。仮にそうなら、行って戻ってくるだけで300メートルから400メートル。
これはキツいわけです……。
本番のとき、私が考えた作戦は“最初に全力疾走して、ひとりでも上の順位に入ること”でした。そうすれば2順目からは、ほぼ最初に並んだ順番でクイズの解答権を得られると考えたのです。まあ、いまにして思えば、これが大きな間違いでした。
なぜなら私は、最初の行き帰りの全力疾走だけで足にダメージを受けてしまったのです。しかも、最初に選んだ封筒に入っていたのは、あろうことか「ハズレカード」! 作戦大失敗! 全力疾走がまったくの「無駄走り」になってしまいました。
全力疾走で、はるかかなたの封筒まで走り、またも全力疾走で戻る私。すでに息はゼイゼイです。
ところが……。
私が持ってきた封筒から出てきたのは、またしても「ハズレカード」! の……呪われているのか!?
オンエアを見直すと、一度拾った封筒を、首をひねって捨て、別の封筒を拾う私の姿が映っています。拾った封筒に「ハズレカード」が入っているような気がして、選び直したのですね(どうせ中身はわからないのに……)。
その後、やっと1問正解したものの、次に選んだ封筒もハズレ。そのころにはもう、他の解答者を待つ間すら、じっと立っていられないほど足が痛くなっていました。
覚えているのは、痛くなった足を引きずりながら全力疾走していたら、スタッフのひとりが近づいてきて、こう言ってくれたことです。
「西沢さん、マイペースで! 無理しないでいいから!」
たぶん、番組スタッフには、私がいまにもその場に倒れて「帰らぬ人」になってしまいそうに見えたのでしょう。そうなったら番組は終わりですから、見かねて声をかけてくれたのですね。
でも、こっちとしては、「そんなこと言われても、モタモタしてたら負けちゃうんだよ~」です。
「問題、パリにあるのは凱旋門。では、沖縄の那覇にある首里城の第二の門といえば?」
この問題に「守礼の門」と正解して、ようやく勝ち抜くことができました。
記憶では、たぶんバスレを3回くらい引き、誤答するなどして少なくとも6回は往復したように思いますが、疲れすぎて細かな記憶が飛んでいます。
このバラマキクイズでは、この大会の優勝者でありクイズの強豪、森田敬和さんが「鯉こく(鯉を使った料理)」と答えるべきところを「鯉口(こいぐち/日本刀のさやの口の部分のこと)」と誤答する場面もありました。
人間、疲労すると、わかっていても言い間違えたり、思い出せなくなったりするのです。私も一瞬、守礼の門が出てこなくなりそうでしたから、よくわかります。
そんなわけで私は、当時の太りぎみの重い身体を引きずりながらも、「マラソンクイズ」「砂地獄早押しクイズ」「バラマキクイズ」という、第10回大会の鬼門、「体力クイズ」をなんとか勝抜けることができたのです。
(文/西沢泰生)
【PROFILE】
西沢泰生(にしざわ・やすお) 2012年、会社員時代に『壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方』(アスコム)で作家デビュー。現在は作家として独立。主な著書『夜、眠る前に読むと心が「ほっ」とする50の物語』(三笠書房)『コーヒーと楽しむ 心が「ホッと」温まる50の物語』(PHP文庫)他。趣味のクイズでは「アタック25」優勝、「第10回アメリカ横断ウルトラクイズ」準優勝など。