酒の席でいちばん盛り上がるのは、もしかしたら他人の恋愛話かもしれません。顔を突き合わせて語りづらいコロナ禍で、誰かに聞いてもらいたい心の悩みを語り合うこの企画。
今回も、恋愛指南本も多数執筆されている文筆家でAV監督の二村ヒトシさんに、読者から寄せられた相談をたっぷりと聞いていただきました。10年以上彼氏がいないという30代独身女性の本音をお届けします。
*今回のゲスト*
山口春美さん(仮名)
東京都在住の34歳。清涼飲料水製造メーカーでマーケティングを担当。最後に彼氏がいたのは12年前。それ以降は短期間の恋愛を繰り返し、結婚したいと思えるような相手とは出会えずに現在に至る。
(春美さんが1か月で浮気されてフラれたという、10歳以上年下の男子との“火遊び”から始まった恋については#3で語っていただきました→【二村ヒトシの恋愛相談#3】10歳以上年下にハマった30代独身女性につきつけられた「猛アタックする男」に共通する“習性”)
「元カレを超える人がいない」は自分が作り出してしまった“信念”
──12年前につきあった彼氏はどんなタイプでしたか?
春美「イケメンとまではいかないものの、見た目がよくて、男友達からも人望があって。普通に働いてて仕事にもまじめだったし、浮気もしそうにないタイプでした。私のことをすごく大事にしてくれていたし、“いつか結婚しようね”っていう雰囲気だったけれど、こっちも若かったから“もっと他にいい人がいるかも……”って、私が心変わりしてしまったんです」
二村「それで春美さんが浮気しちゃった? 」
春美「いえ。そのとき気になっちゃった他の男性とは、結局何もなかったんですけど。その気持ちを彼に知られて“だったら別れよう”って言われました。でも心のどこかで、別れてもいつかヨリを戻せると思っていたんです。そしたら何年後かに別の人と結婚したっていう話を聞いてしまって……。そこで大泣きを経験して、“人生が終わった”って思いましたね。今は人生が第2ラウンドみたいな感じで、非現実的な恋を繰り返してしまうんです。そんなに悲観してはいないんですけれど」
二村「春美さんは、まあ、ポジティブっちゃポジティブだからいいですよね」
春美「でもライトな恋愛をしているときはいいけれど、いざ結婚のことを考えると、この先ちゃんとした人と出会えるのかなって不安になります」
二村「とはいえ、結婚はしなきゃいけない、と焦ってもいないですよね」
春美「このままひとりでもいいかなって思ったりもしますね」
二村「春美さんに未だに影響を及ぼしていると思うんで、つらかった12年前の恋愛に心の中でちゃんとケリをつけておいたほうがいいんじゃないですか」
春美「思い出は更新したいんですけど、その元カレほどの男性って、この年齢になると現れないんですよ」
二村「そんなに好きだった相手に、どうして別の人が気になってるってバレちゃったの? 」
春美「心境の変化はちゃんと報告しなきゃって思って、自分から言っちゃったんです。“ほかに気になる人ができちゃったかも”って」
──恋愛でいう”駆け引き”をしてみたいって、魔がさしたのかもしれないですね。
二村「正直すぎるでしょって言うべきか、そんな試し行動をしてもロクなことにならないですよって言うべきか……。それ、先ほどお話しいただいた10歳以上年下の彼が春美さんに対してやったことと、同じと言えば同じですね」
春美「あっ……」
二村「それで別れることになって、当時、後悔しましたか? 」
春美「後悔もしたけど、あのまま彼と結婚していたら、安定するけど刺激の少ない人生を歩んでいたかと思うと、それはそれでちょっと違ったなって感じてもいるんですよ」
二村「結局どっちが正解だったかなんて死ぬまでわからないものなんですけど、感情は宙ぶらりんていうか、左右に引き裂かれていますよね。春美さんの中で、結婚相手としてその元カレを超える男はいないって思い込んでいるのは、それはある種の“信念”でしょ? 信念ってその人の行動原理の元なんだけど、客観的に見ると、こう言っちゃなんだけど必要ない信念、むしろ本人を不幸にする信念にとらわれて苦しんでる人もいる」
春美「そうなんですよ! だから、信念にとらわれず、いつかまた誰かとガッツリつきあってみなきゃいけないって思っているんです」
二村「それもまた春美さんのもうひとつの信念なのか、それとも春美さんの欲望なのか。つきあわなきゃ“いけない”って言葉になるところが信念くさいですけど……。人間関係なんて本当に絶対なことなんてなくて、それぞれの人の信念や考えかたの癖(くせ)がぶつかったり融和したりしてるだけです。どんなことでも“絶対に”って言いだしたら、それはただの信念でしょ。信念を抱いてしまうことには必ずその人なりの理由があるので、“なぜ私はそう思い込んでいるんだろう”って自分自身を研究すると、楽しいですよ」
春美「でも、特にトラウマになるような思い出とかはないんですよね」
二村「親から虐待された経験が原因で“私は〇〇をしないと誰からも愛されない”みたいな強固でつらい信念を持たされてしまう人もいる。そういう“間違った信念”は、時間をかけて友人や医療の力を借りてリセットしていったほうがいい。春美さんの場合はそこまでじゃないけど、12年前の恋愛がきっかけで持ってしまった信念を、書き換えるために恋愛をしてるようにも思うんですけど……」
春美「そうですよね。元カレを超える人はいないと思いつつも、元カレとあのまま結婚していたよりも今のほうが、人間的には成長しているはずとも感じますし」
二村「たしかに最初の元カレさんとうまくいっていたら、人生が物足りなかったかもしれませんね。いまの春美さんは、女慣れしていて、どこか寂しさを感じさせる男に惹かれやすい。男のほうが“心の穴”が深くて、それを埋めてあげたいって女性に思わせるタイプの。今回の若い彼が典型だけど、まあ彼らはあまり結婚には向いてないですよね。春美さんが、気持ちを振り回されてご飯が食べられなくなったりすることまで含めて恋愛の醍醐味だと思ってエンジョイできるなら、彼らはそれには適した相手なんですけど。
もしかしたら無意識のうちに、恋愛ゲームで自分が傷つくことで、過去の大切な彼を傷つけちゃった自分を罰してるってことなのかな。あるいは逆に、ゲームの相手を真剣にさせて春美さんのほうを向かせることができれば12年前を乗り越えられるって感じてるのか。そっちはなかなか難しいと思いますけど……。どっちにせよ、過去にとらわれてるんじゃないでしょうか」
つきあう相手とは「対話」が必要。“恋愛ごっこ”で終わらないためには
春美「じゃあ、次はどんな人とつきあえば、いい恋愛ができますか? 」
二村「いい恋愛とはどんな恋愛かって、これはあくまでも僕の主観ですけど、春美さん自身についての本質的な話をちゃんとできる相手がいいんじゃないですか。“私って、これこれこういう人間なんだけど、何なんだろう?”みたいな。春美さんって今まで、好きだった男に自分の弱みって見せてきましたか?」
春美「言わなくていいかなって思って、見せなかったかも。愚痴(ぐち)っぽくなっちゃうのが嫌なので。あと、仕事で抱えたストレスを全部浴びせた結果、相手がくたびれちゃってフラれた、みたいなことも過去にあったので(笑)」
二村「ちゃんと話すっていうのは、相手を愚痴のはけ口にするっていうのとはちょっと違うんです。人間って同じ仕事で同じつらい目にあってても、同じように傷つくとは限らなくて、一人ひとりストレスの感じ方は異なるでしょ。自分がどういった状況に弱いかとか、何が好きで何によって元気になるのかって、言葉にしてみないと自分でもわかってなかったりするじゃないですか。アドバイスとかは求めなくていい、壁打ちの相手になってもらうだけでいい。それで春美さんをコントロールしようとはしてこない、ただ壁打ちにつきあってくれる相手。“この人とつきあおう”って決めた人とは、そういうことを共有して互いのストレスのもとを理解するために、裸でくっつきながらそういう話をするといいですよ。恋人とすることはセックスやデートだけじゃないからね」
春美「今まで、できていなかったかもしれない……」
二村「“あなたのことを好き”って言い合うのは、これは会話ですよね。でも会話じゃなくて対話っていうのは、お互いが話をして話を聞いてもらうことで、お互いが自然に変わっていくことです。それで自分が大きく変化しちゃって結果的に相手を好きじゃなくなる場合もあるから危険もはらんでいるけれど、やっぱり対話はしたほうがいい。そうじゃないとゲームというか、恋愛ごっこで終わってしまうから」
春美「思えばこの前の年下君とは、言葉のキャッチボールができていなかった。彼はたぶん、私の話をつまらないなと思っているだろうなっていうのが伝わってきたんです」
二村「それは彼が、自分を守ってるガンコな人だからですね。一方、春美さんは面白い話術がある魅力的な人だと思うんだけど……、恋愛の相手にとなると、けっこうガンコになっちゃうのかな」
春美「(笑)。そうなんです! 自分でもわかっているんですけれど」
二村「でも、それってしんどいし、自分が面倒くさくないですか。自分の何かを守るために人間はガンコになるんだけど、それにもそろそろ飽きてきませんか?」
春美「えー。どうやったらガンコじゃなくなりますかね? 」
二村「あなたの心が柔らかくなれる男性とつきあえるといいですよねえ。自然と、素や弱みを見せられるような」
春美「それが難しいんですよ」
二村「嫌われちゃうって思うのかな。でも、そういう恋愛ができたら春美さん自身がもっと生きやすくなるんじゃないかな。つまり“恋愛ごっこ”じゃないことを一緒にできる相手と出会えるかどうか」
春美「どうやって出会うんですか? ずっとまともな恋愛をしていないので、そういうアンテナが壊れちゃっているのかも(笑)。みんなが“あいつは、まともだ”っていう相手だと、いい会社に勤めているとか、いい旦那さんになりそうとかいうタイプで、つまらないんですよ」
二村「最初の彼がまともすぎたっていう信念が捨てられないのも、春美さんのガンコさですよね。それは思い出補正であって、彼にもまともじゃない部分はあったはずなんだけど。でも同時に、その彼と20代前半で結婚しちゃってたら今みたいな楽しい独身ライフがなかったし、こんなに充実してたかどうかわからないとも思ってるっておっしゃってましたよね」
春美「そうなんです 」
二村「お酒を飲んで人と話すのが好きなのはとてもいいことだし、コミュ力もある春美さんだから、40歳になっても50歳になっても必要であれば恋愛はできてると思いますよ」
人間が恋愛をするのはきっと、「自分のことを知るため」
春美「ただ、このままひとりで生きていけるか、ちょっと不安だし。よさげな人に出会っても、ビジュアルが好みじゃないことも多いんです」
二村「どうしたらいいんだろうね(笑)。春美さん、“安全な男はビジュアルがダメ”っていう信念を持ってしまっている可能性もありますか?」
春美「そうかもしれないです。実は私、誰かと恋愛したりつきあったりしているときの自分のこと、あまり好きじゃないんです。彼氏っぽい人がいないときの自分はカラッとしてるのに、そうじゃなくなるから……。だから恋愛してると“本来の自分に戻りたい”っていつも思うんです。そう考えると、誰にも心を縛られていない今が、いちばんコンディションがいいんですよ(笑)」
二村「その状態でいるためには、恋愛に多くを求めるのをやめて、ウエットな関係にはならないような男とさっさと結婚をしちゃうべきなのかな。性的に興奮はしないけれど、“いい奴だな”って思える友人で、結婚できそうな人っていませんか?」
春美「それって、結婚っていうよりパートナーですよね。でも、つまらない人と一緒にいるよりもダメな面白いクズと恋愛して、それを飲みながら友人との笑い話にしたい気持ちもあるんです」
二村「お友達に失敗を報告して、ウケたいわけですよね。じゃあやっぱりそのままでいいんじゃないですか。みんなを楽しませて生きていく」
春美「周りを元気にできるおばあちゃんになりたいなって思っているんですけれど(笑)。でも、34歳で20歳とつきあってフラれるって、見方によっては痛い話ですよね……」
二村「春美さんにとって大事だった12年前の元カレみたいなまじめな男、ほかにもいると思うんですよ。ただ、あなたが元カレを美化しすぎていて、もし彼と同じような男が近くにいても、つまらない男だって思っちゃっているのでは」
春美「なるほど……。ありえるかもしれません」
二村「恋愛が好きな女性はいつまでもドキドキを求めればいいのだけれど、春美さんは恋愛をしてると自分のパフォーマンスが落ちてつまらなくなるっていう自覚があるのは、すばらしいことですよね。しかし今回はもう人生相談っていうより、春美さんの面白い堂々巡りの話をただ聞いてる感じだよね(笑)。何か答えを求めているわけではないと思うから、俺がとやかく言うことはないんじゃないかな」
春美「私はどうしたらいいんですかね(笑)」
二村「みっともなくない自分、自分で嫌いじゃない自分のままで恋愛もしたいんだったら、さっき言ったように恋愛の初期に、お互いの大事な話をしたほうがいい。そうすれば相手がどういう人間なのかってある程度わかる。恋愛ごっこではできない話をしたほうがいいんですよ。でもなあ、みっともないのが恋だからなあ……」
春美「年下君が私にしてきたような、相手の弱みを聞いてあげるのだけではダメなんですか」
二村「それは対話じゃなくて“甘やかし”でしょ。あなたのほうも相手に弱みを見せられるようになれるといいかと。一方通行だとよくない。しかも年下君の場合は、きっとそれが彼の話芸みたいになっていたでしょ。モテる男は、そのときのリアルな心境を話しているんじゃなくて、そういう“自分の心の穴”の話をするとモテるって自分でもわかっているんです。春美さんもそれに乗りたくて乗っかっちゃったんでしょ」
春美「はい(笑)。自分だけに話してくれてると思っていました」
二村「いや、でもね、こういうふうに誰かの恋バナを聞いてると、やっぱり恋愛って面白いね。ちゃんと生身の人間に傷つけられて自分の考えてることが自分でわかるって、こんな面白いことなかなかないですよ。春美さんってウェットな自分に嫌悪感があるのに、エモさを求めてもいるんですよね。エモさってのは感情の揺れ動きのことです。だから最初からあなたを大事にしてくれる男だと物足りない。12年前の恋愛では“他の男が気になっている”って相手を刺激するような話を自分からしてしまった。でも過去の自分を振り返って、“あのときはそうせざるをえなかった”とも思ってる。
おせっかいな世の中からは、結婚できない女は幸せになれないって言われちゃうけど、大きなお世話でね。それを自分の信念にしちゃってる人も多いけど、独身は独身で楽しい人生ですよ」
春美「確かに、今の生活、仕事も友達にも恵まれてて不満はないし、楽しいんですよ」
二村「ただね、人間が恋愛を何のためにやっているかって考えたときに、自分のことを知るためにやっているんだと僕は思うんです。“恋愛ごっこ”をしたがっている相手だったら、男でも女でもいくらでもいる。でも自分と対話をしてくれる相手は希少だし、どこにいるのかわからない。意外と身近にいるかもしれない。まあ、“そういう恋愛もちょっとやってみようかな”とか思っていると、ふと出会えるもんですから。今回はなんか、あんまりお悩みに的確に答えられてなかったですが……」
──こちらも話を聞いていて楽しかったです。
二村「つらいときに話を聞いて笑ってくれる友人の存在は本当に大切だよね。春美さんが年下の彼を憎む気持ちがなくなったのも、お友達に話して、経験が物語化されてきたからでしょ。自分の話を否定せずお説教もせず過度な共感もせず聞いてくれる他人がいると、心も安定する。恨みを増幅させて被害者意識を持ち続けていても、いいことはないんですよ」
春美「支えてくれる友人たちに感謝して、これからも、お酒を飲みながら恋愛の失敗談をしていきたいと思います!」
*本日の二村格言*
「“あなたのことを好き”って言い合うのは、会話。でも対話っていうのは、お互いが話をして話を聞いてもらうことで、お互いが自然に変わっていくことです」
自分では気づけないことを言ってくれる二村さんの言葉。恋愛をすると、みんな自分を見失ってしまうのかもしれません。あなたも人にも言えないような悩みや不安を、そっと二村さんに話してみませんか?
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(取材・文/池守りぜね、監修/二村ヒトシ)
【PROFILE】
二村ヒトシ(にむら・ひとし) ◎1964年、六本木生まれ。慶應義塾幼稚舎卒、慶應義塾大学文学部中退。AV男優を経て、’97年からAV監督。現在では定番になっているエロの演出を数多く創案した。著書に『すべてはモテるためである』 『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(いずれもイースト・プレス)、共著に『オトコのカラダはキモチいい』(ダ・ヴィンチブックス)、『どうすれば愛しあえるの ──幸せな性愛のヒント──』(KKベストセラーズ)、『欲望会議』(角川ソフィア文庫)、『深夜、生命線をそっと足す』(マガジンハウス)など。
本人Twitter→@nimurahitoshi