端正な顔立ちと抜群のスタイル、彫刻のようなビジュアルを持つ、俳優でモデルの尚玄(しょうげん)さん。現在、主演映画『赦(ゆる)し』が公開中です。約20年の俳優歴を持つ尚玄さんの強みであり、特徴ともいえるのは、国際的な視点を持った行動。演技を学びにニューヨークに飛んだり、各国の映画祭に出席し海外の映画人と積極的に交流を図ったりするなど、興味深いエピソードにあふれています。リアリティーとコミュニケーションを重視する、尚玄さんの素顔に迫ります。
(尚玄さんが追い求める“リアリズム”についてや、最新出演作で共演するMEGUMIさんとの印象深い思い出は、インタビュー第1弾でじっくり語っていただきました→“リアリズム=芝居をしない”を追求する尚玄、主演作でMEGUMIと実践したストイックすぎる役づくり)
モデル業から芸能界へ。世界に羽ばたいてからもバックパッカーを続ける
──キャリアをさかのぼると、生まれ育った沖縄で高校時代まで過ごしたのですか?
「はい、高校卒業後、大学進学のために東京に行きました。上京してすぐにキャスティング関係者を紹介していただいたことをきっかけに、モデル事務所に所属しました。沖縄にいたころもローカル誌やファッションショーに出ることはありましたが、フリーでやっていました。東京に出て本格的に活動したかったので、大学の部活でバスケットボールに精を出すかたわら、まずはモデル業からスタート。雑誌の仕事が多く、ときどきファッションショーに出ていましたね。忙しくて充実した4年間を過ごしました」
──どんな風に俳優の道へ進みましたか?
「いつかは俳優を目指したいと思っていたんです。’04年ごろ映画『ハブと拳骨』のキャスティングで、沖縄出身の三線が弾ける人を探していると耳にしました。僕は三線を触ったこともなかったですが、もしその役を演じられるなら一生懸命やりますと関係者に伝えました。実際にすぐに三線を買い、練習も始めましたよ。結局、主演に抜てきされて、ニューヨークの映画祭に招待さ
──バックパッカーとして、世界を旅していた時期もあったそうですね。
「最初のバックパックは大学時代、俳優の丸山智己(まるやま・ともみ)さんと一緒にマレーシア・タイ・ミャンマーを回り、最高の時間を過ごしました。大学卒業後はモデルとしてヨーロッパに滞在していたので、旅費ができたら近くを周遊したりエジプトに行ったり。ずっとバックパックで旅していたんです」
──モデル時代、ヨーロッパではどんな風に暮らしていましたか?
「パリ・ミラノ・ロンドンをベースに行ったり来たりしながら2年間、モデル活動を続けました。島国の沖縄育ちなので、陸続きで他国に行けるのは夢のよう。いろんなところに行ってみたいと思いましたし、列車や飛行機のチケット代が安くて、気軽にバックパックの旅ができました。東京に戻ってきてからもコロナ禍になるまでバックパック旅行を続けていましたよ。1年に1回、行ったことのない国を訪ねると決めていましたから」
バックパック旅をエンジョイし、’22年は仕事でバルカン半島へ
──ファッションの聖地でモデルとして活躍し、俳優としても国際派。プライベートでも旅好きで、世界中を旅しているイメージですが、行きたい国がまだあるんですね(笑)。
「60か国くらいしか行っていないので、まだまだ(笑)。プライ
──今後も年1回、バックパック旅行を続けたいですか?
「可能であれば続けます。世界には美しい風景がたくさんあり、美
──仕事でもよく海外に行っているイメージがあります。
「そうですね、’22年はリム・カーワイ監督の作品でバルカン半島のセルビア・ボスニア・マケドニア・モンテネグロを回ってロードムービーを撮影しました」
海外の監督はディスカッションが積極的。映画祭で出会いの輪が広がることも
──作品も人とのかかわりも、国際的な行動がポリシーでしょうか?
「単純に好きなんです。そしてexperimental、つまり、実験的なことがすごく好きですね。自分の想像を超える経験ができますから。最近でいうとフィリピンのブリランテ・メンドーサ監督、インドのアンシュル・チョウハン監督、マレーシアのリム・カーワイ監督といった海外出身の監督たちの作品に出演してきましたが、国の違いを感じたり、ときには文化的な衝突があったりします。その中で監督と俳優という関係だけではなく、友人としての関係も築くことができ、つながりを感じます」
──俳優・尚玄ならではの強みですね。文化の違いから、想像もつかない何かが生まれる。例えばどんなことが日本と違いますか?
「日本も海外も、それぞれいいところはあります。大ざっぱにまとめると、僕がご一緒した海外の監督は、圧倒的にコミュニケーションを取ってくれました。物語や役をよりよくするためにディスカッションもたくさんしました。クリエイティブな場面では、ディスカッションは絶対に必要だと思うんです。“僕はこう思うけど、あなたはどう思う?”と、ケンカにならない程度に意見を言い合う。そこから新しいアイデアが生まれるので、僕は好きなんですよ。能動的に積極的に、自分のアイデアを伝えていきたいと思っています。日本人はたぶん、討論するなどのディスカッション面が弱いのでしょうね」
──海外作品に出演したり外国人監督や関係者に出会ったり。どんなアプローチをしていますか?
「僕がかかわっているのは商業的メインストリーム作品というより、映画祭に出品されるタイプが多く、数々の映画祭に出席する中でご縁に恵まれることがたびたびあります。映画祭は才能ある監督との出会いの場ですし、準備中の作品情報が耳に入ってきたりします」
尚玄さんにとって沖縄とは? 沖縄作品への出演にも意欲
──続いて故郷・沖縄について。沖縄県内で’22年11月に公開した映画『10ROOMS』(テンルームス/岸本司監督)は、現在もロングラン上映中で好評です。地元キャストと尚玄さんや加藤雅也さんが共演し、沖縄市に実在する「トリップショットホテルズ・コザ」の客室を舞台に展開。実は今、インタビュールームとしてステキなお部屋をお借りしています。沖縄発のエンタメ色豊かなオムニバス作品、見どころを教えてください。
「岸本司監督のデビュー作、『アコークロー』(’06年製作)から何本も出演しているので、長い付き合いです。今までは楽観的な男を演じることが多かったですが、『10ROOMS』は世間に不満を持ち、裏の顔がある男。深いメッセージがセリフに込められていて新鮮でした。群像劇を繰り広げる登場人物たちが交差していくところ、コメディーありシリアスさもあり、いろいろな味わいがあるところなど、見どころたっぷりの作品です。スタイリッシュな映像にも注目してください。ロケ地になった沖縄市(旧コザ市)の『トリップショットホテルズ・コザ』の客室は、そのまま映画のセットになる広くておしゃれな空間。那覇とは違う雰囲気の街なので、宿泊してコザの夜を楽しんでほしいです」
──岸本司監督作品はじめ多くの沖縄映画に出演し、母校や地元とのかかわりも大切にされていますね。尚玄さんにとって沖縄とは!? 最後に聞かせてください。
「僕のホームでありルーツ。帰ってくる場所は、僕には沖縄しかありません。世界を舞台に仕事をしたい気持ちのまま、沖縄を世界に広めていきたい思いも強く持っています。岸本司監督の沖縄を舞台にした作品にはお声がけいただく機会が多いですが、今後もさまざまな沖縄作品に参加していきたいです。沖縄は美しい自然や人々の魅力など、世界中に紹介したいステキなシーンが数多くあります。一方で、さまざまな社会問題も抱えています。映画を通して多くの人に“ありのままの沖縄”が伝えられるよう、努力していきたいです」
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優しい声でゆっくりと、言葉を選びながら素直な思いを届けてくれる尚玄さん。国際的な視野で海外のエッセンスを取り入れ、コミュニケーションを大切にしながら、自身が理想とする俳優の姿へと近づいていくのでしょう。今後の作品選びや活躍、そして訪問国は増えたのかなど、次にお会いして伺う機会が楽しみです。
(取材・文/饒波貴子、撮影/小橋川恵里奈、撮影協力/トリップショットホテルズ・コザ)
【PROFILE】
尚玄(しょうげん) ◎1978年生まれ、沖縄県出身。大学卒業後、バックパックで世界
監督・編集:アンシュル・チョウハン
出演:尚玄、MEGUMI、松浦りょう、生津徹、成海花音、藤森慎吾、真矢ミキ
製作プロダクション:KOWATANDA FILMS、YAMAN FILMS/配給:彩プロ
・公式サイト https://yurushi-movie.com
予告編 https://www.youtube.com/watch?v=gCXHTUFct3A
◎映画『10ROOMS』(2022年/日本)
監督・脚本:岸本司
出演:尚玄、ひがりゅうた、宮城夏鈴、中村映里子、加藤雅也ほか
制作・著作 ファンファーレ・ジャパン
・公式サイト https://10rooms-movie.com
・予告編 https://youtu.be/1huYHpagU00
・トリップショットホテルズ・コザ https://koza.tripshot-hotels.com