まさに見ればわかる、知っている人には説明不要の2人。その活動は多岐にわたる。プロインタビュアーとして、アイドルからレスラー、明石家さんまという大御所まで取材、インタビューをまとめた著書も多数ある吉田豪。ミュージシャン、ライター、DJに最近は結婚相談所まで、マルチな才能を見せる掟ポルシェ。
そんな吉田さんと掟さんが雑誌『CONTINUE』で行っているさまざまな著名人へのインタビュー連載「電池以下」が単行本化。『電池以下 吉田豪編』『電池以下 掟ポルシェ編』(ともに太田出版)の2冊が発売中で、昭和の大スターから令和の人気声優まで、知られざる衝撃的かつディープなエピソードを聞き出しています。
「サブカル」を軸に活動するおふたりに、仕事で心がけていること、インタビュー術などをお聞きしました!
仕事の目標は「現状維持」?
──サブカルの第一線で活躍するおふたりですが、先日、トークイベントで「サブカルで食べていくのは大変」というふうにおっしゃっていたのが印象的でした。実際にはどうなのでしょうか。
吉田:あれはイベントのテーマがサブカルだったから、そちらに寄せていっただけで、われわれからサブカルの話がしたい! って言ったわけじゃないからね……。
掟:肩書きって勝手に付けられるからね。その中でも「サブカル」って何をやっているか一番わかんないやつでしょ(笑)。
吉田:『TV Bros.』(東京ニュース通信社)に出ているのがサブカルっていうのも伝わらなくなっているからね。もはや『TV Bros.』は紙でも存在しなくなって、Webで生き残ってはいるけれどサブカルも何もないし。
──『TV Bros.』や『クイック・ジャパン』(太田出版)などに出るのが、サブカルにとってのスタータスだと感じていました。
吉田:今、『クイック・ジャパン』に出たいなら、芸人やYouTuberになるのが早いからね。
掟:昔は、雑誌で連載持ちたいがために偉い人と寝る、っていうのもない話じゃなくて(※ここで実際の事例が出たが生々しすぎるのでサックリ割愛)。サブカルってお金とか女とかわかりやすい欲望と遠いところにあると思ってたのに。すごいよね!
吉田:でも、意外とそういうこともあったね。ある雑誌では編集長が変わったとたんに、彼の好みで男性タレントの連載が一気に増えたりとかね。
──90年代はジャンルにかかわらずいろいろな雑誌で、ミュージシャンや文化人のような個性的な方たちが執筆していたように思います。
掟:そういえば、90年代のエロ本って読み物目当てだったりね。
吉田:エロ本がモノクロページで好きなことやっていたから。山塚アイとか電気グルーヴの連載が読みたかったら、『スーパー写真塾』(コアマガジン)みたいな時代もあった。
掟:あのころは全然エロページないでしょ。
吉田:いや『スパ写』はエロ本だったよ。
掟:お菓子系に毛の生えた程度ですよ? あれじゃ軽いでしょ。
吉田:掟さん的にはね(笑)。その後は雑誌自体が消滅するんだけど。
──以前、豪さんが仕事の目標を「現状維持」とおっしゃっていたのが印象的だったのですが、私も実際にフリーランスになってみて「現状維持」ほど難しいことはないと感じています。豪さんはやりたくないような仕事も、されてきましたか?
吉田:ボクはやりたいことしかやっていないですよ(きっぱり)。そのぶん、ボクは人が遊んでいる時間に、「相手とどれだけ差をつけるか」みたいなことをやってきた。『うさぎとかめ』でいう休まないうさぎをテーマに仕事をしているんです。
──そのようなスタンスになったきっかけはありますか?
吉田:ボクの師匠のリリーさん(リリー・フランキー)はいい文章も書くしいい絵も描くんだけど、その代わり仕事が遅い、電話に出ない、仕事に取りかからずにずっと遊んでいる(笑)。
掟:その逆をやれば、師匠にも勝つことができるんじゃないかっていうのを考えたのが吉田豪だよね。
吉田:リリーさんは、編集者が原稿を取りに来ないと書かないけれど、それによって編集者との関係が密になる。ボクはそういう手間をかけない代わりに、編集者との付き合いも非常に薄いんです。
話題のWEBライターは稼げるのか!?
──最近ネットなどで「WEBライターで、簡単に月収何十万稼げる」といううたい文句の記事をよく見かけますが……。
掟:あれね、詐欺、詐欺!
吉田:あははは。
──つい、コツを教えてもらおうかな……って思ってしまうのですが。
掟:わけがわからないところに閉じ込められて、営業電話をかけさせられるよ(笑)。簡単に何十万も稼げる、そんないい仕事あるわけないでしょ。
吉田:ライターで稼げるとか幻想だよね。
掟:大人なんだから! そういうのにもう騙されちゃダメだよ!
──おふたりの言葉で目が覚めました。
吉田:実際、「プロインタビュアー養成セミナー」みたいなものもあるんですよ。でも、そもそもプロインタビュアーっていう肩書をデッチ上げたのはボクだし、そんなものを認定する資格がその組織にあるわけないんですよ。勝手にプロインタビュアーをかたっている人が、ビジネスで始めているんですよ。
──吉田さんは教えたりしたいと思われないのですか。
吉田:ないない。でもターザン山本(ベースボール・マガジン社『週刊プロレス』元編集長)の「一揆塾」に呼ばれて一度だけ講師をしたことがある。
掟:何を教えたの?
吉田:ターザンが教えたことがいかに間違っていたか。
一同:(笑)。
吉田:ターザンは非常識であれみたいなわかりやすくインパクトあることを言うんですよ。でも、むしろターザンみたいな存在を反面教師にして、地道にやるしかないって感じで。ボクは、普通のことしか言えないですよ。例えば、同じくらいのレベルの人が2人いた場合、どう考えたってちゃんと締切を守って、ちゃんと連絡取れるほうを選びます。リリーさんくらいの圧倒的な才能があれば、電話に出なくても大丈夫だけれど。そうじゃない場合はちゃんとするしかないんですよ。
──掟さんは以前、フムニューのインタビューで「人柄はよくしておいたほうがいい。優しいだけで価値がある」とおっしゃっていました!
掟:ほら! 今話したこととつながった! 優しい人のほうに仕事が来るんですよ。
人脈作りは無駄なこと。無益な人ほど面白い
──よく「人は見た目が大事」と言われています。失礼な話ですが、お二人のファッションは……。
掟:うぬぬ! それは私たちを見た目で判断しているな! こんなサンバイザーをかぶっている大人がまともなことを言うわけないって。ルッキズムですよ、これは!
吉田:ボクらはあらかじめ見た目でハードルを上げておくから、「意外と腰が低い」とか、「優しい」って書かれたりしますから。落差ビジネスなんですよ(笑)。
──ビジネスといえば、よく「人脈づくり」が大事と言われていますが……。
掟:人脈づくりって、すごくよくない言葉だと思うね!(きっぱり)
吉田:人脈って人として見ていないってことだからね~。
掟:それってその人と付き合うと利益があるから近づくとか、そういうことでしょ。俺は、基本、無益な人が好きですから。だって(自分にとって)利益がない人のほうが面白いですからね。
──それはおふたりの活動や、交友関係を見ていてわかります。
掟:人を脈として見るようになっちゃおしまいでしょ。人脈を求めて、お金を払ってオンラインサロンとかに入るのがいちばん無駄ですよね。お金で信頼や友人関係が手に入るわけないんだから。
──掟さんは、アイドルのファンとも仲がいいですよね。
掟:オタクはみんなどこか偏ってて素敵でね。どちらかというと、尊敬できる人より尊敬できない人のほうが好きなんで。間違っている人の思考回路のほうが、魅力的だったりするし。
吉田:ボクと掟さんで大きく違うのは、ファンとかアイドルオタクの人との距離。掟さんはみんなに優しいけれど、ボクはちょっと距離があるんですよ。掟さんは「人脈的価値」がまったくない人たちと、全力で遊べる人だから。
掟:だって、アイドルとか自分の好きなものを共有できているだけで素晴らしいことだからね。
──豪さんや掟さんのイベントに伺ったことがあるのですが、ファンは発言に理解力がありますよね。ぱっと見、男性が多いような……。
掟:うっわ、俺を男受けしているだけの気持ち悪い人にしようとしている! 全然そんなことないのに!
吉田:掟さんは女性ファンがいるからね。
掟:こう見えてもミュージシャンですよ? 出てきただけで「キャー、素敵!」って湧いてる薄っぺらい女性ファンで客席がごった返している……ことを激しく希望しています。
吉田:ははは。
インタビュー相手の懐に入る覚悟とリスク
──吉田さんにお聞きしたいのですが、真樹日佐夫さん(漫画原作者)や百瀬博教さん(格闘技プロデューサー)などいろいろな逸話がある方にお会いするのは緊張しませんでしたか?
吉田:百瀬さんは、『PRIDE』の怪人と呼ばれたアウトローの人で、拳銃の不法所持で捕まったこともある本当に怖い人。ボクは近づかないようにしていたけれど、一度逃げられない感じで取材を組まれたことがあって。取材が決まった以上は、相手の懐に飛び込む。百瀬さんが力道山のコレクターだと知っていたから、ボクのコレクションをいくつか持って行った。そうしたら一発で気に入られて、「『PRIDE』の会場にガールフレンド何人でも連れてこい。俺が入れてやる」って(笑)。
──取材した相手から、そこまで気に入られるのは豪さんの人柄だと思います。
吉田:でも、当時ボクはプロレス雑誌の人間だから最初からPRIDEには入り放題だったんですよ。さらには10万円渡されて「(ヤフオクで)俺のぶんも落札しろ」って言われたり(笑)。あるとき、「今から服買いに行くからついて来い」って言われて。百瀬さんって180センチあってデカいんですよ。店ですごく長い黒のコートを出してもらった後に、「それ吉田にやる」って。サイズが全然合ってないし、足首ぐらいしか出ないから完全に変質者。百瀬さんがいないときにサイズを変えてもらったら、「お前、何変えてんだー! 」って(笑)。
──『hon-nin』(太田出版)でインタビューした荻野目慶子さんからは、直筆の手紙をもらったと聞きますが……。
吉田:あ~手紙もらいましたね。梅干しも。ボクは礼状を出すという常識が欠けているので、関係性はすぐ終わりますけれど(笑)。それこそ、『電池以下』でもインタビューした木村一八さんからは、お父さん(横山やすしさん)の服をいただいたりもしましたよ。
──先ほど、相手の懐に入るとおっしゃっていましたが、吉田さんのようなインタビュー能力はどのようにすれば身につきますか?
吉田:「プロインタビュアー教室」に通えばいいんですよ。
掟:吉田豪じゃないほうの(笑)。
吉田:でも、相手が心を開いて話してくれるのって、いいことばかりではないんですよ。開かせすぎて、相手が濃い関係を望んでくることも多々あるので。
掟:満遍なく面白いことに向き合っていたいのに、余計な時間取られちゃうし。
吉田:友達になってくれって言われても、ボクは別になりたくないんですよ。氏神(一番)さんに「友達になってほしいでござる」とか、そんなこと言われても困るから渡された連絡先を捨てたこともありました(笑)。
──相手の心を開かせるようなインタビューをするには、覚悟が必要なのですね。
吉田:でも本当、リスクがないところにビジネスチャンスはないというか。やっかいな人に気に入られるリスクを背負って仕事をしているわけなんです。それくらい(相手の懐に)飛び込んでいるので。
大物歌手から「あなたたち、スカル好き?」
──インタビューした美川憲一さん(『電池以下 掟ポルシェ編』に収録)からも、プレゼントをいただいたとか。
掟:俺、美川さんの歌もファッションセンスも好きなんですよ。インスタグラムをフォローしていると、普段のファッションも見られるんですけど、ロックスターみたいなセンスで素敵で。取材したときもでっかい蜘蛛の指輪をつけていたので、「カッコいいですね」と言ったら、「こういうちょっと気味悪がられるものも好きなのよ。だったらあなたたち、スカルも好き?」って聞かれたんです。
吉田:人生で初めて聞かれたよね(笑)。「あなたたちもスカル好きでしょ~」って。
掟:「私、スカルをコレクションしているのよ」って言われて。東南アジアで土産物として骸骨型の灰皿を売ってるんだけど、それが好きで美川さん何個も家にあるからって、俺と豪ちゃんに一個ずつ持たせてくれて(笑)。「美川憲一からもらったスカル」って、字面だけでもパワーありすぎでしょ。
吉田:クッキーの詰め合わせとマスクのケースももらったね。
──そこまで相手から気に入られるのは、普通ではなかなかありえないと思いますが。
掟:たまたま趣味が合ったんでしょうね。俺もポジティブパンクとか薄気味悪いものに惹かれるんでスカルも大好き! でも趣味が合わない人からも気に入られるのが吉田豪なんですよ。
──取材の場合は、相手に聞いてみたいことが事務所からNGと言われたりもします。その場合はどうされていますか?
吉田:美川さんの場合も、事務所からNGと言われていた話があったけど、本人は「私は話していいんだけれど、聞かれないのよ」って。NG話をたっぷり話してくれたけれど、その結果全部カットだった(笑)。
──「電池以下」の連載で、これまで取材拒否や、ひどい目に遭ったことはなかったですか?
掟:ドタキャンされたりとか、ややこしいことになったりは年に1度くらいはあったけれど。だんだんわれわれの嗅覚もよくなったのか、最近はそういうこともなくなってきましたね。今は何が地雷なのか爆発させないでふんわり踏めるようになったんじゃないかな。
◇ ◇ ◇
ふざけているようで、仕事に対しては確信をついたことを話すおふたり。後編では、豪さんの学生時代の卒業制作や、掟さんの結婚相談所事業についてもお聞きしました。
(取材・文/池守りぜね)
〈PROFILE〉
吉田豪 (よしだ・ごう)
1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、明石家さんま、矢沢永吉、秋元康、羽海野チカなど数多くの著名人より厚い信頼を受けている。主な著書に『男気万字固め』(幻冬舎)、『人間コク宝』シリーズ(コアマガジン)、『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間書店)、『書評の正座』(ホーム社)など。
掟ポルシェ (おきて・ぽるしぇ)
1968年、北海道出身。ニューウェイヴ・バンド「ロマンポルシェ。」ボーカル&説教担当。ほかにも執筆、俳優、声優、DJなど幅広いジャンルで活躍中。主な著書に『説教番長・どなりつけハンター』(文藝春秋)、『男道コーチ屋稼業』(マガジンファイブ)、『男の!ヤバすぎバイト列伝』(リットーミュージック)、『豪傑っぽいの好き』(ガイドワークス)、『食尽族〜読んで味わうグルメコラム集〜』(リットーミュージック)、『掟ポルシェのくだらないやつ』(東京ニュース通信社)など。