誰と行ってもいつ行っても、楽しくて癒やされる施設・水族館。そんな水族館のアイドルといえば? と聞かれたら、どんな動物を思い浮かべますか? すてきなパフォーマンスを見せてくれるイルカやペンギンが好き! という方もいれば、ゆったりと観察できるチンアナゴやクラゲが好きという方もいることでしょう。そしてぬいぐるみのような顔とモッフモフな体を持つ、ラッコが大好き! という方も多いのではないでしょうか。
そう、今回の記事の主役は……水族館のアイドル「ラッコ」です! 身近な存在のようで意外とその生態を知らない動物、ラッコの“フムフム”に迫っていきましょう。
分類:食肉目イタチ科ラッコ属
生息地:北太平洋(北海道周辺からオホーツク海、カムチャツカ半島、アリューシャン列島および北アメリカの沿岸部)
大きさ:体長・約1.4m、体重・オス27~38.6kg メス・16~27kg
ラッコにはポケットがあるって本当?
本当です。ラッコにはわきの下にある皮膚のたるみをポケットのように使って、食べ物や貝を割るために使うお気に入りの石などを持ち運ぶ習性があります。“ラッコのポケット”と聞くとなにやらかわいらしく聞こえますが、カンガルーのように袋状になったポケットがあるわけではありません。あくまでわきの下に“ポケットのようなもの”があり、その中に大切なものをしまっているのです。
ちなみにポケットのようなものといっても、その性能はポケットに勝るとも劣りません。なんとラッコが泳いでもジャンプしても、入れたものが簡単に落ちることはないんだとか……!
しかし高性能なポケット(のようなもの)を持つラッコであっても、私たちと同じく大事な物をなくしてしまうこともあるようです。特にお気に入りの石をなくしてしまった場合はなかなか貝を割れず、食事に影響が出ることもあるんだとか。お気に入りの道具をなくしてしまうと生活に支障が出るなんて、まるで職人さんのようですね。
なぜラッコは冷たい水の中でも凍えないの?
ところでラッコの平熱はどのくらいか知っていますか? ラッコの体温は私たちよりやや高めの37~38度ですが、彼らが住んでいる海域は水温が2~15度ととっても寒い場所です。私たちが常に2度の水につかっていたらあっという間に凍えてしまいますが、ラッコはなぜ冷たい水の中で暮らせるのでしょうか。
その秘密の1つは、哺乳類の中でも“最も密度が高い”といわれている彼らの毛に隠されています。ラッコの毛は1平方センチに対し、なんと約10万本も生えているそう。人間の髪の毛が全体で10万本といわれているので、比べてみるとその密度のすごさがよくわかりますね。ラッコは毛の間に空気をためることによって断熱効果を高め、凍えるような寒さから身を守っているのです。
もう1つの秘密は、ラッコが実は大食漢であること。ラッコは1日に体重の約20~30%に当たる量のエサを食べ、体温を維持しているのです。ラッコの体重を30kgと仮定すると、1日になんと6~9kgものエサを食べている計算になります。ちなみにこの量を人間に換算すると、体重が60kgの人が1日に12~18kgもの物を食べていることになります。すさまじい量だ……!
ラッコは海の中でどうやって眠っているの?
ラッコは海の中で暮らしていますが、海には波があり、流れがあります。そのまま浮かんで眠るとどこか遠くに流されてしまいそうですが、ラッコはどのようにして眠っているのでしょうか?
実は野生のラッコには海の中で流されないよう、大きな海藻(ジャイアントケルプ)を体に巻き付けて眠る習性があります。体に海藻を巻き付けたラッコの姿はなんともキュート、布団を体に巻いた子どものようなかわいさに思わず頬がゆるんでしまいます。ちなみに水族館には大きな海藻がないため、水に流されないように仲間同士で手をつないで眠ることもあるそうです。
なおラッコの手の内側には毛がなく、水に触れると体温を奪われやすいそう。そのため海面から手を出し、バンザイのようなポーズで眠る個体もいます。
日本でラッコが見られなくなるかもしれないって本当?
とても寂しいことですが、本当です。実は現在、国内の水族館で飼育されているラッコは鳥羽水族館(三重県)に2頭、マリンワールド海の中道(福岡県)に1頭の、たったの3頭しかいないのです(残念ながら2022年5月10日、須磨海浜水族園で生まれ、鴨川シーワールドで飼育されていた高齢個体の“明日花”が死亡しました)。
かつてラッコは毛皮を狙った乱獲や海洋汚染の影響を受け、絶滅が危惧されるほど個体数が減少してしまいました。その後さまざまな保護政策が行われた結果、今では野生のラッコの個体数は増加傾向にあるといわれています。しかし現在は動物保護の観点からラッコをはじめとした動物をアメリカから輸入することができず、新たな個体を導入すること自体がほぼ不可能な状況が続いているのです。
そして国内で暮らす3頭のラッコはいずれも高齢のため、繁殖させることも難しいのが現状です。このように新規導入・繁殖ともに厳しい状況であることから、現在の3頭がいなくなると日本ではラッコが見られなくなる可能性が高いといわれています。
ラッコが好きな方はもちろん、ラッコを見たことがないという人も、ぜひ今のうちに水族館のラッコたちに会いに行ってみてください。
(文/三日月影狼)