没後5年、その人気はいまなお衰えを知らない西城秀樹さん。
命日の5月16日夜にはNHK『うたコン』が「西城秀樹 特集」と題して生放送。野口五郎、岩崎宏美、松岡充(SOPHIA)がそれぞれ『ブルースカイ ブルー』『若き獅子たち』『ギャランドゥ』を熱唱し、木梨憲武が歌う『ラスト・シーン』では実の甥にあたる作曲家・ミュージシャンの宅見将典(2023年グラミー賞に輝く)がギターを演奏。
番組冒頭では、ステージ上方のスクリーンに映し出された秀樹さんとともに出演者全員が『YOUNG MAN(Y.M.C.A.)』を歌い踊る演出もあって、大いに盛り上がった。
興奮と感動は、昼間の東京・お台場でも。
この春、大阪・名古屋・札幌・福岡と各地を回ってきたフィルムコンサートツアーが、ZEPP DiverCity(TOKYO)でファイナルを迎えたのだが、その内容がすごかった──。
封印を解かれた「伝説のライブ」
フィルムコンサートは2本立て。
メインは約2時間にわたる「ライブベスト集」で、昨年の記念イベント『THE50』で上映された映像をさらにブラッシュアップさせたもの。2001年から2015年の「ヒデキ還暦!」まで、現存する秀樹さんのライブ映像がバラエティーに富んだ選曲で楽しめる。
その前に上映されたのが『30周年記念ライブ新宿厚生年金会館』。
こちらは長らく存在が不明となっていた映像が近年になって発見されたもので、一般に公開されるのは初めて。1本のコンサートをほぼ丸ごと収録しているのが貴重で、写っているのは当時45歳、円熟の極みにあった秀樹さん。この「伝説のライブ」を振り返ってみたい。
2001年3月23日、新宿・東京厚生年金会館大ホール──。
ボレロのドラムが鳴り響き、ムービングライトの照射がステージを舞う中、派手なイントロとともにステージ中央に設置されたスロープの上から秀樹さんが登場する。
衣装は純白のロングコート。秀樹さんお気に入りのAラインのシルエットが、長身のスタイルを際立たせる。
1曲目は『若き獅子たち』(作詞・阿久悠/作曲・三木たかし)。
《太陽に向かい 歩いているかぎり 影を踏むことはない そう信じて生きている》
ミドルテンポのバラードに乗って、スケールの大きな世界観を卓越した表現力で歌い上げる。のっけから声がしっかり出ていて、甘さも、セクシーさも。要所要所で効かせるビブラートは完璧にコントロールされていて心憎いほど。
本人も手応えを感じたのだろう、歌い終わると満足げな表情を浮かべて顎に手をやり、短くそろえられたヒゲをなでてみせた。
「用意はいいかなッ?」客席に呼びかけて、2曲目からスタンドアップ!
《やめろと言われても》ヒデキ!! でおなじみの『激しい恋』など初期のヒット曲で会場をヒートアップさせつつも、アクションには大人の余裕がただよっている。
衣装はコートを脱いで黒革のジャケットとパンツになったと思ったら、4曲目の『情熱の嵐』で早々にジャケットを脱いでぶんぶん振り回す。そのまま放り投げると、上半身は白いTシャツ1枚という飾らないスタイルに。
そこからはアンコールまで衣装替えをせず、ずっとTシャツと革パンで歌っていくのだが、そのシンプルさが実に潔い。
2001年の西城秀樹さん
思い返せば、当時の秀樹さんは「第三の黄金期」とも言うべき充実ぶりだった。
1994年、『紅白歌合戦』に10年ぶりに復帰し、『YOUNG MAN (Y.M.C.A.)』を熱唱。さらに『紅白』では1997年、YOSHIKIが作曲したシングル『moment』を歌い、2001年まで5年連続で出場している。
その存在感は「新御三家」でアイドル的人気を得た10代や『ブルースカイ ブルー』などスケールの大きな楽曲で魅了した20代半ばには及ばずとも、大人の鑑賞に耐える実力派のシンガーとしての評価が定着し、ますます際立っていた。
そうして迎えた2001年は、デビュー30周年のメモリアルイヤー。2月には海外でのファンクラブミーティングと記念の写真集『H45』(主婦と生活社刊)のロケ撮影でハワイ島へ。
3月6日には電撃的に「婚約」を発表。
プライベートでは数々のロマンスで浮名を流しながら「独身貴族」を貫いていた秀樹さんだったが、ひそかに交際を温めた大阪市在住の一般女性(美紀さん)と、ジューンブライドの6月に挙式するという。
当初の予定ではもう少し後に発表するはずが、ワイドショーにスクープされたのをきっかけに急きょ詰めかけたマスコミ取材に応じて認めたもの。ファンの間に少なからぬ動揺が広がる中での「30周年記念コンサート」ではあった……。
自らの言葉で客席に報告したのは、6曲ほど歌った後のMC。
「報道などでもうご存じかと思いますけれど、縁があって素敵なパートナーが見つかって婚約、そして6月30日に式を挙げることになりました」
「これが縁だなと思っています。また、このことによって歌もよりよくなり、みなさんにより楽しんでもらえるように、僕が成長できたらいいなと信じています。これからもよろしくお願いいたします」
そこから『至上の愛』『ちぎれた愛』と男女の絆をエモーショナルに歌い上げる。
フランス語のセリフから荘厳なイントロにつなげた『傷だらけのローラ』はとりわけ激しく、情感たっぷり。終盤の「ローーーーーラーー」で、みごとなロングトーンを聴かせる。
「僕は変わりませんよ。変わるわけがない」
記念のコンサートにふさわしく、デビュー当時を振り返るひと幕も。
「昭和47年(1972年)の3月25日、『恋する季節』でデビューして、残念ながら新人賞はいただけませんでした……。でも、今から考えるとそれがすごくよかったんですね。“悔しいな” とか、まだ子どもだったので “芸能界やめようかな” と思いましたけど、“もう1年頑張るんだ” と頑張って『傷だらけのローラ』でレコード大賞の歌唱賞をいただきました。
本当にありがたいな、と正直思っています。ありがたいと思えば思うほど、これからもっと自分ができることは精いっぱいやっていきたい、そう思っています」
久しぶりに歌うという『遙かなる恋人へ』(1978年のシングル曲)から、せつない別れの瞬間をあざやかに切り取った『ラスト・シーン』へ。
『ブルー スカイ ブルー』はまさに名唱。ただでさえ壮大なスケールを感じさせるメロディーが、終盤のコーダの部分では秀樹さんの感情があふれ出すかのように絶妙にアッチュレランド(テンポがアップ)。それにバンド演奏が自在についていき、一体感が半端ない。
結婚を悲しむ熱心なファンを気遣ってか、「僕は変わりませんよ。変わるわけがない。だって歌が好きだもん。音楽が好きだもん」と慰める(?)場面もあり、後半の『バイラモス』『ギャランドゥ』『炎』『ブーメランストリート』と続くパートは聴きごたえたっぷり。
「最後は一緒に……」
アンコールでは『俺たちの時代』『ホップ・ステップ・ジャンプ』と盛り上げていき、お待ちかねの『YOUNG MAN (Y.M.C.A.)』で興奮は最高潮に。
秀樹さんは「さすがです、Cの字が1人も間違っていません!」と笑わせながら、心の底から楽しんでいる様子。
そしてファンをいったん座らせて、あらためて感謝を述べる。
「最初は自分がデビューして30年もやれるなんて、ちっとも思わなかったんです。結構いいかげんなところがあったと思うんですね。
でも20代、30代、40代になっていくにつれて、思いやりとか責任感というものが自分の中でちょっとずつ生まれてきました。まだまだ頼りないところもあるかもしれませんが。これからも、恐れず前に向かって進んでいきたいなと思っています。30年間の思いを込めて……本当にありがとうございました」
ダブルアンコールになって、最後の最後に選ばれた曲が『青春に賭けよう』。
デビューから4枚目のシングルで、大きなヒットにこそならなかったが長年にわたりファンに愛され、秀樹さんも大切にしている曲だ(作詞・たかたかし/作曲・鈴木邦彦)。
「最後は一緒に歌ってくれる?」と呼びかけて、
《涙をふいて僕と 歩いていこうよ この道は戻れない 青春という季節》
当時45歳の男盛りの秀樹さん、ホールを埋め尽くした東京厚生年金会館のお客さんはもちろん、スクリーンの映像を見つめるZEPP DiverCityのお客さんも総立ちになって歌声が重なり合い、時空を超えた一体感に包まれていた。
映像が見つかった理由は
最後にこの映像が発掘され、世に出た経緯についてふれておこう。
「2021年の春ごろに偶然、見つかったんです。
事務所を引っ越すことになって、旧オフィスに保管していたアナログのデータをひとつずつデジタルに変換していたんですが、僕らも存在を見落としていたビデオテープの中にそれがありました」(マネージャーの片方秀幸さん、以下同)
秀樹さんのコンサートはいつも秋が定番だが、デビュー30周年には特別に春にもコンサートが開催されて、そこにカメラが4〜5台入っていた。
「その素材で秋のコンサートの宣伝用に15秒の “スポットCM” を作ったんですが、見つかったのはそれとは別。コンサート全体をちゃんと1本に編集した映像でした。そんなものがあるとは知らなかったので、本当に驚きました」
惜しいことにテープは家庭用のVHSだけ。なにしろ20年以上も前のことで、元のマスターテープは制作会社にも保管されていなかった。音声もミキサー音源ではなく、カメラマイクから拾ったものでバランスが悪かったが、現代のデジタルリマスタリングの技術で、画質・音質ともに劇的に向上させることができた。
「最初はまるで雨が降っているような映像だったんですが、時間をかけて大きなスクリーンで見られるまでに持っていきました。(カメラの)テープチェンジで映像が途切れていて、泣く泣くカットした曲もあるんですけど、いちばん声が出ている時期の西城秀樹のコンサートをそっくりお見せすることができて、ファンのみなさんにも喜んでもらえたと思います」
2022年10月には、秀樹さん最後の新曲『終わらない夜』(作曲プロデュース・宅見将典)もリリースされた。さらなるサプライズ、発掘を期待したい──。
《執筆者プロフィール》
川合文哉(かわい・ふみや)/岩手県盛岡市生まれ。週刊女性、JUNON、華流スターNOW!などで長年にわたって芸能取材にかかわり、美空ひばり、西城秀樹、DA PUMP、柏原崇、小栗旬、ジェリー・イェン、氷川きよし等の写真集・書籍も手がける。映画、ロック、Macを愛する。