「エゴに従え。狂気を統べろ。」という挑戦的なテーマの学園RPG『モナーク/Monark』は、10月14日で発売1周年を迎える。本作を手がけるのは、壮絶な少年時代を“ゲーム”に救われ、中学3年生のときにゲーム制作の道を志した林風肖(はやし・ふゆき)さん。
第1弾インタビューでは、いじめや虐待に等しい体験をしてきた林さんの半生を伺った。【第1弾インタビュー→「僕が生きようと思ったのは、ゲームに救われたから」ゲームクリエイター・林風肖さんの半生をたどる】
林さんが初めてゲームを発表したのは20歳のとき。学生時代に3作品の同人ゲームを発表し、現在はフリュー株式会社でゲームクリエイターとして活躍。過去の体験を糧に、“闇を抱えながらも前を向いて歩みを進めていくことの美しさ”を表した作品を世に送り出している。
そんな林さんが、ゲーム制作を経て感じたこと、そして信条とは――。
ゲーム制作によって、存在が全肯定された感覚に
──林さんが初めてゲームを制作したのはいつ頃だったのでしょうか。
「中学3年生でゲームサークルを発足し、高校生のときに制作を開始しました。実際に発表したのは大学2年生のときです。
高校からはメンバーがバラバラになってしまい、イラストの子も途中でフェードアウトしてしまったのですが、プログラマーの子とはずっと付き合いがあって。高校が違うからゲームの完成には至らなかったものの、それはそれで楽しかったんですよ。高校の夏休みに、“合宿”という体(てい)で海辺の宿泊施設へ行って、“どういうゲームを作りたいか” “どんなヒロインがいいか”と語り合いながら企画書だけ作るようなことをしていました(笑)」
──いいなぁ……。青春って感じですね! 初めて発表したゲームはどんな作品ですか?
「『Blue*』という同人ノベルゲームで、“本当の問題とは何でしょうか?”というキャッチコピーがテーマになったゲームです。人間にとっていちばんの悪が何かを考えたとき、“他人に無関心になったり、他人に配慮せずに決めつけたりすること”だと考えていて。それを揶揄(やゆ)するようなテーマがいいと思ったんです。“問題を決めつけるのではなく、常に問い続けながら生きることこそ美しいんだ”ということを描こうとした作品でした」
──初めてゲームを世に出したときの感覚は、今でも覚えていますか?
「もちろんです。ゲーム制作そのものがめちゃめちゃ楽しかったですし、何よりユーザーさんから届いた感想の声に自分の存在を全肯定されたような感覚になりました。
大学時代、『Blue*』を含めて3本のゲームを発表したのですが、“とてもつらい気持ちになっていたとき、このゲームを思い出し、救いをもとめて今あらためてプレイしています”とコメントをいただくことがあったんですよ。“僕が体験した感動と同じような感動を、世の中の人たちに認めてもらうんだ”という気持ちからスタートして、実際に自分の作ったゲームを認めてもらえた。そこからは麻薬のようにゲームを制作して発表することにのめり込んでいます」
──そのまま同人サークルとしてではなく、会社員としてゲーム制作の道へ進んだのには何か理由があったのでしょうか?
「フリューでゲームクリエイターとして働いているのは、“企業でゲーム制作をすれば商用ゲーム制作の裏側が知れてクリエイターのコネクションも増えるからおトクじゃん?”くらいの感覚なんですよ(笑)。同人サークルのほうも辞めたわけではないので。
今年の8月にサークルメンバーの子と、結成を誓ったあの公園(※インタビュー第1弾参照)で集まったんですが、“オレたちの次回作、待っているからな!”と言われて(笑)。なので、いつになるかはわかりませんが、また個人でゲームを発表することもあると思います」
バッドエンドはありえない。つらかった原体験は、いい材料になる
──林さんのゲームに表れる、 “闇を抱えながらも前を向いて歩みを進めていくことの美しさ”は、ご自身の過去の経験が理由になっているんですね。
「そうだと思います。僕はゲームから、つらさに抗う人間の美しさに魂を揺さぶられて力を与えてもらいました。料理人とかも知っている「おいしさ」以上は生み出せないと思うのですが、それでいうと、過去の原体験が自分の人生の中でいちばん“おいしかった”ので、遊んでくれる人にも同じものを提供したいと思うわけですよ。その味を再現するために、原体験を振り返りながら都度、材料を変えてみたり、調理方法を変えてみたりして作っている感じです。
──ハッピーなテーマのゲームを作ってみる……みたいな発想にはならないんですか?
「なるときもありましたよ。でも、僕が作れるのはそういうゲームではないと思っています。『CRYSTAR -クライスタ-』制作後に闇のある作品に疲れたと思って、カワイイ女の子がキャッキャウフフしながらハッピーな旅をする作品を作ろうと思ったんです。だけど、アイデアがひとつも出てこなくて(笑)。結局、自分には原体験で得た闇の力しかないんだなと気づいてから、光の作品を作るのは無理なんだなって。理不尽の中で抗うコンテンツしか作れないなって思っています」
──林さんが作っているその“料理”は、過去に生きづらさを感じていた林さん自身へのギフトになりえますよね。
「それはありますね。自分にとってのゲーム制作って代償行為なんですよ。だから“自分はこうやって救われたかった” “自分の過去の感動体験をリバイバルしたい”という思いが強くて。同じような思いをしている人たちに体験してもらって、救いたい気持ちがあるのだと思います。だから、バッドエンドはありえないし、遊んだ人が最後に気持ちよく終われる作品を作りたいと思っています」
──『モナーク/Monark』の作中に描かれる「あなたのエゴが空虚な世界に綺麗な虚飾をもたらせますように」というメッセージは、生きづらさを感じる人たちにとって大きな救いをもたらしてくれたのではないかと思います。
「僕が『モナーク/Monark』で描きたかったことは、“自分の虚飾(=エゴ)を信じて生きてください”ということなんです。
人間の生み出した文明なんて、ほとんどすべてが思い込みで、ここにある机も本来はただの木で、人間の虚飾によって意味を生み出されたもの。人間の文化水準で物事をみて存在しないものを、さもあるように扱っている。確かなものなんてひとつもない中、苦しみながら生きることってすごく損だなと思うんです。
本当に正しいものがないのだとすれば、自分なりのエゴに従って生きていけばいいのでは、と。そして、せっかくエゴを振りかざすのであれば、誇れるような美意識を持てたほうがより美しい未来になるだろうと考えて、この言葉を描いた記憶があります」
中二病であることへの誇り。闇の中でも輝くゲーム
──来年には新作の発表も期待されていますが、林さんがゲームクリエイターとして表現していきたい“価値観”はありますか?
「うーん6時間くらい悩みたいところですが……(笑)。最近、自分の中でいちばん大切にしていきたいと思っているのは“誇り”ですね。自分が“誇り”を持てるものを作りたいし、作ろうと。そして、自分はどんなことに“誇り”を持てるのかを考えると、やっぱり“闇の中で輝くもの”なんですよね。面白いだけではない、誰かが生きたいと思えるもの」
――そんな“誇り”を持てる作品を、どういった人たちに遊んでもらいたいと考えているのでしょう。
「生きにくさを感じている人ですね。僕はひねくれた子どもだったから、世界がただただハッピーに進む物語はいけ好かなかったし、パリピみたいなやつが主人公だと気に入らなかった。社会から疎外感を感じ、生きにくいと思っている過去の自分のような人たちを、少しでも生きやすくしたい。楽になってほしいという気持ちが強くあります。
根っからの中二病なので、自分でも寒いなと思うんですけど……でも僕は中二病にも“誇り”を持って生きているので仕方ないですね(笑)」
――最後に、林さんにとってゲーム制作とは?
「唯一無二の子育て体験ですね。ゲーム制作って文化的な子作りだと考えていて。いろんなクリエイターたちのこだわりを詰め込みながら子どもを作り、世に生み落とす。そんな子どもをいろんな人に可愛がってもらうことは、何よりも得がたく尊いことだと感じています」
(取材・文/阿部裕華、編集/FM中西)
『モナーク/Monark』:https://www.monarkgame.com/
フリュー株式会社:https://www.furyu.jp/