かつての大人気番組、『アメリカ横断ウルトラクイズ』(以下、ウルトラクイズ)。その第10回大会(1986年)で、決勝まで行かせていただいた私の体験から、テレビ放送ではわからない“罰ゲームの裏話”などについてもお話をしてきました。
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今回は、数あるウルトラクイズの名物チェックポイントの中でも、特に人気が高い「突撃〇×泥んこクイズ」(以下、泥んこクイズ)について、テレビ放送ではカットされた“ちょっとマンガのような裏話”を、初めてお話しします。
◇ ◇ ◇
決勝の地、アメリカ本土へ行く前の最大の難関
ご存じの方も多いと思いますが「泥んこクイズ」とは、グアム島で行われることが多かったウルトラクイズの名物チェックポイント。
砂浜に〇と×が描かれた2枚の発泡スチロールの壁が設置され、チャレンジャーには〇×クイズが出題されます。“答えが〇だ”と思えば、〇の壁まで走って行ってそれを突き破り、正解ならマットの上に着地。
不正解ならスタッフが夜中に練り上げた、泥んこの中に落下するというルール。いわば、“〇×クイズと罰ゲームが一体になったチェックポイント”です。
この「泥んこクイズ」は視聴者だけでなく、チャレンジャーにも人気が高く、私が参加した第10回の参加者にも「泥んこクイズをやるのが夢だった」という方が何人もいました。
私自身も「ウルトラクイズで泥んこクイズをやる」というのが、夢のひとつだったのは間違いありません。しかし、決勝の地、ニューヨークを目指していた私にとっては、本土にたどり着く前の「最大の難関」でもあったのです。
宿泊先である「PIC(パシフィックアイランドクラブ)グアム」のビーチに設営された、おなじみのセットの前に集まったチャレンジャーは、全部で43人。出題・海外リポーターの福留功男さん(以下、留さん)が告げた通過人数は、28人でした。そう、ここで15人が敗退するわけです。
留さんのルール説明のあと、スタッフからは「頭から飛び込むと危険です。壁を破って、フワッと身体ごと着地するイメージでお願いします」と、チャレンジャーをビビらせる注意が。
それを聞きながら「あー、危険なんだぁ……。実際にやるとなるとちょっと怖いんだな……。でも、正解してマットに飛び込めばいいんだよね」と思う私。
本番がスタートすると、私はとにかく「こんなところで落ちたくない!」という思いが強すぎて、留さんと目が合わないようにチャレンジャーたちの後ろのほうを陣取りました。
なぜなら、ヘタに目が合うと「次、行くか!」と言われてしまうから。テンションがMAXになったときに、自分のタイミングで挑戦したかったのです。
最大のライバルが泥まみれに!
私がチャレンジャーたちの後方を陣取ったのには、もうひとつ理由がありました。
日本にいるときからしょっちゅう一緒にクイズをやり、最大のライバルと考えていた森田敬和さん(以下、森田さん)が果たしてここを抜けるかどうか。その結果を知ってからチャレンジしたいと思ったのがその理由。
結果、その森田さんはどうなったか?
〇×クイズに不正解で、泥まみれになったのです。
その姿を見たとき、最初に思ったのは「ウソ!?」でした。彼の実力……というか、引きの強さを知っていたので、こんなところで落ちるわけはないと思っていたからです。
そして、次の瞬間「第10回の記念大会でもある今回のウルトラクイズのためにも、クイズの心得がある自分は勝ち抜かなくては!」という使命感が襲ってきました(いま思うと生意気ですね。でも、当時はまだ若くてとがっていたのです)。
森田さんが失敗した直後に、私は歩みを前に進めて留さんに視線を送りました。すぐに留さんと目が合い「西沢、行くか」と声が。このあたりが留さんのすごいところ。私のテンションも、完全にMAXになっていました。
「問題 忠犬ハチ公は、実はメスだった?」
これが私への〇×クイズでした。忠犬ハチ公については一度詳しく調べたことがあり、一瞬で「これは、〇に飛び込んで泥んこになったチャレンジャーに、留さんが“そんなわけあるか!”とツッコミを入れるタイプの〇×クイズだ」と思いました。
そのうえ留さんが、私が走り出す瞬間に「君なら大丈夫だ、さあ行け!」と言ってくれたのです。この言葉、私には、機内クイズで総合3位だった自身への「こんなところで落ちるな!」というエールに聞こえ、さらに×を確信できたのです。
マンガのような敗者復活劇
さて、ここからがまるでマンガのような実話です。
無事に正解することができて勝者席に移った私は、ずっとほかのチャレンジャーたちの結果に注目していました。前述のように、ここで敗退するのは15人。つまり、〇×クイズで間違えたチャレンジャーの数がそれを超えたら、敗者復活があるということ。
そのときの私の気持ちを正直に言えば、“森田さんに敗者復活してもらい、ふたりで決勝を戦いたい”という思いと、“森田さんがここで敗退したら、自分が優勝できる確率がグンと上がる”という思いが交錯する、複雑なものでした。
泥んこクイズが終了し、〇×の不正解者数は17人に決定! 森田さんが生き残る確率は17分の2! 敗者復活のルールは、単純明快、サドンデスの〇×クイズ。
敗者復活できるのが2人と決まった瞬間に、森田さんの目がギラリと光ったのをいまでも覚えています。それを見た私は確信しました。
あっ、間違いなく森田さんは敗者復活する!
どうしてそんなことをしたのかわかりません。でも、その確信を人に伝えたくなったのでしょう。私はすぐ横にいたチャレンジャーにささやきました。
「敗者の中にいる、あの森田っていう名札をつけた彼、見ていてください。絶対に敗者復活してきますから」
突然そんなことを聞かされた相手も、驚いたでしょうね。でも、敗者復活の〇×クイズが始まると、あれよ、あれよという間に正解を続けた森田さんは、本当に勝ち抜き。さらに驚かれました。
「どうしてわかったんですか?」
そう聞いてくる相手に私は答えました。
「彼はこんなところで負ける人間じゃないからです」
いやー、本当にマンガの登場人物みたいな会話です。でも、すべて実話です。
ウルトラクイズという人生で初めての特殊な環境で、もしかしたら、私は1か月間、いわゆるゾーンに入っていたのかも……とさえ、思えてしまう出来事でした。
ちなみに、私がささやきかけたチャレンジャーとは、帰国後、第10回チャレンジャーの(同窓会的な)飲み会で何度も再会しました。
そのたびに「あのときは西沢さんの言葉にも驚いたし、その言葉どおりに敗者復活した森田さんにも驚きました。そして、そのふたりが決勝まで行って、もう一度驚きました」と言ってくださったものでした。
(文/西沢泰生、編集/本間美帆)
【PROFILE】 西沢泰生(にしざわ・やすお) 2012年、会社員時代に『壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方』(アスコム)で作家デビュー。現在は作家として独立。主な著書『夜、眠る前に読むと心が「ほっ」とする50の物語』(三笠書房)『コーヒーと楽しむ 心が「ホッと」温まる50の物語』(PHP文庫)他。趣味のクイズでは「アタック25」優勝、「第10回アメリカ横断ウルトラクイズ」準優勝など。