高比良くるまさんと松井ケムリさんによる漫才コンビ・令和ロマン。『NHK新人お笑い大賞』『ABCお笑いグランプリ』など、数々の賞レースで名をとどろかす彼らは、いまやお笑いファンにとって最注目というべき存在。
そんなふたりの半生をたどるインタビューの前編では、「コロナ禍で舞台に立つことができなくなった瞬間、お笑いへの熱がなくなった」「それまでは熱く“お笑い”をやっていたけれど、ようやく“プロとして仕事”をするようになった」と、お笑いとの向き合い方に大きな変化があったことを語ってくれました。
後編では、ふたりが直面した壁についてさらに深掘り。さらに『ドラえもん』のネタでネット民たちを大いにざわつかせた、『M-1グランプリ2022』敗者復活戦の思い出などを聞きました。
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運命が“逆転”したと感じた『M-1グランプリ』
――ここまでの活動で“壁”に直面した瞬間というとコロナ禍だと思いますが(前編にて紹介)、他のインタビュー記事では、ヨシモト∞ホール(吉本興業の劇場)のファーストクラスメンバーから、セカンドクラスへと降格したことも挙げていたかと思います。
高比良くるま(以下、くるま):たしかに、そのときはそうだったでしょうね。まだプロになりきれていなくて、熱く“お笑い”をやっていた時期なので、“何で落とすんだろう”と思っていました。壁というか、崖。本当に絶望しました。“俺らを落とす意味がわからない”と。
あと、2019年の『M-1グランプリ』で、俺らではなくオズワルドが決勝に行ったときもそうです。これはもう、めっちゃスピッてる(スピリチュアルめいている非科学的なこと)んですけど、“完全に、運命が逆だった”と感じるんですよ。
松井ケムリ(以下、ケムリ):そんな気配がした?
くるま:めちゃくちゃした。その年の準々決勝の話なんですけど、当日の会場のお客さんがすごく重たかった(リアクションや笑い声が少ない状態のこと)んです。だけど、僕らはネタの前半で明らかにウケたから、“準決勝に行けるぞ”と思ったんですよ。そうしたら、ダメで。僕らよりも後の出番だったトム・ブラウンさんがものすごいネタをしてめちゃくちゃウケて、以降の出番でウケたコンビが全組、準決勝に進んだんです。
――トム・ブラウンさんがお客さんの空気を変えたんですね。
くるま:そのときのオズワルドさんのネタと俺らのネタが、内容的にちょうど同じレベルだったんです。今考えてみてもそう。きっと、香盤(※)が逆だったら絶対に俺らが行っていたと思います。で、たぶん決勝にも進めたんです。伊藤(俊介)さんにもこの話をしたことがあるんですけど、なんとなく腑(ふ)に落ちているようでした。
ケムリ:そうだったんだ。
※出演順などが記された進行表を表す
くるま:当時でいうと、だけどね。だから全部運命を感じるんですよ。僕は運命論者なので、あそこでもし俺らが決勝に進んでいたらテレビに出る機会が増えていただろうし、テレビというステージがあれば、たぶん僕はプロにならず以前のようにアマチュアの延長でお笑いをできていたと思うんです。
あと、コロナ禍に入る直前に『アメトーーク!』(テレビ朝日系)の「NEXTお笑い第七世代」でオファーが来たんですけど、たまたまヤーレンズさんとのツーマンライブがかぶっていて、俺らはそっちを取ったんです。そこで『アメトーーク!』を選んでいたら、また違ったかもしれない。
――コロナ禍直前の、転機になるような出来事を避けて通っていたんですね。結果、お笑いとの向き合い方に大きな変化があったわけですが。
くるま:そこでイヤな気持ちになってしまったので、よい方向に向いたとは言えないんですけど、でも“いま俺がプロとしてやっている仕事は、たぶん意味があるんだろうな”と、思うようになりました。自分を肯定するための考え方ですけど。そういう意味での壁はあったかもしれないですね。逆算的に、自分で設置できる壁ですけど。
ケムリが楽しそうなとき、自分も楽しいと感じる
――では、令和ロマンとして活動していて、楽しいと感じる瞬間はどんなときですか?
ケムリ:ラジオでおしゃべりしているときは楽しいですね。まじめな話が好きじゃないので、周りの先輩や同期のことをしゃべっている時間がいちばん楽しいです。
くるま:僕は、この人(ケムリ)が楽しそうなときですね。
ケムリ:あ、本当?
くるま:楽しみでいうとそうかな。「令和ロマン」に関しては仕事なので、キャッキャするという意味での楽しいではないんですけど、“この人が楽しそうにしているということは、その場がうまくいっている”ということなので。
ケムリ:じゃあ、やりがいがあることは?
くるま:それはもう漫才とか(別の仕事)になりますよね。『M-1』で“俺らがこういう漫才をしたら、世間がこうなる”とか、“取材でこんな発言をしたら、こんなふうに人が呼んでくれてこんな影響が出る”とか。反響を感じられるのは楽しいです。「楽しい」の意味合いが少し違うかもしれませんけど。
『M-1』敗者復活戦は人生トップレベルに楽しかった
――お話を聞いている感じ、コロナ禍以前に比べると少しクールになった印象ですが、『M-1』に対するモチベーションは、いまなお高い気がします。おふたりにとっても、それだけ特別な大会ということでしょうか?
くるま:実は僕は、旧M−1はまったく見ていなくて、『THE MANZAI』を軽く見ていたくらいです。ケムリさんもそんなに見ていなかったですよね。
ケムリ:うん、全然見てこなかった。
くるま:なので、芸人1年目のときは“よし、M-1だ!”とは全然思っていなかったです。でも、僕はずっとラグビーをやっていて、体育会的な発想で“大会は負けたくない”というこだわりがちょっとあったんです。なので1年目は、ラグビーをやっていたときと同じように、分析をして挑みました。
例えば、3回戦の日程を調べて“ほとんどはルミネ(theよしもと)が会場になっているけど、ルミネに1年目が立つとナメられるから新宿FACEが会場になっている日にしよう”とか。しかも、その分析がうまくハマったので楽しかったです。
――そういった経験が、『M-1』に対するモチベーションを上げてくれた。
くるま:そうですね。しかも、あれよあれよと準々決勝まで行けて、落ちたかと思いきやワイルドカードで準決勝に行けました。で、準決の会場に行ったら、和牛の水田(信二)さん、かまいたちの山内(健司)さん、スーパーマラドーナの武智さんが、舞台袖のすごく細いすき間からお客さんを見ているんですよ。それを見た瞬間、「超カッコいい」と素直に思いました。
1年目の芸人はなかなか見られない光景。“これが『M-1』に賭けている芸人の姿なんだ、本当の高みなんだ、プロフェッショナルの集いなんだ”と。と同時に、俺もこうなりたいと思い、2年目くらいからはそのつもりで臨んでいます。
賞レースを冷静かつ多角的な視点で分析し、臨んでいた
――2022年は、初めてストレートで準決勝に進みました。そのときの気持ちも聞きたいです。
くるま:あー……。ウケた量を含めて考えると、(勝つための)ボーダーには足りていないと思っていました。だけど、2022年は準決勝に進出する組数が25組から27組に増えたじゃないですか。だから僕らも入れたんだろうなと。“じゃあ、これからどうしようかな”と。
――「どうしよう」ですか?
くるま:準決に進める組を増やすという方法をとったとなると、また考え直さなきゃいけないところがあるんです。大会の意図とか、(主催側は)どうやったら盛り上がると思っているのか、とか。
平たく言えば、2022年はずば抜けたコンビがいなかったから、とにかく頑張ってスターをつくりたかったんでしょうね。ママタルト、ケビンス、真空ジェシカ、ヤーレンズ、俺らみたいなコンビって、大枠でいうと一緒なんですよ。本来は、全組が準決に行けることはなかったので、結果発表を見たとき、「こんなに上げてどうする気なん?」と言ったくらいでした。
――私たちの考えが及ばないところで、大きな波乱が起きていたんですね。ちなみに、そのときケムリさんはどう思っていましたか?
ケムリ:準決勝進出がわかった瞬間ってことですよね? そりゃあ、めっちゃ嬉しかったです(と、ピース)。
――ステキな笑顔です(笑)。では、敗者復活戦はいかがでしたか? あのとき披露したドラえもんのネタは、放送直後からネットで大反響を呼んでいました。
くるま:僕らは勝てると思っていなかったので、ネット民に向けてやっていました。あと、初めて体験した『M-1』の敗者復活戦の空気がお祭りのようで。この日ばかりは、プロではなく趣味人として、“趣味で漫才をやっていいんだ!”という開放感の中やっていたから、とにかく楽しかったです。人生でもトップレベルに楽しかった1日かもしれない。
――周りにも実力派の芸人さんばかりいるし。
くるま:そうそう。だから趣味全開の、めっちゃいいオフ会を楽しんだ気分でした。
――しかも、結果もついてきましたよね。敗者復活を果たしたオズワルドに次ぐ、2位を獲得しました。
くるま:ネットに向けてやった分、ネットの票が多かったんだろうなと思います。でも、その票を取って勝とうと思っていたわけではないんです。たまたま2位になれましたけど、12万票も差があったところを見ると、ネットよりテレビのdボタンの票数のほうが絶対多い。だから僕らの順位は本当にラッキーです。趣味が仕事につながったような状態。いま、関西含めていろいろな場所のライブに呼んでもらえていますけど、敗者復活戦でやった趣味を褒めてくれて、それを仕事みたいにしてくれたからだと思います。
――では、ケムリさんにも一応そのときの気持ちを聞いていいですか?
ケムリ:「一応」ってなんですか(笑)。
くるま:一応だよあんたは。人の話をぼんやり聞いているんだから。そんなバカがいるかよ。なんでちょっと楽な体勢とってんだよ。
ケムリ:……で、なんでしたっけ?
くるま:聞いてねえじゃねえか。
――敗者復活戦で2位になった瞬間の気持ちですね(笑)。
ケムリ:あ、嬉かったです(ピースしながら)。
くるま:小指を立てるなよせめて。
ツカミで意識するのは、異文化というより異国の違い?
――敗者復活戦の以前・以後で、変化はありましたか?
くるま:ありましたね。趣味を仕事と捉えてくれた人たちによって、仕事がめっちゃ増えました。特に、地方に呼んでもらえるのが嬉しいです。大阪、好きですし。だからある種、いまは趣味と仕事の中間ができているのかもしれないです。大阪の芸人さんは“趣味”として好きですし、“大阪の人たちを笑わせるには”と考えるのは“仕事”としてやりがいがあります。NGK(なんばグランド花月)はやっぱり手強いですから。
――大阪でウケるために、例えばどんなことをしていますか?
くるま:具体的に言うと、ツカミ(漫才などの冒頭で、観客の心をつかむために行うやりとりのこと)はいらないです。漫才を見る文化がない地域の人たちは、まず漫才師がどういう人間なのか知って、人となりで笑うんですよ。だけど大阪は、お笑いがお笑いとして独立しているので、早くネタに入っておもしろいことを言えばいいんです。僕らの感覚だと、知らないやつがいきなりボケても笑うわけがないと思うんですけど、そうじゃないんですよね、大阪は。だから俺はもう、違う国だと思っています。同様に、福岡や名古屋のような大都市もそこでひとつの価値感が生まれがちなので、違う国ですね。
目指すはトレンディエンジェルのたかしさん
――ちなみに、Podcast番組『令和ロマンのUBUGOE』で、次の『M-1』への前向きな言葉が交わされていましたよね。聴いていて、すごくワクワクしました。
ケムリ:へえ! 言ってたんだ。
――ケムリさんもお話ししていましたよ(笑)。
くるま:この人、ラジオとかで何を話したか、まったく覚えていないんですよ。「先週、こんな話したじゃん?」と言うと、思い出す時間が必要ですからね。僕が編集でその時間を全カットしているので、覚えているように聞こえるんですけど、全然ですね。
ケムリ:そうそう。なので「そんなこともあったかぁ」って感じです。
――ともあれ、2023年の『M-1』にかける思いや展望を伺いたいなと。
くるま:展望でいうと、“そのまま決勝に行けたらいいよね”という思いがあります。他の活動をしつつも、『M-1』にいちばんウェイトをかけたいです。自分の分析的にも、ここから頑張るのがいちばん効率いいんですよ、正直。
ケムリ:あぁ、そうだね。
くるま:準決勝まで進むと、立つ舞台が大きくなるんです。お客さんへの伝わり方も変わってくるので、慣れているかどうかが大きなポイントになるんです。どれだけネタを頑張っても、普段立っている舞台と本番の舞台の規模が明らかに違うと、MAXのパフォーマンスはできないものなんですよ。今年の僕らは各地の大きな舞台に立っていて、慣れたうえで『M-1』に臨める。だからこそ、“いま頑張ったほうがいいんだろうな、いまが頑張りどきだな”と思います。頑張る意味があるというか。
――では、このまま一気に突っ走ると。
くるま:突っ走るというよりは、できるだけ普通に。『M-1』で勝つということを考えながら、ネタを作るようにしたいです。あと……ワンチャン優勝できるんじゃないかとも思うんですよ。
ケムリ:えっ!
くるま:……どうしたの突然。
ケムリ:いや、優勝するんだ、と思って。
くるま:僕らの実力とはまた違うところの、世の中の流れとかもあってだけどね。優勝できるとか言ったから、びっくりした?
ケムリ:びっくりした。本当になったらすごいよ。でかいでかい!
くるま:でかいでかい。アツイアツイ!
ケムリ:あっつーい。優勝だ!
――(笑)。先ほどのピースに続いて、カメラマンにもぜひ、そのガッツポーズを見せてください。
ケムリ:「インタビュー中に全クリした松井」と、添えといてください。優勝と聞いて、芸人人生の全クリを予感していますと。
くるま:インタビュー中に写真撮られてるんじゃないよ! できるとしてもラッキー優勝ね。直近2年の優勝コンビの年齢的に、今回は若いコンビが来てもいいんじゃないかと思うし、吉本以外の事務所(の所属芸人の優勝)が続いているから、そろそろ吉本が来るかもと思うので。やらせではなく、そういう時代の流れってあるじゃないですか? これも踏まえて、ある程度は主人公然としてやっていいのかなと思っています。今年は。
――優勝すれば、1ステージあたりの単価(出演料)も上がるといいますし。
ケムリ:そうそう。
くるま:やっぱりね、ケムリさんにはトレンディエンジェルのたかしさんになってほしいから。芸人最強、関東芸人の夢と言われているたかしさんに。
ケムリ:マリオがスターを取った状態ね。
くるま:たかしさん、完璧なんだから! 週3ぐらい働いて。あとはずっと飲みに行っているんだから。しかもいつ飲んでも楽しいんですよ。時間がある分、さまざまなものを見ているからいろいろ知っているし、話も面白いし、いい人だし。最高の人間! だからあの人のようになってほしいのよ、あなたには。
ケムリ:いいねえ。
――多岐に渡りいろいろなお話を聞けました。最後に、2023年の『M-1』で優勝を狙うにあたり、ライバルになりそうだと感じるコンビはいますか? 例えば、ファイナリストとして一緒に名前が呼ばれたらヤバいと思うような。
くるま:ヨネダ2000です。ヨネダだけが最新のお笑いをやっていますから。もう全員ラボから出て来ちゃったんですけど、ヨネダはまだラボに居て、新しいお笑いを追求しています。大きなカプセルの中に入った愛ちゃんが、コポコポしているんで。本人たちはラボにいる自覚はないんですけどね。
あとはもう、時代と審査員の温度次第です。時代が追いつかなかったらヨネダはまだ優勝しないですし、追いついたら優勝する。そういう大会になると思います。というか、優勝する可能性はだいぶ高いと思いますね。なので、時代がヨネダに追いついていないとき、俺らが優勝を狙いたいと思います。
(編集/本間美帆)
【PROFILE】
令和ロマン ◎NSC東京校23期生の高比良くるまと松井ケムリからなるコンビ。もともと「魔人無骨」というコンビ名で活動していたが、2019年5月、元号が変わると同時に「令和ロマン」に改名した。現在は、神保町よしもと漫才劇場に所属。同劇場を拠点に、首都圏近郊や関西、福岡など各地の劇場に出演している。『令和ロマンのご様子』『令和ロマンのUBUGOE』など、配信ラジオの活動も。YouTube→@official-reiwaroman