動画配信サービスが各家庭で多く利用されるようになった。そこで聞こえてくるのが「配信している作品数が多すぎて、何を観たらいいのかわからない」。実は筆者である私もその一人で、トップページをジプシーのごとく、ひたすらスクロールしている。結局はSNSで配信中の作品を検索して、視聴の準備体制に入る。
そんなときにぜひチェックしてほしいタイトルが“平成ドラマ”だ。
『東京ラブストーリー』(Prime Video、FOD)、『ロングバケーション』(FOD)と、毎週月曜は必死で早く自宅に戻り、月9チェックに忙しかった平成当時。それだけではない。月曜から日曜まで、止まることなく作品は放送されて、ファッションやメイクを参考にしていた。そんなテレビ至上主義の時代が日本にもあったのだ。
昭和生まれの大人たちをときめかせた連続ドラマが、今では“平成レトロブーム”として、Z世代にも人気だと聞く。タバコ、乳首、ケンカ、いじめ……もし今ドラマ化されることがあったら、即問題になりかねない表現が自由な平成ドラマ。若者にとっては新鮮に感じられるらしい。
ここからは平成後期に私こと、ドラマオタクの小林久乃が悩み抜いて選んだ3作品をピックアップ。タイトルを読んで何かピンとくるものがあれば、すぐに再生ボタンを!
(※配信データは2023年7月23日現在)
『家政婦のミタ』 笑顔だけが正義ではないと教えてくれた
最終回の視聴率が40%超えという記録を打ち出した『家政婦のミタ』(日本テレビ系列・2011年)。リアタイではなく録画をしてドラマを見るスタイルが一般化していた当時。“視聴率”そのものの存在が疑問視されはじめたころだ。そろそろ二桁代の視聴率を拝むことも少なくなってきたときに起きた、ミラクルヒット作だった。
家政婦の三田灯(松嶋菜々子)は、家族に依頼されたら「承知しました」と、何でもやる。いつも笑わず、必要以上に口を開くことはない。派遣された阿須田家は父親の不貞によって、母親が自殺したばかり。残された4人兄弟の心も荒んでいた。三田は家族それぞれが抱えた悩みや、闇を容赦なくあぶり出していく……というのが、ドラマの概要。
なぜ作品に多くの注目が寄せられたのかというと、放送当時は2011年の秋。そう、東日本大震災によって、日本国民が周囲との絆の深さについて改めて考え直した時期だった。優しくて、穏やかで、笑顔で人々を包み込む。そんな様子が癒やしとされていた価値観を、本音で斬り込んでいく愛もあるのだと、三田さんが一転させたのだった。最終回は当たり前のように号泣でした……。
Huluにて配信中。
『黒革の手帖』 あれこれと「お勉強させていただきました」
1980年に刊行された松本清張の名作『黒革の手帖』。銀行員だった原口元子が、銀座のクラブのママとしてのし上がっていく、いわばサスペンス・サクセスストーリー。1982年から幾度となくドラマ化されて、それぞれ人気女優が主役の座についていた。私が記憶しているのは、浅野ゆう子、米倉涼子。そして今回プッシュする、PrimeVideoで観た、2017年放送の武井咲バージョンだ。
正直に書くと、彼女がこの作品で主演を演じるまで、演技に圧倒されることはなかった。飛び抜けた美女であることは重々承知している。ただこの作品に登場した彼女には、気圧された気分さえ感じるほど、すばらしかった。美しさが5倍ほど増量していたように思う。
20代ながらも銀座のクラブのママだ。高級な着物を着こなして、美貌で男たちを落としていく。おそらく発声もワントーンほど低かったように思う。色気を充満させながらの決め台詞「お勉強させていただきました」は、まさに白眉。武井咲以外に、ため息の出る妖艶さは醸し出せないだろう。余談だが、2021年放送のスペシャルドラマもよかった。結婚、出産を経て新しい美を手にした彼女の演技もぜひ。
PrimeVideo、TELASA(テラサ)にて配信中。
『中学聖日記』 中学校教師とその生徒。禁断の恋に勝るドラマなし
年上の女性教師と、男子生徒による禁断の恋を描いたドラマ……というと『魔女の条件』(TBS系列・1999年)を思い出す。主演は松嶋菜々子と滝沢秀明。どうあがいてももう共演を見ることができないコンビだ。ただどういった理由なのかはわからないけれど『魔女の条件』はどのサブスクでも見ることができない。寂しい、そう思っていたところに私たちのもとへ流れてきたのが『中学聖日記』(TBS系列・2018年)だった。これは歓喜だった。主人公の中学教師・末永聖を演じたのは有村架純。前年に朝ドラ『ひよっこ』(NHK・2017年)で、毎朝、純真な昭和の女性を演じていたポジションから一転、生徒と恋に落ちる役。このギャップもドラマを盛り上げたひとつの要因だった。
恋のお相手は「あの子は誰?」と話題に上った岡田健史(現・水上恒司)。なんの迷いもなく自分の気持ちを聖にぶつけて、そして崩れて、また持ち直して……と成長していく様子が何とも言えず……。と、これ以上書いていると、盛大にネタバレをする可能性があるので控えよう。ただひとつだけ。二人の距離が近づいて、小指同士が触れ合うシーンが最高なのでそこだけは見逃さずに、軽く興奮してほしい。
PrimeVideo、paravi、Huluにて配信中。
(文/小林久乃)
《PROFILE》
小林久乃(こばやし・ひさの)
エッセイ、コラム、企画、編集、ライター、プロモーション業など。出版社勤務後に独立、現在は数多くのインターネットサイトや男性誌などでコラム連載しながら、単行本、書籍を数多く制作。自他ともに認める鋭く、常に斜め30度から見つめる観察力で、狙った獲物は逃がさず仕事につなげてきた。30代の怒涛の婚活模様を綴った『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)を上梓後、『45センチの距離感』(WAVE出版)、『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)と著作増量中。静岡県浜松市出身