始発で出勤し、終電で帰宅……!? きつい営業ノルマと鬼上司に追われながらも、必死に仕事に邁進(まいしん)していく。地獄のような仕事漬けの日々を送るアラサーOLが、あっけらかんとした口調で業務の愚痴や息抜きの様子を語るYouTubeチャンネルが大人気なのをご存じだろうか。
『社畜OLちえ丸』というチャンネルの登録者数は、驚異の34万人強。昨年3月には、そんな仕事や暮らしぶりを描いたエッセイ本『自己肯定感が低くて挫けそうな時、明日の自分のためにゆでたまごをつくる』(著者:ちえ丸/KADOKAWA刊)も出版された。
そのエッセイを原作に、アラサー社畜OL・ちえ丸氏の悲喜こもごもな日常が、このたび待望のコメディドラマ化! Huluのショートドラマ『社畜OLちえ丸日記』で主人公・ちえ丸こと築丸ちえ子を演じるのは、近年出演作が続く最旬女優・玉城ティナさんだ。
2週間の怒涛の撮影期間を終えた玉城さんにお話を伺うと、「まったく演じたことのない役柄でしたね」と感慨深そうに振り返りながら、作品に込めた思いを語ってくれた。
「コミカルに演じ切る」強い決意の理由とは
「撮影現場はみなさんの想像以上に明るくて、笑いが絶えなかったです。共演にはコウメ太夫さんやアキラ100%さんといったお笑い芸人の方々もいらっしゃったのですが、この作品のキモである”コメディ要素”をお二方にお任せすることなく、私自身も主演としてコメディを担うぞ!という意気込みで演じ切りました」
そう、本作はれっきとしたコメディ作品。とは言っても、扱う主題はやはり重い。社畜という言葉からは「ブラック労働」「過労」といったネガティブなイメージも生じやすい。この作品に暗い雰囲気をまとわせることなく、あくまでコメディとして完成させるために、玉城さんはこんなことを考えながら演じたそうだ。
「一歩間違えれば社会問題を描いているようにも映る可能性のある作品だからこそ、コミカルな部分を最大限コミカルに演じ切る、と決めて臨みました。テーマ自体は重たいものでも、ストーリーは軽やかに進んでいくので、脚本にあるその軽やかさを失わないようにしたいと思っていましたね。
もちろん、根本的なことを言えば、ちえ丸のように早朝から深夜まで働きづめ……というのがいいことだとは言い切れないですし、ブラックな働き方がなくなるように社会が変わっていくことが一番だと思います。見てくださる方々にも、ちえ丸と同じような立場の方もいらっしゃるかもしれません。作品を見て、そういう方々の心がつらくなってしまうことだけは絶対に避けたいと思っていました。
だからこそ、ちえ丸がそんな働き方に対してどう向き合っているか、そのユニークな対処法を、真剣に私も”やりきる”。例えば彼女の息抜きや気分転換を、私も全力で実践する……ということを心がけました。そうすることで、見てくださる方の救いになればいいなと思います」
撮影の合間には、原作者のちえ丸氏とも対面したという玉城さん。
「私はちえ子役のお話をいただいたときに、初めてちえ丸さんのYouTubeチャンネルを拝見しました。そのときからちえ丸さんのファンになり、ほぼすべての動画を見たんですよ。お会いできたときは、初めましての気がしないような、不思議な感覚でした。世代が近いこともあり、キャリアに対する考え方や悩みといった部分で似た感覚を持っているなとも感じました。私とおそろいのボブの髪型にしてきてくださったのも嬉しかったです。
私から見たちえ丸さんは、とてもまじめで、心に夢を強く持っている方。その夢をしっかりと自分の力でつかみ取ろうと、努力している方です。超えなきゃいけない壁にぶつかっても、人のせいにせず、自分できちんと問題に向き合っていける、強さを持った女性だなと思います。
その一方で、ちょっと天然で可愛らしい部分も兼ね備えているところが、彼女らしさだなと感じました。私が演じるときも、そんな彼女の多面性を表現したいと意識しましたね」
主人公に負けないくらい「不器用」!?
そんなチャーミングな役どころであるちえ丸の、ちょっと不器用な一面に絡めて、自身が不器用だなと感じることは? と尋ねてみると……。
「全体的にかなり不器用ですが(笑)、とくにそれを感じるのは人と話すときです。私、思っていることの3割くらいを頭の中だけでしゃべって、その途中から口に出してしまったりするんですよ(笑)。言葉に”カッコ”が多いというか。カッコの中まできちんと口に出して伝えるべきなのに、それができなくて受け手に理解をゆだねてしまって……。だから思っていることと違う意味に捉えられてしまうこともあります。
というのも、私は話すときに断定的な言葉を使うのがあまり好きではなくて、曖昧(あいまい)に答えることが多いんです。その曖昧さを“よりよい曖昧さ”にするために、言葉のチョイスセンスを磨いていきたいと思っているところですね」
一言一言、丁寧に言葉を選びながら話す玉城さん。それは彼女がかなりの読書家であることも影響しているのかもしれない。自室の壁一面を愛読書が埋め尽くしているというから、筋金入りの本好きだ。
女優としてだけでなく、モデルや映画監督としての表現活動も行う中で、読書で得るものが役に立っていると実感する瞬間があるという。
「小さいころから両親に“本はたくさん読んだほうがいい”と言われて育ちました。そのおかげか、脚本を読む力は、自分で言うのも何ですが、ついてきていると思います。台詞の行間に込められた真意を読み取る力は、やはり読書のおかげで身についたなと思いますし、今も努力を続けている最中です。
パーソナルな部分でも読書から得るものは大きいですね。先ほどの”よりよい曖昧さ”を表現できるようになるためにも、たくさんの言葉や文章に触れることは大切だと思います。
最近は撮影が続いてなかなか本に浸れていないのですが、時間さえできれば今年もじっくり本を読む時間を取りたいです」
大好きな読書の時間も取りづらいほど多忙な日々を送る玉城さんは、業種は違えど、仕事漬けのちえ丸と似た境遇にあるようにも思える。作中ではちえ丸のユーモラスな息抜きタイムも描かれるが、玉城さんにとっての息抜きはどんなものなのだろうか。
「25歳になって、最近ようやく自分との付き合い方がわかってきました。仕事を終えたら家に帰って、ラクな格好で思う存分くつろぐ。それが最大の息抜きですね。そのおかげか、ありがたく忙しい日々を送らせていただく中でも、心が擦り切れるようなことはほとんどありません。
私の仕事はたくさんの人とつながる仕事なので、その分一人になる時間をしっかり設けるように意識しています。疲れたときこそ自分の心の声を聞いて、今は友達に会うよりも家でゆっくり過ごしたほうがいいな、みたいにチューニングして自分を保っていますね」
“明日も生きてみようかな”と思ってもらえたら
最後に、本作の見どころをズバリ聞いてみた。
「モノローグ(心境吐露)がたくさんあるので、ぜひ注目してほしいです。表情の変化や、ちえ丸の心の動きをぜひ楽しんでください。
ちえ丸は社畜OLですが、仕事に対して毎日本当にやりがいを持って向き合っています。見てくださる方に“ちえ丸のように仕事を頑張って!”と押しつけることはしたくないのですが、それでも労働をコミカルに描いたこの作品を通して”明日も生きてみようかな”、くらいの小さな活力になれたら、それが一番の幸せです」
(取材・文/篠田冴、編集/福アニー、撮影/junko、スタイリスト/松居瑠里、ヘアメイク/今井貴子)
【Profile】
●玉城ティナ(たましろ・てぃな)
1997年10月8日生まれ、沖縄県出身。講談社主催オーディションでグランプリを受賞、14歳で講談社『ViVi』の最年少専属モデルとなる。2014年女優デビュー。代表作には映画『Dinerダイナー』(2019)、『惡の華』(2019)、『グッバイ・クルエル・ワールド』(2022)、『窓辺にて』(2022)など。2023年も映画『恋のいばら』(主演)、『零落』の公開などがある。
【Information】
●ドラマ『社畜OLちえ丸日記』
配信:2023年2月10日(金)21時からHuluで独占配信スタート、毎週金曜21時に新エピソード更新(全15話)
原作:『自己肯定感が低くて挫けそうな時、明日の自分のためにゆでたまごをつくる』(著者:ちえ丸/KADOKAWA刊)
脚本:蛭田直美
監督:横尾初喜、小山亮太
プロデューサー:星野恵(AX-ON)
制作:AXON
制作著作:日本テレビ
出演:玉城ティナ
望月歩 佐藤玲 田村健太郎 大橋彰(アキラ100%) コウメ太夫
/ 内田慈 阿南敦子 平山祐介 / 鶴田真由