鉄道や飛行機にまつわるあらゆる「音」のものまね芸人として活躍する立川真司さん。35年におよぶ芸歴の中で一貫しているのは「現場」でのネタ探しやコミュニケーションだ。そして音まねなだけに、その芸は言語を超えて受け入れられてもいる。必ず“前乗り”するという現地・現場へのこだわりや今年、開業150年を迎えた日本の鉄道への思いも聞いた。
(インタビュー記事の前編はこちら→鉄道ものまね芸人・立川真司の“ダイヤ改正”づくしの半生。走行音にアナウンス、あらゆる鉄道の音をネタに)
乗り物のものまねはユニバーサル! 外国人にも大ウケ
「乗り物の音というのは、気がつかない間に人々の聴覚にインプットされているんですね。生活に身近だからこそ、マニアでない方々でも楽しんでもらえます」
鉄道のみならず飛行機のものまねもレパートリーにしている立川さん。飛行機ものまねも少年時代から鍛えてきた。
「飛行機好きは特撮ドラマの『サンダーバード』が原点で、そのころから音まねもしていました。1号機と2号機での音の違いも再現できます(笑)。特撮少年でもありましたね。
昔、活躍していたプロペラ機のエンジン音のものまねもできるんですが、この音がモンゴルの少数民族の楽器に似ているようで本当に演奏しているのではないかと、テレビの司会者に驚かれたことがあります」
飛行機の離陸から着陸まで、機内の音やエンジン音、空港職員の手ぶりを交えたものまねも実演。これら公共交通をネタにしているがために、日本語がわからなくても外国人のお客さんともコミュニケーションがとれてしまう。
「飛行機のネタは外国人にもウケるんですね。必ずしも流暢(りゅうりょう)な言葉でなくていいんです。ものまねと同じようにデフォルメした口調とオーバーリアクションだからこそ、楽しんでコミュニケーションがとれます。完璧な外国語だとかえってつまらないですよ(笑)。片言と“I‘m トレインマン”というだけでわかってもらえます」
鉄道や飛行機はいわば、万国共通のものまねネタの宝庫。
「国内でも中国語や韓国語の放送が増えてきましたから、これからマスターしていくつもりです。海外のそれぞれに公共交通としての面白さがありますが、やっぱり日本の鉄道はこれだけ多彩な企業があり、列車があって放送のクセや駅で流れるメロディーそれぞれに特色がある。ひとつの国の中でとてもバラエティがあって、楽しさは世界でトップクラスかと思います」
前乗りして情報収集を欠かさない
立川さんが仕事にあたって必ず実践しているのが「現場への前乗り」。仕事では必ず前日に現地入りし、地元の鉄道をじっくり体験・観察してネタを練るそうだ。
「駅員さんや車掌さんのアナウンスをよく聴いて、ネタに生かしています。現地の職員さんのクセも覚えて、列車にも必ず乗って放送や走行音の特徴も把握するんですね。そのとき、いかにもマニア然としてレコーダーを掲げたりしないで、さりげなく音の風景を聴くことが大切。あくまで一般乗客として、その土地でどんな日常が展開されているかを体感するんです」
最近は「実況ナレーション」というネタも始めた。走行中の車内で本職さながらにアナウンスを再現してしゃべり続ける。マスクの下でひっそりと、アドリブ力が鍛えられるネタだ。
「テレビにもたくさん出させてもらった時期もありましたし、YouTubeやツイッターも動画が充実していますが、ネタ収集はやはり現場がいちばんです。だから芸人仲間の間では“前乗り芸人”で通っています」
このインタビューは埼玉県所沢市の、西武池袋線がすぐそばを走る露天のカフェで行ったが、ここも立川さんがアイデアを練る場所。列車のモーター音・ジョイント音・警笛や踏切の警報音・保線作業の音も聞こえてくるので本物の音をふんだんに聴ける環境にある。
「昼間から何時間も座っていることもありますが、人と同じことはしない。これも芸人としてここまでやってこられた一因でしょうね」
現場での反応を楽しむのは『そっくり館キサラ』でのものまねショーでも同じだ。「秋田から来たお客さんがいれば秋田新幹線のネタをやりますし、大阪からのお客さんには阪急電車や大阪メトロのネタも披露できますし、東京の首都高速道路情報のアナウンサーのものまねもできるんです」とレパートリーは広い。北海道から九州まで、ご当地ネタを披露するたびに全国の観客を沸かせている。
鉄道が土地の文化・風土を支えている
このような「現場主義」はお笑い以外の場面でも役に立つと立川さんは力説する。
「セミナーのお仕事でもご当地の鉄道ものまねを披露すると笑ってもらえますが、前乗りしての現場での研究あってこそだと実例をもってお見せするわけですね。お笑いに限らず、どんな業種でも役立つ心構えではないでしょうか」
ものまねライブでは、進行表どおりに終わることもほとんどないという。
「時間どおりにいかないことこそがライブの強みかなとも思います。考えておいたネタは押さえつつ、お客さんとのアドリブを楽しむ。鉄道でいえば臨時列車や増発がバンバンあるのが私のライブです」
日本各地の鉄道の現場を見てきただけに、鉄道の現在についても何かしらの貢献をしたい気持ちを持ってきた。
「時代が変わっても駅があって列車があるのは変わらない。公共財で身近なものです。街ごとの特色ある文化や雰囲気も鉄道があってこそだなと思うんですが、地方に行きますとやはり鉄道が衰えて街がさびれてしまう事例が起きています。これを見るとやはり何とかしたいなという気持ちがあります」
鉄道会社の公式イベントの出演も続いているが、駅の実際の案内放送を仕事として担当したい、という夢がある。
「ギャラも要りませんので、ものまねではなく本物のナレーターとしてお仕事をいただける日が来るといいですね(笑)。何十年も“音”にインスパイアされてきましたが、少年時代、日豊本線の沿線で警笛のものまねをしたら機関士さんが手を振ってくれた、あれが私の原点です。
だから子どもたちの前でも真剣にものまねをすると、彼らも好きになってまねしてくれます。それと、音ももちろんですが鉄道の醍醐味はやはり景色だと思うので、新幹線の窓を昔のように広くしてもらえたらなと思いますね」
乗りもの音まねのパイオニアとして活躍し35年。「好き」を究める立川さんのバイタリティは尽きない。
(取材・文/大宮高史)
《PROFILE》
立川真司(たちかわ・しんじ) 1959年12月生まれ。大分県出身、埼玉県所沢市在住。小野田セメントでのサラリーマン経験の後、独立しものまね界へ。テレビ・ラジオ・イベントなどでの鉄道・飛行機ものまね芸歴35年。ものまねショーレストラン『そっくり館キサラ』レギュラー出演中。アマチュア無線技士3級資格保持。
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