また1週間が始まった。仕事にやりがいはある。学校で友達に会えるのはうれしい。だけど、月曜日はやっぱり憂鬱な気分になるもの。
今週も乗り切れる何かが欲しい! そんな方におすすめなのが、月曜夜11時6分から放送されている『かしましめし』(テレビ東京系)。本作は前田敦子さん、成海璃子さん、塩野瑛久さんが演じる悩めるアラサー3人がどんな日も美味しく“かしましく”ご飯を食べるテレビ東京の新たなグルメドラマです。
新型コロナウイルス感染症が流行し始めてから約3年間、人と集まらない、触れ合わない、騒がないことを心がけてきた私たち。今年に入ってからさまざまな制限が解かれ、もとの日常に戻りつつあるけれど、そもそもなぜ、人はひと所に集まるのか。なぜ、ただの生命維持であるはずの食事を誰かとおしゃべりしながら楽しむのか。
その理由をこのドラマは教えてくれます。
生涯忘れられないマンガのキャラクター
ところで、みなさんには記憶に残っているマンガのキャラクターはいますか? 私はドラマ化されたこともある、おかざき真里さんのマンガ『サプリ』(祥伝社)の水原という女性キャラクターが忘れられません。(以下、『サプリ』ネタバレ含む)
水原は広告代理店で働く主人公の同僚のひとり。メインの人物とはいえず、登場するのも全10巻のうち1巻と少しだけ。それなのになぜ忘れられないかといえば、彼女が途中で自ら命を絶ってしまったからです。
29歳という若さでグラフィックデザイナーとして活躍する水原は優秀で決断力があり、ユーモアも兼ね備えている。働く女性からしてみれば、まさに憧れ。だけど、家では一向に働こうとしない恋人の存在に悩まされていました。
それでも彼女にとっては安定剤のような存在だった恋人でしたが、のちに浮気が発覚。さらには探偵を雇い、家を出て行った彼の素性を調べると、自分に語っていたことが何もかもウソだったとわかります。すると途端に足元の崖が崩れ、そのまま底が見えない深い場所へ呑まれていくように水原は死に向かっていきました。その様子が、経験したこともないのになぜかとても生々しく感じられたのです。
何より恐ろしいのは、水原が苦しんでいたことを私たちはマンガで読んでいるから知っているけれど、実際に彼女のそばにいたら気づかないだろうなという確信があること。だって、水原は死の直前まで会社では笑顔を保っていたから。こうやって誰も気づくことなく失われていく命がいくつもあるということをそのとき実感しました。
『かしましめし』は“共食”に何の可能性を見出す?
同じくおかざきさんのマンガが原作となっているドラマ『かしましめし』の3人も、自ら命を絶った同級生の葬儀場で再会を果たします。そこで前田さん演じる主人公の千春は、もともと恋人同士だった故人が塩野さん演じるゲイの英治とも付き合っていた過去があることを知ります。そのとき、千春はこんなことを思うのです。
「古い建物がなくなって新しいビルができると、あれ? ここには前、何があったっけ? って記憶が混乱する。彼はそういう人だったっけ? 私は何を見てたんだろう」
私たちはみんな忙しなく生きる日々の中で、いろんなものを見過ごしてしまいます。ときとして、誰かの死の兆候でさえも。それぞれの人生があるから、仕方ないところもあるのかもしれません。ただでさえ、動物の一種である人間は本能として弱みを隠すのが得意なのだから。だけど、仕方ないと断言してしまうにはあまりに悲しい。
そこで、人々が生き延びる術として“共食”に可能性を見出したのが本作だと思います。
上記の再会をきっかけにみんなで集まってご飯を食べるようになり、やがて一緒に暮らし始める3人。千春は憧れの会社に就職するも、上司からのパワハラにより退職。成海さん演じるナカムラは恋人から突然婚約破棄され、英治は会社でデザイナーから営業に回された挙句、恋人とも音信不通と、それぞれいろんなものを抱えています。だけど、相手から無理に悩みを引き出して、共感を示したり、アドバイスしたりするわけじゃありません。
ただ、一緒にご飯を食べる。その中で悲しかったことも、うれしかったことも話したくなったら話せばいい。聞くほうも安易に否定も肯定もしない。そういう千春たちのスタンスを多くの人は望んでいるのではないでしょうか。
さまざまな違いが溶け合う食事の時間を描いたテレ東のドラマ
性別、年齢、出自、性的指向、価値観。近年、テレ東ではそれらの違いを超え、人と人が食でつながるドラマが多数放送されています。
例えば、今年1月期放送の『今夜すきやきだよ』では、蓮佛美沙子さん演じる家事が苦手な恋愛体質のあいこと、トリンドル玲奈さん演じる家事が得意なアロマンティック(他人に恋愛感情を持たない)のともこによる恋でも友情でもない共同生活を描きました。
一方、西島秀俊さんと内野聖陽さん主演で、ゲイカップル・シロさんとケンジの日常を描き、人気を博したのが2019年4月期放送の『きのう何食べた?』。どちらの生活にも必ず設けられていたのが、食事の時間です。
あいことともこはもちろん、属性にこそ共通点は多いけれど、真逆の性格をしているシロさんとケンジ。だから、すべてをわかり合うことなんてできません。それは、どんな関係の人たちであれ同じ。
だけど、一緒にご飯を食べているときは境界線が曖昧(あいまい)になって、そこにいる人全員が溶け合えるような気がします。ああ、私たちはどんなときも生きるために食べる同じ生き物なんだなぁと思える。そんな愛おしい瞬間が丁寧に描かれたドラマ『かしましめし』。私の今期イチのおすすめです。
(文・苫とり子/編集・FM中西)