幼少期から警察の世話になり、高校中退後は坂道を転げ落ちるように真っ当な人生から遠ざかっていったのは、不良ファッションの専門通販サイト『悪党の店 BIRTHJAPAN(バースジャパン)』(新潟県南魚沼市)の社長・石川智之さん。
2006年に一念発起してネット通販を始めてから17年、いまやヤクザやヤンキーファッションの取り扱い点数や、“悪”をとことんまで追求したデザイン性で、他の追随を許さないまでの存在となった。
一度見たら忘れないサイトは、“悪党”以外にも強烈なインパクトを与え、SNSで話題になることもしばしば。
ヤクザやヤンキーものの映画やドラマでも数多く衣装協力を行い、テレビ番組に出演することもある石川さんは、どのように『悪党の店 BIRTHJAPAN』のブランド力を確立させていったのだろうか?
◇ ◇ ◇
自身の知見と独学で、不良ファッションのトップランナーに
2009年から、不良ファッション専門にかじを切ることにした石川さん。『悪党の店 BIRTHJAPAN』にアクセスすると、とにかくギラギラしていて、クドいことこの上ない(褒め言葉!)。
「一度きりのこの人生 自分らしく派手に輝こうぜ!」「秒で社会のガンになれるマスク」「邪魔な野郎は蹴り飛ばせ 靴」といった強烈なコピーがあると思ったら、「月間優良ショップ受賞 全國のゴロツキのみなさまに心より御礼申し上げます」「女性スタッフが誠心誠意対応いたします」など、やたらとていねいだったりして、このカオスっぷりがクセになりそうだ。
こうしたサイトデザインやキャッチコピー、写真のディレクション、商品の仕入れ、オリジナル商品のデザイン、発注などはすべて石川さんが担当している。
高校中退でまともな会社で働いたことがなかった石川さんは、すべて手探りで経験を重ね、商品デザインに欠かせないPhotoshopやIllustratorなどの各種ソフトの扱いも独学で習得した。
「キャッチコピーについては、人には言えないような商売をしていたときに身につけました。とあるものを販売するために、出会い系サイトなどに書き込みをするのですが、文字数が限られているうえに、禁止ワードもありました。
そんな制約の中、いかに人の興味を引くかを徹底的に考えていたんです。あのときの経験が間違いなくいまに生きていますね」
オリジナル商品やバリエーションの豊富さの秘けつ
問屋から商品を仕入れていたものの、不良ファッションを扱うメーカーや問屋は決して多くはないうえに、減る一方。そこで、石川さんは、自分でオリジナル商品を作ることにした。
「既存の不良ファッションを見ていると、このデザインにあのフォントは合わない、と気になることがよくありました。徹底的に悪く見せたり、とがったファッションを追求するなら、自分で作ったほうが早いと思ったんです。
当時はすごい円高で、中国の工場に発注するときに、何種類も大量に発注したほうが安くなったので、アイテム数がどんどん増えていきました」
こうしてしゃれこうべや龍、虎や般若(はんにゃ)など、ヤンキーファッション定番の意匠をふんだんに使い、石川さん独自のセンスが光るアイテムがどんどん増えていくことに。大まかな方向性はいまも石川さんが担っているが、近年は海外のデザイナーが手がけた絵柄も取り入れているという。
「ドラマ『ナンバMG5』(フジテレビ系)で間宮祥太朗さんが着用していたモノクロの虎柄アロハシャツは、イギリス人女性デザイナーの作品です。この人は日本のヤンキーカルチャーに興味があってデザインをしてみたいと、Facebookで連絡をくれました。他にも自分がネットで探したデザイナーに連絡を取ることもあります」
たくさんのアイテムを作るのはいいとして、アパレル業界の宿命として、流行との戦いがある。ある年にたくさん売れた人気アイテムであっても、シーズンが終わるころにセール販売し、ときには廃棄処分をせざるをえないことが多い。
しかし、不良ファッションには目まぐるしい流行というものが存在しないため、細く長く売ることができるという。実際、2012年に作った龍の柄のジャージはいまでも一番人気で、モデルチェンジもせずに売れ続けているという。
「不良ファッション自体が下火で、流行(はや)りすたりもないので、極端に売れはしないけど、まったく売れないということもない。会社があるのは新潟の田舎なので、在庫をたくさん抱えておける大きな倉庫もあります。都会でこの在庫量で商売していると、たぶんビジネスとして成り立たないと思います」
ピコ太郎のあのトレードマークの衣装も
2016年に世界的なブームを巻き起こした『PPAP』(ペン・パイナッポー・アッポー・ペン)のピコ太郎さんが着用していたアニマル柄ファッションは、実は『悪党の店 BIRTHJAPAN』で販売していた商品だった。
2011年に仕入れたものの、全然売れなくて、石川さんが珍しく「仕入れに失敗した」と思っていたものだったという。
「2014年くらいにやっとほぼ売り切ったと思ったら、ピコ太郎さんの衣装で注目されて、“同じものをください”と注文がいっぱい来ました。取材で問い合わせが来るまで、うちの商品だと気づかなかったくらいです。でも、このころには在庫はほとんどなかったので、あまり儲(もう)かりませんでしたけど」
また、“悪党の店”を掲げているだけあって、初めて商品を購入しようとしている人からは、「本当に商品が送られてくるのか?」「不良品があったときに、ちゃんと対応してくれるのか?」と不安を抱かれることも少なくないという。
石川さん自身、そのことは重々承知しており、サイトでは“悪”を全面に出しているものの、迅速かつていねいな対応を心がけているという。
「不良ファッションを扱っているからこそ、お客さんを不安にさせないようにといちばん気をつけなくてはならないと思っています」
「ムショ割」や「出所割」独特なネーミングのセールを銘打つ
その一方で、“悪党の店”を逆手に取った試みも積極的に行っている。その代表例が、「悪人のための新生活応援フェア」と銘打った「ムショ割」や「出所割」だ。「ムショ割」は、刑務所、拘置所などに収監されている本人もしくは、差し入れとして送る人が対象。
「出所割」はその名のとおり、刑務所、拘置所などから出所して3か月以内の人もしくは、知人や友人の出所祝いを贈りたい人が対象だ。いずれも5%の割引クーポンが付与される。
「実際に該当者が使っているかどうかまではわからないのですが、クーポンを利用される方はけっこういらっしゃいます。普通のセールをやっても面白くないし、インパクトがない。
これなら『BIRTHJAPAN』で買った、ということも覚えてもらえますし。ちなみに、『店長逮捕18周年反省大セール』なども実施しています」
『悪党の店 BIRTHJAPAN』がSNSで話題になることが多いのも納得だ。石川さん自身は、ネタにされても宣伝になるし、ツイートした人が購入しなくても、それを見た誰かがサイトに興味を持ってくれればいいと割り切っている。
仁義を尽くすのが『BIRTH JAPAN』流の本当の悪党
しかし、一方的な悪口を言われたときは別で、SNS上でガツンと言い返すこともある。昨年も、『悪党の店 BIRTHJAPAN』のとある試みが、SNSで注目を集めた。それは、「ウクライナ支援企画」だった。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって間もないころ、オリジナルデザインのチャリティTシャツを作り、1枚3500円で販売。うち1000円を、日本赤十字社を通じてウクライナの人道危機救援金に寄付することにしたのだ。
「侵攻のニュースを見て、この戦争を見て見ぬふりをしてはだめだという気持ちがすごくありました。他国に攻め入って命や自由を奪っていい理由になどなるわけがないし、何らかの支援をすべきだと思いました。
また、ちょうどウクライナ人デザイナーと手を組んで仕事を始める矢先だったということもあり、彼とのメールのやりとりで最後に使っている『Слава Україні(ウクライナに栄光あれ)』というフレーズをTシャツにデザインしました。
思った以上に反響があり、嬉しかったです。“やらない善よりやる偽善”で、自分ができることをするまでです」
現実社会では、ヤクザやヤンキーは疎まれる存在であるにもかかわらず、彼らが登場するマンガやドラマ、映画は根強い人気があり、そうした人々が着用するファッションアイテムを扱う『悪党の店 BIRTHJAPAN』は順調な売上を見せているのはなぜなのだろうか?
「日常生活ではいろんな制約があって、言いたいことを言えない人はたくさんいます。ヤンキーには、“こんなことをしたらダメ”ということを気にせず、自分の気持ちに正直に、自由に、何者にも縛られない強さがあるように見えるから、魅力的に感じられるのではないでしょうか。
また、ファッションについても、もともと自分に自信があればあんな格好をしなくてもいいと思うんですけど、生きづらさを感じて不良になってしまった人たちが何かをしようとして、自信や勇気が欲しいと思ったときに、背中を押してあげられるようなファッションを作っていきたい、というのはすごく思いますね」
今後もブレることなく“悪党の店”を貫いていく石川さんにはふたつの目標がある。ひとつは、『悪党の店 BIRTHJAPAN』に来れば、日本だけでなく、世界中の不良ファッションが手に入る店にすること。もうひとつは、日本の不良ファッションを世界に発信するということだ。
「アメリカならギャング、イタリアならマフィア、メキシコならカルテルなど、うちのサイトに来ればこうした不良ファッションの文化がひと目でわかって、それが買えるようにしたいですね。以前から、海外からの購入はあったのですが、円安ということもありますし、もっと販売していけるといいなと思っています」
新潟・南魚沼から世界へ、どこまでも独自のスタイルを貫き続ける。
(取材・文/吉川明子、編集/本間美帆)
【PROFILE】
石川智之(いしかわ・ともゆき) ◎新潟県出身。高校を中退後、大阪~埼玉を渡り歩きながら3年間の逃亡生活を経て、不良ファッションに特化したアパレルショップ『BIRTH JAPAN』を設立。その後、バラエティー番組『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)『阿佐ヶ谷アパートメント』(NHK)などの多数のメディアに取り上げられ、その独特な店構えと自身のこれまでの生き方が話題を呼び、支持されている。