暗くなったステージにスポットライトが当たる。ダンサーの真ん中にあぶり出されたのは、黒い「あの人」、そう、くまモンだ。
音楽に合わせて華麗なステップを踏み続ける。感染対策のため大きな声は出せないが、舞台を見守るファンたちの“声にならない歓声”が、じわじわと客席を包み込む。
東京女子体育大学の新体操競技部・ストリートダンス部のダンサーたちとのコラボで、2年ぶりの「くまモンファン感謝祭2022 in TOKYO」(以下:ファン感)は始まった。
規模縮小を感じさせない“粋な配慮”の数々
会場の新宿文化センターでは観客数を半数に制限、密にならない対策がとられた。いつもなら楽しみな物販や展示ブース、熊本のくまモンスクエアによる出張販売も中止。ステージのみに特化されたファン感となったが、それだけではおさまらないのが、くまモンとくまモン隊のサービス精神だ。
ロビーには、「くまモンのぞき見ボード」、熊本・人吉球磨地方の写真展が展開され、2階には、くまモンと写真が撮れるコーナーが3か所も設置されていたのは、なんとも粋な配慮。実写パネルが2つ、そしていちばん人気だったのは、3Dくまモンだ。ほんのひと回り、本人よりは小さいが、まさにくまモンそのもの。距離をとりながらではあるが、ここには列ができていた。本人でさえ「びっくま」しながら眺めてしまうできである。
そして1階から2階への階段脇のガラスをはじめ、あちこちにくまモンの足跡もついていた。おそらく、くまモンが会場をくまなく動き回って足跡をつけていったに違いない。
幻想的ですばらしいダンスのあとは、ステージに人気漫画『ONE PIECE』のルフィが登場! くまモンも大感激で、ふたりは旧交を温め合う。
2016年4月の熊本地震直後、『ONE PIECE』の作者で熊本出身の尾田栄一郎さんから「必ず助けに行く」というメッセージが届いた。このメッセージを、復興に向かう熊本の「原動力」としていくため、『ONE PIECE』と熊本県が連携した『ONE PIECE 熊本復興プロジェクト』が立ち上がった。2018年には県庁敷地内にルフィの銅像が設置、以降、県内のあちこちに麦わらの一味の銅像が建設されている。その縁で、今回はルフィが直々に舞台に登場してくれたのだ。
その後、スクリーンには「おうち時間」を過ごすくまモンの様子が流れたり、「くまモンによる、“くまトーク”」のコーナーがあったり。
ソファにドン! とジャンプしながら座るくまモンがあまりにかわいく、客席からクスクスと笑いが漏れる。足をぶらぶらさせたり、突然、ソファに寝転んで、質問を聞いていなかったりとフリーダム。
好きな食べ物を聞かれると、がぜん張り切って立ち上がるのも彼らしい。大好きな熊本の食べ物を、たくさん絵に描いてきていた。スイカやトマト、あか牛(牛そのものの絵だった!)、馬刺しなどなど。笑えたのは「トマトを育てているくまモン」の絵。どう考えても足が長すぎたりと、自画像に若干、認知の歪みがあるようだが(笑)、本人はいたって冷静に発表していた。
くまモンとファン、お互いに感謝し合えた1日に
さらに『ハッピーくまモン』や『くまモンもん』などの持ち歌ダンスメドレーも披露。くまモンのデビュー10周年を記念して作られた新曲『かモン!くまモン』では、あらかじめ「くまモンには内緒」でスマホのライト機能を使い、サビの部分でライトを舞台に向けるよう観客への誘導があった。
その部分がくると、みんながいっせいにくまモンに向けてライトを振る。少し慌てたようなくまモン、そのあと、ライトを浴びながらステージを走り回ってお辞儀、お辞儀……。ファンからささやかなサプライズをくまモンに送れるような、ありがたい配慮だった。
そしてステージの最後には、最近、あまり披露する機会がなかった『くまもとサプライズ!(くまモン体操)』。「“やっぱりイベントの締めは、この曲でないとね”というファンの声が反映されていたのがうれしい」と、あとでみんな口々に言っていた。熊本の魅力がたっぷりつまったこの曲、「よかった~」の歌詞に合わせて、くまモンが身体を90度も傾ける、なんともむぞらしい(かわいい)のポーズに、客席もノリノリになる。
「モンモンモン~、くーまモン♪」
手拍子も絶好調となったころ、上からひらひらとピンク色の何かが降ってくる。床に落ちた1枚を拾いあげてみると、なんと桜の花びら。そこに「いつも応援ありがとまと★」「みなさん、だいすきだモン」などのメッセージが、くまモンのサインとともに手書きで書かれている。どれだけの枚数を書いたのか……。ファンからの応援を心から喜んでいるくまモンの心情が伝わってくる。
コロナ禍での開催となり、いつものファン感より時間が短かった。衣装持ちならではの、くまモンのファッションショーもなかった。いつも来てくれる、地元・熊本のお友だちキャラの登場もなかった。
それでも……。
「涙腺崩壊した」というファンの声がやまない。ステージ終了後には目を潤ませた人々が興奮しながら、あるいはしみじみとくまモンについて語り合っているのを目撃。
「絵がかわいかった」
「最初のダンスのステップ、すごかったね」
「短い時間だったけど、内容は凝縮されていた」
「これがファン感。原点に戻った感じでうれしかった」
などの声が聞こえてきた。
こんなご時世なのに、手作り感たっぷりのファン感を開催してくれただけでうれしい。ファンの思いは、そこに尽きるのかもしれない。
(取材・文/亀山早苗)
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