動物の名前をアルファベット表記したビスケットの「たべっ子どうぶつ」に、黒ごまが入った独特の形状でおなじみの「アスパラガスビスケット」など、ロングセラー商品を生み出す製菓会社のギンビス。多くの人が一度は食べたことがあるであろうお菓子の誕生秘話や、商品に込めた思いなどを営業本部広報担当の吉村萌子さんに伺いました。
知ってた?「ギンビス」の名前の由来
──普段何気なく目にしていた「ギンビス」という会社名ですが、この社名になった経緯から教えてください。
もともとは、1930年に「宮本製菓」という名前で創業し、戦後、銀座に営業所を移して「銀座ベーカリー」という社名になりました。
1974年に、当時は銀座が流行の発信地点であったこともあり、「銀座で一番おいしいビスケットを作ろう」という思いも込めて「銀座」と「ビスケット」を合わせた「株式会社ギンビス」という社名に変更しました。
──1969年に「たべっ子どうぶつ」の元祖となった「動物四十七士」という厚焼きビスケットを発売しています。すでにこのときから「どうぶつ」の形をしたビスケット、というコンセプトが固まっていたのですね! しかもすでに47種類の動物がいて驚きました。
もともと弊社の創業者・宮本芳郎が動物好きで、自宅で子熊や犬、仔豚、鳥、金魚といろいろな生き物を飼っていたんです。その動物好きがこの商品の発想につながったのですが、動物の形は言葉を超えて認識し、わかり合えるもの。その動物たちの英語名をビスケットに書けばどの国の人ともわかり合えるのでは、ということで動物を選んだと聞いています。
──英単語が印字されているビスケットというのも、当時はまだ珍しかったと思うのですが、このアイデアはどのような思いから生まれたのでしょうか。
弊社の経営方針に「International(国際性)」、「Independent(独自性)」、「Instructive(教育性)」を総称した「3つのI」というものがあるのですが、それを具現化した商品になっていると思います。「たべっ子どうぶつ」は“親子のコミュニケーションビスケット”というコンセプトなので、親子で楽しみながら、おいしく学べるようなお菓子を作りたいという思いから誕生しました。今でこそ動物の形を模したお菓子はたくさん出ていますが、発売当時はこの形状は他では類を見なかったと思います。
──この形のビスケットを作ることが、とても難しかったそうですね。
難しい理由のひとつに、薄焼きであることが挙げられます。「動物四十七士」は厚焼きのビスケットでしたが、より食べやすさと親しみやすさを重視した薄焼きビスケットを作ろうと思うと、あの形で、さらにアルファベットを印字して、というのがとても難しいことでした。味はもちろんおいしく、なおかつ多くの方にお届けできるような販売方法で作ることは、なかなか難しかったようです。
海外でも大人気! 幻の限定味も?
──「たべっ子どうぶつLAND」の展示にもありましたが、「たべっ子どうぶつ」は、現在25以上の国と地域で展開されているそうですね。海外の方からはどんな反応がありますか?
弊社の製造工場が中国にもあることから、昔からご存じの方も多いようです。アメリカでの販売にも力を入れているので、店頭でよく見かけるというお声や、「おいしい」という反応をいただいています。
「たべっ子どうぶつ」は中国表記だと漢字で「愉快動物餅」、アメリカや東南アジア地域では「Dream Animals」という商品名で販売しているので、日本の商品名である「たべっ子どうぶつ」という名前で認知されているかはわかりませんが、日本の技術を駆使したお菓子として、海外にもどんどん広めていきたいと思っています。
──「たべっ子どうぶつ」に「のり」や「チーズ」味があったことは知らなかったです!
「のり味」や「チーズ味」は、今は海外だけで販売されているのですが、以前日本でも発売していたことがあり人気があったようで、今でも再販売希望のご連絡をいただくことがあります。
最近ですと、フランス産発酵バター「ラ・ヴィエット バター(A.O.P)」を使用した「たべっ子どうぶつこだわりのバター味」や、石臼挽き抹茶チョコを中までしみ込ませた「抹茶のたべっ子どうぶつ」を期間限定の新商品として発売しています。限定味はいま力を入れているところでもあるので、ぜひシーズンごとにチェックしてみてください。
──45年間も発売されている「たべっ子どうぶつ」ですが、「こんな食べ方、楽しみ方をしています」という声はありましたか?
動物の形がちょっとずつ違っていて、例えば、雄牛(OX)と雌牛(COW)は、パッと見るだけだと似ていますが、実は微妙に違うんです。それを手で触って、何のどうぶつの形か当てるクイズとして楽しんでくださっているお客様もいらっしゃいました。私たち社員でもすべてを見分けるのは難しいので、すごいなと思います。
8つの節とごまがおいしさの秘訣「アスパラガスビスケット」誕生秘話
──ギンビスさんのもうひとつの看板商品と言えば「アスパラガスビスケット」ですが、
この商品の開発秘話などがあれば教えてください。
「アスパラガスビスケット」は、創業者の宮本が「真似をされても真似をするな」というポリシーから誕生した商品なんです。当時のビスケットといえば、丸や四角い形状が一般的でしたが、他にないオリジナル性の高いビスケットを作れないかと模索し、思いついたのがスティック型の「アスパラガスビスケット」でした。
「アスパラガスビスケット」には、1本につき8つの「節」があるのですが、この「節」をつけることによって、カリッとした食感を出しています。当時は甘いビスケットが主流でしたが、塩とごまを加えることで大人の方にも好んでいただけるお菓子になりました。
──発売後、お客様の反応はどんなものが多かったのでしょうか。
当時は高級野菜だったアスパラガスに形が似ているということで「アスパラガスビスケット」という名前にしたのですが、それが珍しいと思われた方が多かったようですね。今でも「野菜のアスパラガスが入っているんですか?」というお声をいただくことがあります。野菜のアスパラガスはいっさい入っていないのですが(笑)、形や名前の独自性とユーモアも楽しんでいただければと思います。
──黒ごまと塩気が効いているところもおいしさのポイントかと思いますが、おすすめの食べ方はありますか?
お酒のおつまみとして召し上がっていただいている方や、アレンジして楽しんでくださっている方が多いです。おつまみで召し上がるという発想から、昨年の秋冬商品から「ミニアスパラガス おつまみベーコン風味」を発売しています。
──ギンビスさんの商品の中でチャレンジングだったお菓子はありますか?
チャレンジという意味で言うと、「しみチョココーン」ですかね。この商品をはじめ、他にも生地の中にチョコレートをしみ込ませたお菓子をいくつか発売しているのですが、それらに用いているのが、日本ではギンビスが他社に先駆けて取り入れた「含浸製法」です。
薄いビスケット生地にチョコをしみ込ませるというのが難しく、途中で割れてしまったり、中までちゃんとしみ込んでいなかったりと、難しいことがいろいろあったのですが、この製法を展開してからは「たべっ子水族館」や「チョコがしみこんだミニアスパラガス」などの新商品が次々と生まれ、若い世代の方にも人気があります。
合い言葉は「お菓子に夢を!」キャラクターからお菓子につながれば
──GUやヴィレッジヴァンガードなどの人気ブランドともコラボし、そのたびにSNSで大きな話題を集めていますね。イベントも含め、若い世代の方にも「たべっ子どうぶつ」の人気が再燃していますが、このような企画の意図はどんなところにあるのでしょうか。
「たべっ子どうぶつ」は、昔からご愛顧いただいている方が多い商品ではありますが、より多くのお客様にお菓子を手に取っていただくために、「たべっ子どうぶつ」たちの丸みがあってカラフルなかわいらしいパッケージキャラクターの特性を生かしたいと考えました。日常で使っていただきやすいように、コラボグッズもキッチン用品や文具といったアイテムも多いんです。
まずはキャラクターを知っていただき、そこからお菓子への興味にもつながっていただければという願いもあるので、「たべっ子どうぶつLAND」のようなイベントやコラボグッズなど、ワクワク感や世界観を楽しんでいただけるような企画は今後も続けていきたいです。
──「たべっ子どうぶつLAND」内やイベントに行った方のSNSでも、「My推し」キャラのグッズと一緒に写真を撮っている方々を多く見かけました。
そうなんです。弊社としても特に規制はしておりませんので、それぞれお好きなように楽しんでいただければと思っています。ほかにも、推しのどうぶつさんの色と合わせたお洋服をコーディネートされて来場する方も見かけますよ。
──特に吉村さんのおすすめの商品は何ですか?
私が個人的に好きなのは「たべっ子どうぶつ」の全粒粉タイプや、スタンダードな「アスパラガス」ですね。あとは、新商品の「素材にありがとう」シリーズもおすすめです。山形県産のだだちゃ豆を使用した「焼き枝豆」など、素材のおいしさと栄養を取り入れた商品なのですが、おつまみにもおすすめです。
「ギンザワッフル ミニ」はコーヒーや紅茶によく合うので、休憩中のおやつにぴったりなんです。個包装されているので食べすぎ防止にもなります(笑)。
時代や環境が変わっても「変わらない」お菓子づくりを
──では最後に「ギンビス」がこれから目指すお菓子作りを聞かせください。
「お菓子に夢を!」を合言葉に、お菓子の存在意義を「食品」としての枠にとどめず、知育性やコミュニケーション性、エンターテインメント性などを付与した商品作りを目指したいと思っています。
「たべっ子どうぶつ」をはじめ、弊社の商品は世代を超えて愛され続けているお菓子だと自負しております。私自身も、学生時代に保育園でアルバイトをしていたときに「たべっ子どうぶつ」がおやつに出ていたことや、結婚して主人とスーパーに買い物に行った際「たべっ子どうぶつ」を見つけて思い出話をしたこともあり、多くの人にとって共通の思い出があるお菓子なんだなということを実感しています。
「アスパラガスビスケット」は55年、「たべっ子どうぶつ」は45年、「しみチョココーン」は20年と、どれも長きにわたって販売している商品ですが、世界的に見ても100年以上続いているロングセラーのお菓子はほとんどないと思うので「100年ブランド」を目指していきたいですね。
──確かに、これだけ長くひとつの商品があり続けることは、変化の多い今の時代では珍しいことかもしれません。私も、祖母からおやつに「たべっ子どうぶつ」をもらったのが最初の記憶なので、成長とともにあるお菓子だなという印象です。
弊社は「親子3世代」という言葉をよく使うのですが、おじいさま、おばあさまからお孫さんへと、ご家族みなさんで楽しんでいただけるお菓子ということを大切にしています。
また、味と品質を変えないことに価値があると考え、そこに注力しています。時代や環境が変わっていく中でも「変わらない」お菓子作りをこれからも続けていきたいです。
(取材・文・撮影/根津香菜子、編集/福アニー)
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【インフォメーション】
「たべっ子どうぶつ」のどうぶつが登場する初の占い本『たべっ子どうぶつ占いBOOK』(双葉社刊)が全国の一般書店で発売中。12種のどうぶつたちから自分のキャラクターを見つけ、自分のことがわかる本質占いから、気になる相手との相性がわかる相性占いまで、読み応えたっぷりの一冊(監修:⻘木良文)なので、こちらもチェックしてみてください♪