「ルーズソックス」や「たまごっち」──平成の時代を明るく照らした“平成カルチャー”。1990年代に流行したブランドやアイテムが、令和のいま、Z世代やミレニアル世代の間で再燃しているようです。
最近では、ローティーンを中心に流行した『ANGEL BLUE』や、原宿ストリートファッションをけん引した『SUPER LOVERS』など、平成を代表したブランドたちが、次々と復刻されています。そこに、大手ファッションブランドがコラボに名乗りを上げるなど、まさに目が離せません。
編集Hいわく「私自身、渋谷・原宿を起点に生み出されるカルチャーに身を染めながら、平成の青春時代を過ごしてきたわけですが、令和のいま、メディアをにぎわす平成色に懐かしさを感じながらも、内心どこかでは“でも、なぜ、今ここにきて再燃?”といった疑問が拭(ぬぐ)えないのです」とのこと。
そこで今回、平成から令和に移り変わって間もない今、どうして平成カルチャーが持てはやされているのか、平成カルチャーを通して私たちが見ているものは何なのか。その疑問を、SNSを中心に平成ガールズカルチャーについて独自の視点で考察し、発信しているTajimaxさんにお話を伺いました。
「つい、買ってみました」というライトユーザーが増えている
「90年代を中心とした“平成カルチャー” への注目は、今に始まったことではありません」と語るTajimaxさん。
Tajimaxさん「それこそSNS上では、平成から令和に変わる2019年あたりから、すでに“平成を振り返る”という形で、盛り上がっていました。2018年の元号改正の発表や、安室奈美恵さんの引退を皮切りに、平成を振り返る機会になったのもあると思います。その後、浜崎あゆみさんの半生を描いたドラマ『M 愛すべき人がいて』がバズったり、アニメや映画にもなった『東京卍リベンジャーズ』は、主人公が現代から2005年にタイムリープするというストーリーで大ヒットしました。このように、4年ほど前から多くの平成カルチャーを目にしてきました」
──その影響なのか、個人だけでなく企業までもが、この“平成カルチャー”に注目しています。実際、2021年に「エモいは正義」をテーマに掲げ『BETTY’S BLUE』が12年ぶりに復活。今年は、同じく令和にリバイバルした『LOVERS HOUSE』との初めてのコラボが実現しています。さらに『LOVE BOAT』の新作がヤングカジュアル専門店「アベイル」で発売されるなど、次々と90年代を象徴するブランドが復刻され、話題になっています。
アパレルメーカーの株式会社ブランチ・アウトは、「LOVE BOAT」の新作アイテムを製造。その後、株式会社しまむらの「アベイル」で発売し、SNSを中心に話題に。その他、平成を席巻したファッションブランドにリスペクトを持つ、令和のアパレルブランドたちが、次々にコラボアイテムを発表し話題に。
──では、なぜこの「平成カルチャー」が若者ウケするのでしょうか。
Tajimaxさん「ちょうど今が、ファッション業界でよく言われる、20年周期で繰り返される『流行回帰』というのも1つの理由だと思いますが、一番は『SNSでバズりやすい』からです。平成ネタはトレンドとして上位にランクインにしやすいため、発信欲求が強いZ世代を中心とした若者も敏感に反応し、投稿しています。それに、彼らも幼少期の記憶がどこかに残っていて、親近感や懐かしさを感じるのもあると思います。また、上の世代が慣れ親しんだアイテムを持つことで、その世代とのコミュニケーションが取りやすくなったりします。そんな理由で追いかけている人も少なくありません」
まさに、デジタルネイティブ世代ならではの反応かもしれません。さらに、「最近はまた新たな傾向がある」と話す、Tajimaxさん。
Tajimaxさん「最近特に目立つのは、ブランドの熱心なファンではなく、ライトユーザーの広がりです。SNSで盛り上がっているブランドを手に入れて、Instagramで“買っちゃいました!”と、紹介する例。このように、当時流行(はや)ったブランドや、手に入りやすい手頃な価格の復刻アイテムを、コレクション的に購入する人も増えています」
コロナ禍の巣ごもりが平成ファッションの“バズり”を加速
Z世代を中心とした若者の志向や価値観にマッチした平成カルチャーのムーブメント。しかし、「話題になっているほどの実感がない人も、実は多いのではないか」と、Tajimaxさんは指摘します。
Tajimaxさん「なぜなら、ほとんどがSNS上で完結しているからです。たしかに高校生たちがルーズソックスを履いている姿を目にしますし、渋谷の109に行けば『SUPER LOVERS』のTシャツや『BETTY’S BLUE』のバッグを身につけた子がいますが、それが大多数を占めるかといえば、数える程度。リアルな日常では、SNSのバズり方ほどの反響はありません。どちらかというと、ストリート系ファッションのワンポイントに、90年代のブランドのバッグやシャツを取り入れている傾向が強いと思います。
それは、見ているメディアによって、それぞれ情報の速度が違うからだと感じています。例えば、Twitterではバズっていると騒がれていても、Instagramではそうでもなかったり。SNSで平成カルチャーがどんなに騒がれていても、街に出ると全員が同じ格好をしているわけではないのは、そういう理由からだと思っています」
──韓国で流行した“Newtro(ニュートロ)”といわれるリバイバルブーム。これらの影響も受けているのでしょうか。
Tajimaxさん「“Newtro”とは、“NEW(今)”と“RETRO(昔)”を融合させた新しい過去という意味の韓国発の造語で、K-POPファッションとして生まれました。昨年、ロングブーツやチェック柄のプリーツスカートなど、日本の90年代ファッションアイテムが流行ったのは、 韓国のBTSやBLACKPINKなどのアイドルファッションの影響もあるように思います。特に、2020年には新型コロナウイルス感染症が拡大し、巣ごもり生活の影響で、ネットを利用する頻度が増えたので、彼らのファッションがネットを介して浸透しやすく、日本でNewtroのムーブメントが加速した一因だと考察しています。人は自分の知っている情報や、記憶があるものに興味が湧きます。平成カルチャーは、だからこそネットとも相性がよかったのだと思います」
今後は、2010年代の「平成カルチャー」が注目される
こうした現状をかんがみて、平成カルチャーは今後のどのような動きを見せるのか。Tajimaxさんはこう予想します。
Tajimaxさん「今のところわかりやすい“平成アイテムのリバイバル”が多いですが、ガールズファッションは細分化されている部分が多いので。まだまだ深掘りできるところがあると思います。私の平成ガールズカルチャー論のTwitterアカウントだと90年代後半の原宿系の「デコラ」(※1)や2007年の「姫ギャル」(※2)「デコ」文化が人気です。
今後は、エンタメでいえば2010年あたりの音楽やアニメを含めたカルチャーが見直されるのではないでしょうか。アーティストでいえば、西野カナやももいろクローバーZなどです。すでに著名な方たちがいろんなメディアで発信しています。また2015年ごろは、音楽ビジネスにおいてサブスクが始まった時期でもあり、マーケターもこの時代を振り返っています。当時は一部でしか盛り上がらなかったコンテンツやファッションが、今後再評価されるかもしれません」
※1:デコラとは、過剰に装飾して″かわいい″に身を包むファッションの名前(出典:はるきゅ氏 @kirakirananiku)。そのド派手でファンシーなファッションからは、90年代後半に流行した「シノラー」を思わせる。
※2:姫ギャルとは、レースやリボンがあしらわれたエレガントなファッションに身を包むギャルのこと。小麦肌のギャルとは異なり、色白のメイクを施し、パッチリとしたアイメイクが特徴的。
Tajimaxさん「また、個人的には2000年代前半の『Bガール』(※3)ファッションがそろそろ復活してほしいと思っています。 今年は、Y2K(2000年ごろのファッション)が注目されましたが、当時流行した『LB-03』や『baby Shoop』のような個性的なファッションも、Z世代にはウケるのではないかと思っています」
※3:Bガールとは、HIPHOPやR&Bの文化に影響を受けたファッションに身を包む女性のこと。オーバーサイズな服や、体のシルエットがわかるようなピッタリとした服装など、幅広いコーディネートが存在する。
最後に、Tajimaxさんに「平成カルチャーの魅力」について、ずばりお聞きしてみました。
Tajimaxさん「平成は、経済的には低迷した時代ではありましたが、私自身は青春時代を過ごしてきた時期でもあり、その感覚から“自由で明るい”イメージを魅力に感じる人が多いように思います。それに“平成”は、みんなが知っていて、共通の会話ができるコミュニケーションツールにもなります。それゆえに、“ピークを過ぎても語れるカルチャー”という認識です」
何年たっても話題に事欠かない「平成カルチャー」。時代のカルチャーにエッセンスとして取り入れられ、共存していく。それが、今、若者にウケている理由なのかもしれません。今後もますます、目が離せない平成カルチャーです。
(取材・文/西谷忠和、編集/本間美帆)
【PROFILE】Tajimax(タジマックス) ライター・コラムニスト。東京都出身。2018年からSNSを中心に90年代〜00年代の平成ガールズカルチャーを紹介している。Webメディアの『オリコンニュース』『現代ビジネス』『ビジネスジャーナル』などで平成ガールズカルチャー関連のインタビュー取材ほか、『アーバンライフメトロ』『クイック・ジャパン』などに寄稿。90年代〜00年代の平成ガールズカルチャーのコレクターでもあり、古雑誌をメインに膨大なアイテムを所有している。
Twitter→@rainbow_wool、Instagram→@tajimaxx_0318