凛(りん)とした佇(たたず)まいが美しい、俳優の石橋静河さん。5月から、東急歌舞伎町タワー(東京都新宿区)の「THEATER MILANO-Za(シアターミラノザ)」のこけら落とし公演『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』に出演します。
稽古中の現在の心境、また俳優として大切にしていることなど、お話を伺いました。
憧れの演出家と柔軟性のある作品づくりを
──この舞台の出演オファーが来たとき、どんな気持ちでした?
「実は、(アニメの)『エヴァンゲリオン』を観て育ってこなかったのですが、とてつもない作品だということは知っていました。
これに挑戦するのは怖いなと思ったのですが、お芝居の仕事を始める前から、(本公演の原案・構成・演出・振付を手がける)シディ・ラルビ・シェルカウイさんの作品を観ていて、いつか何かの形で一緒にお仕事をさせていただきたいと思っていたんです。今はお芝居をする役者として、この場で出会えたのがうれしいです」
──憧れの演出家の稽古を受けてみて、何か感じていることはありますか?
「まだ稽古4日くらいで動きの部分がメインになっています。芝居の部分はまだ掘り下げていないのですが、シェルカウイさんは、“これをやってくれ”と早くに答えを出そうとする方ではないです。
シェルカウイさんや私たちの中で浮かんだインスピレーションを形にして、“これがうまくいかないなら、こっちでやってみよう”と、どんどん試していく感じで、その柔軟さが面白いです」
──稽古をしていて、何か発見はありましたか?
「今回の舞台は、ダンサーのチームが大きくこの作品に貢献しているのですが、私はお芝居を始める前はダンサーの道に向かっていた時期があったので、稽古場に “ダンサーを志していた自分”と、お芝居を始めて“役者としてここに立っている自分”のふたりがいる感じがしています」
◇ ◇ ◇
“ダンスをしていた過去の自分”と“俳優として活動している今の自分”を感じながら、舞台を作っていく作業は、石橋さんの俳優人生において、何か大きな意味を持ちそうですね。
舞台は、お客様と俳優が想像して作る世界なのが魅力
──石橋さんにとって、舞台の魅力は何だと思いますか?
「“実際にはないもの”を想像して作れることです。お客様も演じる側も想像することで、 “実際にはないもの”がそこに現れるというのが舞台の魅力であり、だからこそ大切な場所だと感じています」
──原作となるアニメが人気の作品だけに、プレッシャーもあると思うのですが、心境はいかがですか?
「これを観て育ってこなくてよかった、と思っています。今アニメを観て勉強している最中なのですが、もし観ていたら“やります”と言っていなかったかもしれません……。
神髄に深いものがある作品だと感じていて、原作となるアニメに敬意を払いつつも、舞台という新しい形でオリジナルの作品を作ることに恐れずにいたいです。
素晴らしい方たちが集まっているので、どんどん果敢に挑戦して、アニメとは違った魅力を持つ作品として、みなさんに楽しんでいただけるように頑張ります」
──4歳からバレエを学び、15歳からはバレエ留学をされ、コンテンポラリーダンサーとして活動されていましたが、ダンスをやっていたことで、芝居に役立っていることはありますか?
「最近になって、踊りをやってきた時間が財産となって、自分を助けてくれている感じがしています。それが何なのかというと具体的にはわからないのですが、バレエはずっと毎日、何時間も訓練するのが大事なので、忍耐力が身についていたり……。
バレエによって“何が美しいとされているのか”を自分に叩きこんできたところがあるので、そういう何かひとつ“自分の軸となる感覚”があるのは、やっていてよかったなと思います」
──石橋さんは演じる際、「その役がどんな動きをするのか」が気になるのだとか?
「演じるときには、そこから入ることもあります。この人は、猫背であるとか、“その人の動きの質”というのを想像したりします。また、“こうしたいと思う形に身体で表現する”ことは、演じる面白さでもあります」
◇ ◇ ◇
“思ったとおりに身体で表現できること”、“(それだけの)自己をコントロールする力があること”は、俳優としての武器になるし、幼いころから真剣にダンスをやってきたことの賜物(たまもの)でしょうね。そんな石橋さんに、「演じるうえで大切にしていること」「俳優の仕事の魅力」についても聞いてみました。
俳優は、役の隣に立って、代弁する仕事
──今回の舞台に限らずですが、役を演じるにあたり、大切にしていることは何ですか?
「今までは、“その役に自分がフィットしにいく感覚”があって頑張っていた時期があったのですが、最近は、“その役の隣に立つ”という感じです。自分自身を完全に消すのではなく、“ここは共感できる”“ここは違うな”と思えるくらいの距離感を持つことを大切にしています。
俯瞰(ふかん)したほうが発見があることもありますし、お芝居はフィクションなので、私の場合は自分が役に入り込んでも、それが必ずしもいい結果になるとは限らないんです。
“あくまでも、これはフィクションであり、お客様に伝えるものなのだ”と考え、この役はどうしてこんな風に思うのか、“その役の言葉や思いを伝える”気持ちで取り組んでいます」
──石橋さんにとって、俳優の仕事の魅力は何だと思いますか?
「俳優の仕事は、“誰かの言葉を代わりに伝えること”だったり、“その作品が伝えたいこと、今の社会で問題になっていることなどを、自分の身体と声で代弁すること”だと感じています。
自分の思いというよりも、他の人の思いを代わりに伝えるのが役割だと考えているので、それを誠実にできたらいいと思っています」
──2015年に舞台『銀河鉄道の夜2015』 で俳優デビューして、ドラマ、映画でも活躍し、8年間走り続けてきたと思いますが、振り返ってみて、どんなことを感じますか?
「頑張ったなって思いますね(笑)。常に試練の連続だったので。
作品を通して、いろいろな自分と向き合うことだったり、さまざまな波に揉まれたり、次から次へと試練に立ち向かってきたなと思っていて、大変でした。
でも、そのおかげで、こういった(憧れの演出家による、話題の)作品に出あえている気がするので、これまでも有意義な時間だったのでしょうね」
◇ ◇ ◇
頑張っていると、ご褒美のような出来事に出合うこともあるものですよね。話題の歌舞伎町タワー内の新しい劇場で、こけら落としにふさわしい、この挑戦的な舞台がどんな作品になるのか、今から楽しみです。
次回は、現在の魅力的な石橋静河さんになるまでの経緯、忙しい日々の中、自己を保つために行っていることなど、生き方や人生観について深掘りしていきます。
(取材・文/加藤弓子)
【後編:『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』石橋静河が沖縄で見つけた「出し惜しみをしない!」生き方】※4月20日18時公開
【PROFILE】
石橋静河(いしばし・しずか) 1994年生まれ、東京都出身。15歳から4年間のバレエ留学より帰国後、2015年の舞台『銀河鉄道の夜2015』 で俳優デビュー。初主演作『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(’17)で第60回ブルーリボン賞新人賞をはじめ数多くの新人賞を受賞。近年の主な出演作に【舞台】『桜姫東文章』(’23)、『近松心中物語』『未練の幽霊と怪物』(’21)、『神の子』『ビビを見た!』(’19)、【映画】『DEATH DAYS』『前科者』(’22)、『DIVOC-12』(’21)『あのこは貴族』(’21)、『ばるぼら』『人数の町』(’20)、【ドラマ】『探偵ロマンス』(NHK・23)、『まんぞく まんぞく』(NHK BSプレミアム・22)、『鎌倉殿の13人』(NHK・22)、『前科者-新米保護司・阿川佳代-』(WOWOW・21)、『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系・’21)など。
■『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』
人生にかけられた重い枷(かせ)。そこから目をそらし生きてきた渡守ソウシ(窪田正孝)。贖罪、そして再生のため、彼は世界の秘密を解き放つ――。
15 年前、世界各地に謎の「侵略者」が出没。公式には日本のある集落に巨大隕石が落下し巨大なクレーターが生まれ、そこから「宇宙からの侵略者、使徒」が出現したと発表される。
使徒に対抗するため、特務機関「メンシュ」最高司令官、叶サネユキ(田中哲司)は部下の桜井エツコ(宮下今日子)とともに4体のエヴァンゲリオンを開発。サネユキは自らの息子トウマ(永田崇人)をパイロットとしてエヴァンゲリオンに搭乗させる。
さらに、現場指揮官のイオリ(石橋静河)のもと、ヒナタ(坂ノ上茜)、エリ(村田寛奈)、そしてナヲ(板垣瑞生)ら少年少女もパイロットとして秘密裏に配属された。
次々と襲来する使徒、しかしパイロットたちの思いはさまざまでやがて彼らの思いはすれ違っていく。そしてイオリも自らのパイロットたちへの対応に疑問を持ち悩む。
そんなイオリの前に大学時代の友人であり、恋人だったソウシが現れる。ソウシはイオリのことを気遣いつつ、エヴァパイロットが通う学校の臨時教師になったことを告げる。
原案・構成・演出・振付:シディ・ラルビ・シェルカウイ
舞台版構成台本:ノゾエ征爾
上演脚本:渡部亮平
出演:窪田正孝 石橋静河 板垣瑞生 永田崇人 坂ノ上茜 村田寛奈 宮下今日子 田中哲司 ほか
公式サイト:https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/evangelion2023.html
【東京公演】
公演期間:2023年5月6日(土)~5月28日(日)
会場:THEATER MILANO-Za (東急歌舞伎町タワー6階)
お問合せ:Bunkamura 03-3477-3244(10:00~18:00)
【長野公演】
公演日程・会場:6月3日(土)・4日(日)まつもと市民芸術館
お問合せ:サンライズプロモーション北陸 025-246-3939(火~金 12:00~16:00 土 10:00~15:00 日祝月曜休業)
長野公演主催:サンライズプロモーション北陸
【大阪公演】
公演日程・会場:6 月10日(土)~19 日(月)森ノ宮ピロティホール
お問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~18:00 日祝休業)
大阪公演主催:サンライズプロモーション大阪