マッチングアプリやSNSなど出会い方が多様化する中で、「思いどおりの相手に巡りあえない」という悩みは男女ともによく聞きます。
『すべてはモテるためである』『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』など、男女それぞれに向けた恋愛指南書を数多く執筆している、AV監督で文筆家の二村ヒトシさん。
二村さんは著書の中で、「心の穴」という表現を使って、自己受容のためのヒントを多数書かれています。今回は、二村さんに婚活世代の恋愛事情や悩みについて、どうすれば解決策が見つかるのかお聞きしました。
簡単に“交換”できる恋愛では成長できない
──適齢期の女性たちにとって、「いい出会いがない」という悩みが共通しているようですが、二村さんからみてどう思いますか?
「セクハラやパワハラに厳しい世の中になって、そのことはとてもいいことなんだけど、引き換えに、まともな男性たちまで臆病になってますよね。上司や同僚、仕事関連の人と親しくなっても、“2人で飲みに行って、いろいろ面倒くさいことが起きたらどうしよう”って男側が思っちゃうとなると、身近での出会いはどうしたって減ります」
──今は、マッチングアプリを使った出会いも主流なようですが……。
「すっかりカジュアルになりました。昔もテレクラ(※テレフォンクラブ。電話回線を介して異性との会話を斡旋する店)で知り合って、最初は話し相手になってくれるなら誰でもいいって感覚だったはずなのに仲よくなっちゃって結婚したなんてケースもあったけど、まあ親には“どこで知りあったか”は言えなかった(笑)。
今のネットでの出会いって、婚活のアプリもあるし、とくに男性側は仕事とか年収を書いておかないと信用されない。でもスペックばかりに注目してても、ちゃんとした会社にだって“ヤバい人”ってけっこういるのにね(笑)」
──ネット上での出会いから入った恋愛は、リアルでの恋愛とは違いますか?
「ネット上で出会うと、ちょっと気に入らない相手だったら簡単に“交換”が可能ですよね。だから、一度つきあったんだからしばらくは覚悟を決めて向き合おうとか、“私にも悪いところがあるから、おたがい変わっていこう”って、なりにくいんじゃないですか。いくらでも“また、次”が選べる環境だと、フィードバックがないままどんどん相手が入れ替わるだけで、自分自身は変化していかない。
説教っぽく聞こえたらごめんなさいね。恋愛って、さみしさを埋めるためとか、理想の相手を得るために頑張っても、うまくいかないんです。恋するだけだったら推しアイドルを好きになるのでも、身近な人に片思いするのでも可能ですが(そして、そのほうが楽しいかもしれませんが)、恋愛するとなると、そこには関係性が生まれるから。ちゃんとつきあうと、かならずおたがいの内面が変わっていくものです。自分も変われた結果、“やっぱりこの人じゃなかった”と思えるんだったら、それで別れればいい」
──次々と相手を取り替えているだけだと、成長しないっていうことですね。
「情報から学ぶよりも人から学べることのほうが豊かです。“言われてみたらそうだった”、“一緒に過ごしているうちに気づけた”みたいな。だから相手が悪くて別れることになったとしても、その経験が傷ではなく肥やしになることもある」
結婚したいなら「“非モテ”を育てる」のが近道
──“交換”ばかりしているわけではないのに理想とする男性が見つからない女性は、どうしたら恋愛や結婚ができると思いますか?
「いわゆる“非モテ”と呼ばれてしまうコミュ障ぎみの男性って、いま本当に増えてると思う。女性が考える結婚対象になりえる男性の数よりも、結婚したがっている女性の数のほうがどうしたって多いわけです。二股をかけられたり不倫したりしたくなかったら、もう仕上がってる“いい男”を追っかけてないで、“非モテ系だけど、どこかみどころがある男性”を自分で育てていく戦略が現実的なんじゃないですかね」
──理想の相手と結婚したいならば、女性が男性を育てるしかない……。
「一見、垢ぬけていない男性でも、服装や外見に気を遣えるようになれば、以前よりまともになる。それと、自分に自信がない男性って浮気をしない。甘やかすとつけあがる非モテ男子もいるから注意は必要ですが、なるべくあなたのことを好きになった“見た目はぱっとしないけれど結婚向きの男性”を捕まえて、いろいろ教育してみたらいいんじゃないですか。ただし非モテではあっても、顔の造りでも声でも趣味でも優しさでも何でもいいから、どこか一点はあなたがすごく気に入った要素を持ってる非モテがいいでしょうね。
結局、恋愛に何を求めているのか、女性こそ自分で自分の欲望をはっきり自覚するのが幸せになれる道なんです。結婚を優先して考えるからこそ、育児にも協力的かとか、おたがいが求めるセックスの頻度とか、いわゆるスペック以外のチョイスの仕方がある。現代では、リアルで会って相手の温度感とかしゃべりかたっていう雰囲気から好きになるよりも、マッチングアプリのようなスペック切りが主流になって相手を知ることに時間をかけないから、そういう相手が見つからない。そして気がつくと変わる気のない男とダラダラつきあって5年くらいたってたりする。恋愛はしているのに結婚できない女性って、これを繰り返しているのだと思います」
女性はもっと自分の欲望に忠実になってもいい。ただし「心の穴」には気をつけて
──現代ではSNSなどで他人の生活が垣間見られるようになり、自己肯定感が得られにくくなっています。結婚している友人の投稿などを目にして、焦りを募らせる女性もいるかと。そのような中で自分らしさを失わないためには、どのような心構えで過ごせばよいと思いますか。
「仕事をし自立している女性たちの中にも自己肯定感を持てない人が多いのは、世の中の矛盾を押しつけられているからだと感じています。
完全な人間なんていなくて、すべての人の心に穴があいていると僕は考えてるんですが、それは誰しもが小さい子どものころに、さみしさや劣等感、不安、罪悪感など、自分ではコントロールできない感情を味わった経験があるからで、私たちは無意識にその穴を恋愛や仕事のやりがいで埋めようとしています。がんばりすぎてしまうという性格もその人の心の穴のかたちだし、ある特定のタイプの人に決まって依存したり、つい反抗してしまったりしてうまくいかないというのも、小さいころの親兄弟との関係が原因の根っこにあったりしますよね」
──自分の中の満たされないなにかを「心の穴」という表現で表しているのは、腑に落ちます。
「心の穴が、どんな“自分を不幸にしてしまう、まちがった信念(思いこみ)”や“考えかたの癖”を生んでいるかを自覚しておくのか大切かと。悪い男が好きとか依存してくるダメ男が好きとかは、だいたい“まちがった考えかたの癖”です。それに気づいていれば、だんだん矯正されてくる。思いこみはなるべく解除して、求めつづけることで幸せを感じられるような欲望には正直になるのがいいわけですが、その区別をつけるのが難しいかもしれない。何が“幸せ”なのかがそもそもバグっていたり、女性が欲望をハッキリさせて主体性をもつことが社会のタブーになってるからです。心の穴をあけたのが親との軋轢(あつれき)だけではなく、女性に不利な社会の制度である場合もある。
たとえば優秀できれいな女性にダメな男を好きになる癖がある場合(笑)。仕事ではしっかりしているキャリアウーマンが“プライベートでは甘えさせてよ”ってなったら(その欲望は、悪い欲望では全然ないと思いますが)満たせるのは彼女と同等以上の収入がある落ち着いた既婚者かハイスペの遊び人か、彼女のほうがお金を使う側にまわってホストに入れ上げるしかなくなる。この構造は、女性側の問題ではない気がしますね」
──著書『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』の文庫版は2014年に出版されており、そこでも「心の穴」という表現が使われていますが、これを書かれたころと現代では、二村さんの恋愛に対する考え方などは変わりましたか?
「今だったら、(当時は主流ではなかった)出会い系アプリやSNSなしには恋愛を語れないから、そういう古くなった部分は書き直したいです。それと、社会全体に被害者意識と承認欲求が広がりすぎて女性たちも翻弄されています。“毒親”という言葉もすっかり一般的になりましたが、ごく普通の家庭で育てられても、自分と他人を比べてしまうといった心の穴があくこともあります」
──悩ましいのですが心の穴を抱える女性は、どのタイミングで結婚すれば幸せになれると思いますか?
「タイミングなんて計らないで、縁があったら結婚してみて、おたがいの欲望がうまく噛みあうのか確かめて、ダメだったらバンバン離婚するのが本来ならいいと思うんですけどね。日本の制度や習俗だと、まだまだ離婚のダメージが大きく、傷つくことを恐れる女性も海外より多い印象です。男が持ってる処女信仰みたいなものを女性が内面化しちゃってるのかもしれないです」
──女性の場合は、結婚して姓が変わるなど、はた目から見ても変化が大きいことも結婚しづらい原因かもしれません……。
「僕は、“女性がもっと自由な世の中になってくれれば、男性も生きやすくなるのに”ってずっと言っているんですよ。でも今は社会のシステムが悪いから、世の中に少しずつ変わっていってほしいと思っている。女性の平均賃金は男性と同等になったほうがいいし、選択的夫婦別姓のほうがいいに決まってます。今のままの婚姻制度だと、女性のほうが面倒くさいことが多いですよ。
それと男性の場合は、たとえば“いろいろな女を抱きたい”という欲望(これも本質的な欲望じゃなく、男性社会にそう思いこまされている可能性もあります)と、“仕事で出世しなければならない”という信念があまり矛盾をきたしませんでした。でも現代の女性でいうと、良妻賢母の思想もそうですが、“こうしたい”という欲望と、“こうあらねばならない”という信念がずれてしまうことが多い。”男は“浮気をしても甲斐性”って言われるけれど、女性は責められがちですもんね。これも“女性の心の穴”の問題というより、”社会の決まりごと”の問題です」
──では女性たちはどのような心構えでいれば、自由に生きられるのでしょうか。
「いろいろと傷つくこと、うんざりすることが多い世の中ですが、自責をしないで“自分は被害を受けたのだ”と自覚して主体的に生きることと、自分が“いつまでも被害者である”という立場を捨てることは、矛盾しないというか、時間をかけて両立させていくことができると思うんです。(ぜひ、臨床心理カウンセラーの信田さよ子さんが書いた『家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ』という本を読んでみてください)。
女性が恋愛やセックスや結婚を楽しんで生きていくためには、理不尽な支配や暴力や搾取がなくならないといけないし、そのためにも性教育は重要です。性病や望まない妊娠を避けるための“衛生の性教育”も必須ですが、それだけでは足りない。
自分と相手の欲望を理解できるようになるための“欲望の性教育”と、自分と相手の存在を尊重できるようになるための“人権の性教育”が、日本では十分に行われていないですよね。女性たちには自分の欲望と自分の人権について、いろいろ考えたり恋人と話したりしてほしい」
──二村さんが話していた「エロくて賢い女性」(※インタビュー第1弾参照)になれれば、女性たちも心の穴を抱えなくてすむようになるのですね。
「女性も男性も、自分より弱いものから搾取したり虐待をしたりしないように注意はしながら、もっと自分の欲望に素直になっていいんですよ。ただし、そのためには“この相手はヤバい”って悟ったら、すぐ無事に逃げられる体制と環境でないとね。それには“賢さ”が必要です」
二村さんが一貫して提唱しているのは、女性の地位の向上。彼が女性の言動を鋭く分析し考察できるのは、インタビュー第1弾で語られたように、母親や周囲の女性から溺愛されたという生まれ育った環境と、AV業界に身を置き、さまざまな女性と関わり続けてきたからかもしれません。男女がお互いを尊重できるリベラルなフェミニズム論の中に、女性が楽に賢く生きていくヒントが詰まっています。
(取材・文/池守りぜね)
【参考図書:『家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ』(信田さよこ著/KADOKAWA刊)】
【PROFILE】
二村ヒトシ(にむら・ひとし) ◎1964年、六本木生まれ。慶應義塾幼稚舎卒、慶應義塾大学文学部中退。AV男優を経て、’97年からAV監督。現在では定番になっているエロの演出を数多く創案した。著書に『すべてはモテるためである』 『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(いずれもイースト・プレス)、共著に『オトコのカラダはキモチいい』(ダ・ヴィンチブックス)、『どうすれば愛しあえるの ──幸せな性愛のヒント──』(KKベストセラーズ)、『欲望会議』(角川ソフィア文庫)など。
本人Twitter→@nimurahitoshi