「ファンなんです! サインしていただけませんか?」
顔が知られた有名人なら、町を歩いているときや外食中に、そう声をかけられることがあります。
そんなとき、スーパースター級の彼らは、どういう対応をするか?
今回は、そんな「有名人のサイン」にまつわる、特に「神対応」な人たちの話です。
さんまさんの神対応の発祥は“割り箸袋事件”
有名人の「サイン神対応」と聞いて、最初に頭に浮かぶのは、やはり明石家さんまさんではないでしょうか。さんまさんは、たとえ移動中やプライベートな時間であっても、可能な限り、絶対にサインを断らないことで知られています。
新大阪駅の新幹線ホームには、さんまさんの移動時間を知る大勢のファンが、色紙を持って待ち構える光景が見られることがあるといいます。
そんなファンたちは、さんまさんを見つけると叫びます。
「師匠! サインお願いします!」
声をかけられたさんまさんは、「あいよ!」と気軽にそれに応じます。
そんな調子ですから、すぐにサイン待ちの行列ができてしまいます。それでも、さんまさんはイヤな顔ひとつせずに、新幹線の発車時間ギリギリまで次々とサインに応じていくのです。
さんまさんがサインを断らなくなったのには理由があります。
それは、有名な「割り箸袋事件」。
あるとき、食堂でサインを頼まれたさんまさん。しかし、相手が差し出してきたのは色紙どころか、そのお店の割り箸袋。
内心、「失礼なやっちゃなあ」と思いながらも、割り箸袋にサインをしました。
そんなことがあってから20年後のこと。新幹線に乗っているときに、ひとりの男性に声をかけられたさんまさん。聞けば、「自分は20年前、食堂で割り箸袋にサインをしてもらった者です」と。そして、財布からそのときの割り箸袋を取り出すと、「今でも宝物です」と見せてくれたのです。
なんと、20年前にサインした割り箸袋を今でもずっと、大切に持ち歩いているとは!
驚いたさんまさんは、以来、「どんなサインも断ったらダメだ」と心に誓ったのでした。
金網にボールを押しつけて「サイン、プリーズ!」
神対応ぶりがしばしばニュースになる、メジャーリーガー・大谷翔平選手もまた、ファンからのサインを断らないことで知られています。
例えば、試合前グラウンドで練習をしているとき。大谷選手がベンチの近くに戻って来ると、ベンチのすぐ横のスタンドには、「サインお願いします」と日本語で書かれた紙を掲げる、たくさんの子どもたちの姿が。メッセージが日本語で書かれていることから、それが大谷選手へのものだとわかります。
それを見た大谷選手が歩み寄ると、子どもたちは狂喜しながら、持参した野球ボールを金網に押しつけます。大谷選手は、そのボールへ金網ごしにサインするのです。
たとえ相手チームの帽子をかぶった子どもであっても、笑顔でサインに応じる大谷選手のこの姿は、もうメジャーではおなじみの光景なのです。この大谷選手の「即席サイン会」は、先のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でも見られました。
例えば、「メジャーリーガー大谷」が初見参した「侍ジャパン強化試合」(3月6日・京セラドーム大阪)の日本代表対阪神タイガースの試合前。
打撃練習を終えて、もうすぐ試合が始まるというタイミングで、スタンド最前列には大谷選手にサインを求めるファンが殺到しました。たとえ「強化試合」とはいえ、試合直前のタイミングです。本来は失礼な話ですが、大谷選手は満面の笑顔でサインに応じていました。
声優界のレジェンドと遭遇
最後に、私自身が経験したレジェンドのサインの話。
それは今から4、5年前、地下鉄銀座線の某駅でのこと。ホームで声優の野沢雅子さんをお見かけしたのです。
野沢さんといえば、言うまでもなく『ドラゴンボール』の孫悟空や『銀河鉄道999』の星野鉄郎などで知られる、声優界のレジェンドです。
子どものころからのファンである私は、どうしてもサインが欲しくなり、用もないのに同じ電車に乗り込んでしまいました。
そして、ツツツーッと、座っている野沢さんの前まで行くと、意を決し「あの、失礼ですが、野沢雅子さんでいらっしゃいますよね」と声をかけたのです。
「あ、はい」と野沢さん。
その声に私はシビれました。だって、まさに、子どものころから親しんできた「あの声」だったのです! 聞いた途端、もう、感動で鳥肌が!
「初代の鬼太郎(『ゲゲゲの鬼太郎』)からの大ファンです。プライベートなお時間に申し訳ありませんが、サインをいただけないでしょうか」
そう言って、サインペンと手帳を差し出しました。
「色紙がなくて失礼します」
そう恐縮する私に、レジェンドはほほ笑みながら、サラサラとサインを書いてくださったのでした。
そのときにいただいたサインは、手帳から切り離し、額に入れて私の部屋に飾ってあります。図らずも、さんまさんから割り箸袋にサインをもらった方と同じように、宝物にさせていただいているのです。
やっぱり、たとえどんな物に書いてもらっても、“ファンにとって、サインは宝物なのだ”ということが、よくわかります。
サインを頼まれたときの、有名人の対応は人それぞれ。中には、“プライベートの時間は放っておいてほしい……”と、サインには応じない人もいるでしょう。それはそれで、本人の自由です。
でも、スター……とくにスーパースター級の人たちほど、「自分のサインが相手にとって宝物になる」ということを理解して、快くサインに応じているように思えるのです。
ちなみに、こんな私でも、私の本を買ってくださった方からサインを頼まれることがあります。
そんなときは、いつも、「ありがとうございます。サインでもコサインでもなんでもします」と言って笑っていただいてからサインを書くようにしています。
(文/西沢泰生)