ホラー映画には不思議な魅力がある。私なんかは元来、ショッキングなシーンがある映画はちょっと苦手だ。“いかにも”な場面になると薄目になって「(いやいや、もうコレ振り返ったら絶対、化け物いるやん……。振り返ンなよ……おいやめろォ!)」と腹のなかで絶叫して、薄目のまま白目をむくタイプである。
しかしこれが不思議なもんで、ホラー映画の予告映像などはつい見たくなってしまう。で、結局あとで死ぬほど後悔する。「怖いもの見たさ」という慣用句があるくらいだ。同じ感覚を持っている方も多いだろう。
それくらい「恐ろしい映画」には魅力があるもので、“ホラー映画畑”にはカルト的なファンが多い。そのなかの1人で、連日Twitterにおすすめのホラー系作品の感想を投稿しており、映画メディアなどでライターとして活躍しているのが「人間食べ食べカエル」さんだ。彼の投稿には有名作品から、「いや、ターゲットどの層なん?」とツッコみたくなるB級映画まで、ありとあらゆるホラー作品がずら~っと並ぶ。
「人間食べ食べカエル」という人間は、なぜできあがったのか。ご自身の人生をプレイバックしながら、「ホラー・パニック系の映画を好きになった背景」を語っていただいた。
映画オタクになったきっかけは『インデペンデンス・デイ』
──Twitterの投稿を見て「ホラー映画に関する知識量がすごい」って、もうびっくりしてます。これまでどれくらいのホラー映画をご覧になったんですか?
「そうですね……正確にカウントしてないんですけど、もう10年以上、『平日は1日1本、休日は1日2、3本の映画を見る』という生活を続けています」
──ということは年間500本くらいですか。すごすぎる……。
「いえいえ。それでも知らない作品が山ほどあるので、“マジで世の中にどんだけ映画があるんだよ”って(笑)。見れば見るほど、そう思いますね」
──人間食べ食べカエルさんは映画のなかでも「ホラー」に特化しているのが“ヤバい”と思っていて(笑)。「いったいどんな人生を歩んでこられたんだろう」って興味がわいています。幼いころから家族でよく映画を見ていたんですか?
「幼少期から映画は見ていましたけど、一般的な家庭だったと思いますよ。晩ごはんを食べながらテレビに流れる映画を見る、という感じで、両親も特に映画マニアというわけではなかったですね」
──そうなんですね! てっきり超映画エリートなのかと思ってました。
「いやいや、普通の家庭ですよ。ただ、小学生のころからインドア派でした。友だちとよく『大乱闘スマッシュブラザーズ』をやったり『星のカービィ』をプレイしたり……。ゲームでいちばんハマったのは、PSPの『モンスターハンターポータブル』でしたね」
──ここで「モンスター」が出てくるのが“筋金入り感”があっていいですね(笑)。いつごろから、映画にハマるようになったんですか?
「明確なきっかけは、小学生のころにテレビで見た『インデペンデンス・デイ』でした。宇宙人との戦いを描いた作品なんですけど、あの“派手なアクション”が小学生の私にとって魅力的だったと思いますね。
それからはよく映画を見るようになって……。夏休みは午前中に学校のプールで泳いでから、帰ってきてテレ東系の『午後のロードショー』っていう番組をつけて、アクション系の映画をやっていたら見る、みたいな生活を送っていました」
──『午後のロードショー』を楽しみにしている小学生って、相当ですよ。それくらい『インデペンデンス・デイ』が衝撃だったんですね。なんでそこまで刺さったんでしょう……。
「いま話しながらちょっと思ったんですが、幼少期からウルトラマンがけっこう好きで。ティガ、ダイナ、ガイアあたりはよく見ていました。“街が壊滅するレベルのド派手なアクション”という意味では、ウルトラマンの影響を受けたからインデペンデンス・デイに惹かれた部分はあるかもしれない……」
──なるほど。面白いです。確かにそう言われると、ウルトラマンもSFアクションものですね。
「しかも当時から、“ウルトラマンを応援したい”というより、怪獣を見るのが好きでした。
あくまで個人的な感覚ですが、特にティガやダイナに登場する怪獣って、どこか洋物のエッセンスが入ってると思うんですよ。ティガにはクトゥルフ神話をモチーフにした『ガタノゾーア』という怪獣が出てきますし、いま考えたら、どこか洋画に出てくるクリーチャー(※)っぽい造形だと思います。このあたりがホラー作品にハマったルーツになっているのかもですね」
(※クリーチャー:創造された生命のあるもの。空想上の不思議な生物のこと)
ホラーは苦手だったが『ザ・グリード』で“開眼”する
──では小学生のころにアクション映画にハマり始めたんですね。中学生になっても、映画熱は変わらず?
「はい。むしろ中学生に入ってからアクション映画好きが加速しました。そのきっかけになったのが『リベリオン』というクリスチャン・ベール主演のアクション映画でしたね。
作中で“2人が超近距離で銃を撃ち合って互いに避けまくる”っていうシーンがあるんですよ。そんなのもう……“中二病”真っ盛りの私からしたら、かっこいいに決まってるじゃないですか(笑)」
──それはヤバいですね。男の子はみんなハマるやつ(笑)。
「それで、“もっとかっこいいアクションシーンを見たい”と思って、レンタルビデオ店に映画のDVDを借りにいくようになり、アクション映画オタクになっていきました」
──当時から今みたいにホラー映画も見ていたんですか?
「いや……生来、根がビビりなもので“パニックもの”の映画はずっとダメだったんですよ。小学生のころから図書館のVHSで『学校の怪談シリーズ』は見ていたので、興味はあったんだと思います。でも、『学校の怪談』がやっとだった」
──え! めちゃめちゃ意外ですね。なにかトラウマを植えつけられたりしたんですか?
「う~ん……いや、苦手になった明確なきっかけは覚えていないんですよね。でも小学校低学年のころにテレビで見ていた『奇跡体験!アンビリバボー』とか『USO!?ジャパン』のホラー回は、もう確実にトラウマが残ったのかな、と(笑)。特にアンビリバボーの再現VTRとか、ちょっと小学生としては容赦がなかった……」
──わかります、わかります(笑)。平成中期のころって“心霊もの”のテレビ番組が多かったですよね。じゃあ、どのあたりでパニックとかホラーにハマるんですか?
「中学生のころに地上派のゴールデンタイムで『ザ・グリード』っていう映画が放映されていたんです。“船のなかに化け物が現れて、人を喰(く)いまくる”っていう、そこそこ過激な作品なんですけど(笑)。この作品がホラーとパニック映画にハマるきっかけになりました」
──明確にハマるきっかけになった作品を覚えていらっしゃるのがオタクっぽくて好きです。『ザ・グリード』のどのあたりに魅力を感じたんでしょうか。
「なんといっても化け物の造形がすばらしかった。これに尽きます。『グリード(貪欲)』という言葉がそのまま生命を受けたような、とにかく人を喰うためだけにデザインされたビジュアルで、“こんなクールな見た目の化け物が暴れまわる映画があるのか!”と衝撃を受けました。
そんな化け物然としたヤツが、もう船をボッコボコに壊しながらすごい勢いでやってきて、次々と人を喰うわけですよ。化け物の腹のなかから“絶賛消化中で身体が溶けかけた人”とかが出てきたり……。そんなショックシーンもあるんですよね」
──おぉ……。地上波のゴールデンタイムとは思えないほどグロい……。
「もう悲惨ですよ(笑)。次々にインパクト抜群のシーンが出てきて、とにかく勢いがすごいんです。グロい映画は苦手だったんですけど、それを上回るくらい“化け物のインパクト”に魅了されて気分が高揚したんですよね。
それで、“映像にもっとインパクトがある作品はないか”って漁りはじめたのが、今に至るきっかけですね」
──なるほど。今と違ってインターネットも発達していないですよね。どうやって漁ってたんですか?
「探す方法として、2パターンあって。まず1つめは『レンタルビデオ店に行って、DVDのジャケットにデカデカと化け物が載っている作品を片っ端から借りる』という(笑)」
──ギャンブル性が高い(笑)。
「で、もう1つ、クリーチャー映画好きにとってバイブル的な『モンスターパニック』っていうシリーズの本があるんですよ。クリーチャー系の映画だけを600作くらい(※)集めた本なんですけど(笑)。それを読んで気になった作品を、どんどん発掘していきましたね」
(※『モンスターパニック―超空想生物大百科』と『モンスターパニックreturns!―怪獣無法地帯』〈ともに大洋図書刊〉の2冊を合わせた数)
──いや、ちょっと中学生にしては変態すぎます(笑)。よく『モンスターパニック』の存在にたどり着けましたね。
「これがですね。近所のイオンモール内の映画館に、たまたま1冊ずつ売ってたんですよ。表紙に数々のクリーチャーが載っていて“これは買うしかないぞ”と。それで親にねだって、買ってもらって(笑)」
──ご両親もびっくりしたでしょうね(笑)。
「おそらく(笑)。いや本当に『モンスターパニック』は、すごい本なんですよ。1作ごとに解説文と怪獣のスチール写真が載っていて……。写真があるので、かっこいい怪獣を見つけると、“次はこの作品を見よう”って思えるんですよね。レンタルビデオ店に置いてないマニアックな作品のほうが多いんですけど(笑)。
今の人生をたどるうえでのターニングポイントというか、SNSもない時代だったので、『モンスターパニック』にはホント助けられました。上京時に実家から持ってきたくらい思い入れの深い本ですね」
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インタビュー第1回は、人間食べ食べカエルさんの小・中学生のころを振り返っていただいた。次回は高校生時代から現在に至るまでを思い出深いホラー作品とともに語っていただく。
(取材・文/ジュウ・ショ)