「運動量が多いスポーツ」と聞いたら、あなたはどの競技が思い浮かびますか?
ボクシング、マラソン、バスケットボールなどなど、試合時間中、常に動きを要するスポーツはいろいろありますが、その中にサッカーも含まれるのは間違いないでしょう。
ポジションにもよるものの、1試合で約90分コートを駆け回らなければならないサッカー。想像以上に体力を使うからというわけではありませんが、プロのサッカー選手の平均引退年齢は25~26歳と、ほかのプロスポーツよりも早いとされています。
体力に自信のない人には楽しめないスポーツ──そんなイメージを変える新たなサッカーが2019年に誕生しました。
それは、1人500歩しか動けないという、行動が極端に制限された『500歩サッカー』。開発したのは総合スポーツ用品メーカーの『ミズノ』で、当サイトで紹介した「ミスを怒らず、みんなで助け合う」を理念に掲げた少年野球大会(ミズノベースボールドリームカップ)など、さまざまな形でスポーツ振興を図っています。
「500歩しか動けないのに、はたして競技として成立するのか?」という疑念を晴らすべく、さっそく試合会場に足を運びました。
歩数制限があるからこそ、誰でも一緒にプレーできる
7月15日に東京・江東区のBumB東京スポーツ文化館で開催された「ゆるスポーツランド 2023」。年齢、性別、運動神経の優劣にかかわらず、スポーツに親しむ人を増やすことを目標に、『世界ゆるスポーツ協会』が主催するこのイベントのプログラムの一環として、500歩サッカーも行われました。
500歩サッカーは1チーム5人で構成。プレーヤーはミズノが開発した専用アプリが搭載されたスマートフォンが入ったLEDポーチを着けてプレーします。
このアプリには「500」と表示されたカウンターが付いており、1歩ごとに数字が1つ、激しい動きをすれば10歩分減っていき、持ち歩数が0になったプレーヤーは退場となります。ハンドなどのファウルをするとペナルティとして50歩ダウン。しかし3秒以上静止すると、1秒=1歩回復するという仕組みです。
試合前にチームの代表者が足踏みをし、先に500歩終えたほうからキックオフしてスタート。歩数を表すポーチは背後に付いているため、自分からはどのぐらい歩いたかはわかりません。そのため、チーム内で事前に戦略を立てたり、プレー中に歩数を教え合ったりするのが要となるなど、コミュニケーション要素が求められます。
プレー時間は前・後半5分ずつを目安とし、コートの広さにも規定はありません。そのため、学校や商業施設、もしくは会議室といった場所で楽しむことができます。
ミズノのライフ&ヘルス事業部 企画マーケティング部の渡邉萌さんによると、同社は2015年に『世界ゆるスポーツ協会』と組んで「ベビーバスケ」というゆるスポーツを開発した実績があり、500歩サッカーもその経緯から企画がスタートしたのだとか。
「スポーツ弱者の方や、大人になって昔と比べて体力が落ちてしまった人などでも楽しめるものにしていきたいという(ゆるスポーツ協会の)考えに共感しました」
「社会人になってからプレーするのが難しいぐらいのハードなスポーツ」という観点からサッカーに絡めたスポーツを企画し、さらに「何に制限を設ければ、プレーヤーの運動強度(運動時にかかる負荷やキツさ)を落とせるか」検討した結果、“歩数”を制限するルールに行き着いたといいます。
運動強度を落とすことで、性別や年齢、技量や体力の差の垣根を越えてサッカーが楽しめる。ゆるスポーツフェスでも、小学生の子ども連れの親やZ世代の若者、さらにはシニアの方など、幅広い年齢層の参加者が同じコートでプレーに興じていました。
「500歩サッカー」を婚活イベントで採用する自治体も
実際に、ゆるスポーツフェスで500歩サッカーに参加された方の声を聞いてみました。
「思っている以上にすぐ500歩になっちゃうので、考えながらゆっくりと動かなければいけなかったのが面白かったです」(成人女性)
「普段サッカーをやっているんですが、歩数制限や狭いコートでプレーするというのが難しかった。自然にチーム間でコミュニケーションが取れたし、(サッカーの)うまい、下手も関係なくプレーできるというのがよかった」(男子大学生)
「サッカーはやったことなかったけど楽しかった。500歩以上歩くとダメだからやりにくかったけど、また参加したい」(男子小学生)
「自分がどれぐらい動けばいいのかわからなくて、『動きたい』という心の葛藤があった。今回ひとりで参加しましたが、勝ち負けにこだわらずできてよかったです」(普段運動をしない女性)
と、みなさん一様に楽しんだようです。
これまで、学校や自治体などで開催されてきた500歩サッカーですが、近年は企業における社員研修でのコミュニケーションツールとして活用されたり、昨年3月には三重県津市で婚活イベントとして実施され、好評を博したそう。
「スポーツがもともと持っているコミュニケーションを活性化する力や距離を縮める力にプラスして、誰もやったことがない、誰も得意じゃない500歩サッカーを通じて、初めて会う人たちが仲よくなれる機会の場として採用していただいています」(渡辺さん)
今後もミズノでは、歩数制限アプリを応用した新スポーツを企画中とのこと。スポーツが苦手な方をなくして、心と身体の健康を促す同社の取り組みに、今後も注目したいところです。
(取材・文/松平光冬)
◆「ミズノ500歩サッカー」
https://jpn.mizuno.com/event_seminar/500po_soccer