みなさま、2023年冬ドラマをお楽しみでしょうか。早いもので、そろそろ折り返し地点を迎えようとしている今期のドラマですが、改めてラインナップを見るとかなり個性的な作品がめじろ押しです。
特に、安藤サクラさん演じる33歳独身の女性が赤ちゃんから人生をやり直す『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)、よしながふみさんによる大ヒットコミックを原作に男女の立場が逆転した江戸パラレルワールドを描く『大奥』(NHK総合)、幽霊役に扮(ふん)した佐藤健さんと井上真央さん演じるヒロインの恋模様を映し出すファンタジーラブストーリー『100万回言えばよかった』など、大胆な設定でかゆいところに手が届く心の機微を紡(つむ)ぎ出した作品が今期は多い印象。
菜々緒、鈴木伸之が主演中! 木曜よる10時放送中『忍者に結婚は難しい』
そんな中でも私が注目しているのは、菜々緒さんが主演を務める木曜劇場『忍者に結婚は難しい』(フジテレビ系)です。
本作は、表の顔は薬剤師だが実は甲賀忍者の末裔(まつえい)である妻・草刈蛍(菜々緒)と、表の顔は郵便局員だが伊賀忍者の末裔である夫・草刈悟郎(鈴木伸之)による夫婦生活を描いたラブコメディ。結婚から2年半で離婚の危機に直面したふたりが特殊任務に励みながら、やがて互いの正体を疑い始めるという展開となっています。
フジテレビ木曜劇場といえば、前番組の『silent』が全11話の見逃し配信再生数累計で6191万再生(※TVer、GYAO!、FODの合計値)という前代未聞の記録を打ち出した注目の枠。だけど、あまりに『silent』とは雰囲気が違ううえに設定的にもイロモノ系かな? と思いきや、私のとんだ勘違いでした。
本作は、「実は妻も夫も忍者」という現実離れした設定でありながら、巷(ちまた)にあふれる夫婦のすれ違いをリアルに描いたドラマなのです。
特に蛍と悟郎の夫婦ゲンカのシーンなんかは“あるある”の宝庫。食べているものを床にポロポロこぼす、洋式トイレで立ったまま用を足す、出したものは出しっぱなしだから一瞬にして部屋を散らかす……等々、蛍の悟郎に対する不満にSNSでは共感の声が殺到!
一方で、悟郎のダメ夫ぶりに批判が殺到し、中には「『忍者に結婚は難しい』っていうか、『悟郎に結婚は難しい』だよ」というツッコミもありました。
私も最初は「悟郎みたいな男性と結婚するのは無理だな……」と思っていたのですが、意外にも回を追うごとに悟郎の魅力が増しており、なんだかんだで蛍が絆(ほだ)されてしまうのもわかる気がするのです。
鈴木伸之演じる“悟郎”はなぜ憎めない?
なぜ、こんなにも悟郎は憎めないのか。考えた結果、それは“巧妙じゃない”ところにあるのではないかと思いました。
悟郎は基本的にまっすぐな男。自分のダメなところも隠そうとはしません。というか、自分で自分のやっていることが一切ダメだと思っていないんですよね。だから、ついつい周りが文句を言いながらも世話を焼いてしまうんですが、それに対して「助かるよ〜ありがとう」と素直にお礼が言えちゃうところもまたずるい。
妻である蛍への愛情表現もストレートです。離婚届を置いて家を出て行った蛍に帰ってきてほしくて、いい夫になることを決意。今までやってこなかった家事にチャレンジして、その様子を写真とともにLINEで蛍に逐一報告する悟郎がとても可愛く思えました。
それなのに忙しくて、蛍が帰ってきたときに限って部屋を散らかしっぱなしな悟郎のタイミングの悪さも憎めない理由のひとつ。普段は自分が忍者であることを必死で隠している悟郎ですが、第5話ではうっかりミスで隠し部屋が蛍に見つかるなど、忍者のくせに詰めが甘いのなんの。だけど、そういう巧妙になりきれない部分から悟郎の人のよさが見えてきます。
悟郎が伊賀忍者なのでは? と疑う父・竜兵(古田新太)に蛍が「あんな鈍臭い人が忍者とかありえない!」と思わず笑ってしまうような、ある種の信頼感。それが本来は他人である夫婦が生活をともにするうえではかなり重要になってくると思うのです。とはいえ、悟郎が憎めないのは鈴木伸之さんが演じているからという理由も大きいのですが。
鈴木伸之が魅せる、屈強さと愛くるしさのギャップ
185センチの高身長とがっしりした体格を生かし、映画『HiGH&LOW』シリーズや『東京リベンジャーズ』などで屈強な男性を演じてきた鈴木さん。一方、場合に応じてその威圧感を一切消し去ることができ、見た目と中身にギャップのあるキャラもハマります。
特に、『恋です! 〜ヤンキー君と白杖ガール〜』や『悪女(わる)〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?〜』(ともに日本テレビ系)では演じる役の喜怒哀楽をコミカルな演技で披露しており、しっぽの加減で感情がわかる大型犬のような愛らしさがありました。
悟郎も同じでダメなところはたくさんあるのだけど、やっぱり嫌いにはなれません。どうか幸せな未来が訪れてほしいと願わずにはいられない忍者夫婦の行く末を最後まで見届けたいと思います!
(文・苫とり子/編集・FM中西)