“低スペック女性”に向けた学術的実用書『馬鹿ブス貧乏』シリーズ三部作の著者、藤森かよこさん。
1作目の『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』は、辛辣なタイトルと、過酷な時代を生き抜くためのユニークなアドバイスが話題を集め、amazon「フェミニズム部門売れ筋No.1」を獲得。2022年10月に三部作の3作目となる『馬鹿ブス貧乏な私たちが生きる新世界無秩序の愛と性』(すべてKKベストセラーズ刊)が発売になりました。
スペックが低いと自認するのは「感受性が高い女性」と言う藤森さん。歯に衣着せぬ毒舌的な言葉に見え隠れするやさしい眼差しは、「かよこ節」として、読者に愛され、支持されています。
「私の本なんか大っ嫌いって人もたくさんいますよ。上野千鶴子さんからも差別的なタイトルとお叱りを受けました」と笑います。
藤森さんが波乱の半生の中で培った独自の人生観について「かよこ節」で語っていただきたく、藤森さんの著作のファンで「馬鹿ブス貧乏」当事者である筆者が、遠慮なく根掘り葉掘り質問をぶつけてみました。
馬鹿ブス貧乏シリーズの誕生理由。本当はこのタイトルはイヤだった!?
──馬鹿ブス貧乏本が誕生した経緯について教えてください。
「馬鹿ブス貧乏黄色本(2019年に刊行された1作目『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』)のあとがきにも書いたけど、私のブログを見てくださった方が、編集者の鈴木康成さん(KKベストセラーズの馬鹿ブス貧乏シリーズの担当編集者)に紹介してくれたんです。その縁で“1冊書きましょう”って。どんなものを書きたいですか? と聞かれたので、66年の自分の人生を振り返って、あまりスペックが高くない人向けの本なら書けるという流れでした」
──馬鹿ブス貧乏というタイトルは強烈ですね?
「本当は馬鹿ブス貧乏ってタイトルをつける気はなかったんですよ。あんまり否定的なことは言いたくないからさ。そらそうですよ。馬鹿だと思ってると本当に馬鹿になるかもしれないしさ。ブスだブスだと自分のことを思っていたら、いよいよ本当にブスになるかもしれないし。貧乏だと思ったら本当に貧乏になっちゃうかもしれない」
──ではなぜ……?
「このタイトルが売れるんだって(笑)」
──読者はどのような方が多い印象ですか?
「基本的に向上心のある女性だと思いますけど。自分の人生を捨てていないというか。少しでも自分の力でよくしたいと考えている人たちだと思いますけどね」
──馬鹿ブス貧乏というタイトルのシリーズは三部作で完結とのことですが。
「ポリコレの言葉狩りと闘う気はありません。でも、これからもスペックの低い女性、つまり読書習慣があって向上心がある女性に向けた本は書きます。馬鹿ブス貧乏読者の中には、とても鋭い読者もいます。なめてかかっかかっちゃいけないし、手を抜いて書けない。今回の新刊も一度全部書き直しをしましたから」
男女平等賃金を受け取って生き延びると決めてつかんだ「33歳での正規雇用」
「馬鹿ブス貧乏」の定義とは、「地頭がいいわけでもなく、平平凡凡であり、努力をしなければどうしようもない程度の能力の持ち主」「顔やスタイルで食っていけない程度」「賃金労働をして生活費を稼ぐ」そんな女性を指すといいます。
──先生はご自身のことも馬鹿ブス貧乏と書いておられますが……本当にそうでしょうか。
「そうですよ、本人が言ってんだから。事実だもん」
──著述業の前は、大学教授で英文学学者というアカデミックな立場におられましたが……。
「アカデミックなところなんて馬鹿ばっかだから。一部を除いて全体として。大学教員は基本的に『教育サービス労働者』ですよ」
──大学教員というお仕事を選んだ理由を教えてください。
「まず両親から、27歳で家を出てくれと言われていたんです。当時は、女性は主婦になるのが普通で、25歳を過ぎたら後妻の口しかないと言われていた時代。私は男女同じ給料を受け取れる仕事に就かなきゃ損、自分で食ってかなきゃいけないと必死に考えて、苦にならないのが、本を読むことくらいしかないんだから、本読んで食っていける職業をと、一生懸命考えた選択でしたね」
──33歳で大学教員として正規雇用されたと、過去のインタビューでも語っておられます。
「33歳で就職できたのは、人生でうれしかったこと3つのうちのひとつです。あとの2つは、マンションのローンを払い終えたことと、アメリカ文学のアイン・ランドの『水源』を訳せたこと。(結婚してくれと3年間アプローチされ、“気持ち悪くなかったから結婚した”という旦那さんとの)結婚式は人生の三大喜びとは関係ないですね(笑)」
大学教員は「信じられないような人ばかり」の真意とは?
──大学教員はどのような方が多いのでしょうか。アカデミックな世界と無縁の馬鹿ブス貧乏当事者として気になります。
「“先生のふり”をしていた人が多かったですね。教師という仕事を全然面白いと思っていなくて、『大学教授』は聞こえがいいからなった人たちなんだなって。実際は教育サービス労働者なんですよ。なぁにを偉そうにっていつも思っていました。アホな人がたくさんいるもんで、とても驚きました。信じられないような人とたくさん会いましたから」
──例えば、具体的にどのような先生が多かったでしょうか。
「勉強しない人、働かない人、威張ってる人、愚痴っている人ばかりでしたよ」
──勉強しない系教員のエピソードについて教えてください。
「例えば、英文学史の授業なのにね、1930年代で終わってるとか、10年前のノートをまだ使っているとかね。大昔でストップしている教員が多かったですね」
──なるほど……。では働かない系教員の関連エピソードをお願いいたします。
「教育サービス労働者にあるまじきことですけど、留学希望の生徒の推薦状を書かないなんていう人もいました。信じられませんよね。それでいて威張っているんですからね。私、教え子じゃない生徒の留学の推薦状を何通書いたか覚えてないですよ。“こんな子知らん”とか思いながら書いていました(笑)。“まぁ君、書きなさいよ。それを直すから”とか言って。その学生のことを知っている教員が面倒がってやらないから、私が代理でやっていました」
──知的職業の最高峰、教育者は職業に誇りを持ちながら働いているものかと……。
「元・優等生だったおばちゃん教員は愚痴が多かったですね。愚痴は要するに“もっとちやほやして”という不全感みたいなものだったのでしょう。人間関係に小器用な学内ホステスみたいな人もいたし。上司に好かれればいい、それでうまく渡り歩けると思っている女性教員を、私は『学内芸者』って心の中で呼んでいました。口には出さないけど(笑)」
──(笑)そのような、先生にとって「信じられないような人たち」と、どのように接してきましたか?
「間違っていると思ったことに対しては、言いたいことを言ってきましたよ。言いたいことを言うにはいくつかコツが要ります。今言うべき! という判断は一瞬なんで、言うべきときに言うと。タイミングが大事。言うべきときのために、普段は無駄口は叩かない。いつも無駄口を叩いている人の話は聞かれないものです。
男は3分しゃべっても聞かれる世の中だけど、女は1分しゃべってもうるさがられるともわかっていました。あと、オヤジは怒るもの(笑)。オヤジには3回に2回は負けとけ、と思っていましたね(笑)。3回に2回は負けておく、ペラペラしゃべらない。それで、いざというときに言いたいことを言う。話を通す秘訣は、とにもかくにも”無駄口は叩かないこと”です」
時代は確実によくなっている。今の若者は「いい人」が多い
──大学教員時代を経て、今の時代は先生から見ていかがですか?
「お年寄りは今の時代を批判するけど、確実によくなっていると思いますよ。悪いのは経済だけです。長期的には心配してない。何より今の人たちは感じがいいですよ。私はもう学校をやめちゃってるから10代の子はわからないけど、接している20代30代はみんな感じがいい」
──「感じがいい」とは?
「確信犯で戦略的なのか、偽善的になることで世の中がよくなるようにと意識しているのか、真意はわかりませんけれども、『いい子』です。でも、いい子ではあるけれども、世界が狭い。それに、自分の中の闇を見つめる勇気はないんですよ。いい子でいる自分がおそらく好きなんでしょう」
──「いい人」は自分の闇を見つめられない人でしょうか?
「いい人であろうとする人たちは自分の中にある闇を見つめようとするのがイヤな人たちです。基本的にはそうです。自分がすごく意地悪で、自分がすごく嫉妬深くて、人の足を引っ張って……という部分なんかを見つめるのがイヤな人たち。だから私の書く本なんかは特に大っ嫌いですよ(笑)」
──そのまま生きていけるものでしょうか?
「まぁ、徐々に闇を取り込めるようになっていって、そのうえでいい人であろうとするでしょうね。ある程度、思考できる力があればそうなると思います」
これから生き延びるのは「いい人」であるワケ
──いい人は馬鹿を見ることが多いとよく言います。過酷な時代でも「いい人」は生き残れますか?
「いい人じゃないと生き残れないでしょう」
──先生は過去のご著書の中で、お人よしタイプは搾取されるということを書いておられていたことがありますが、時代に合わせてアップデートされたのでしょうか。
「これからはルールを守って信頼されるみたいな生き方をしたほうが得なんです。神様がどうこう、道徳がどうこうではないんです。お人よしであることが生き残るための社会的スキルとして活かされてくるような時代が来ると思います。岡田斗司夫さんが言う”いい人戦略”の『ホワイト社会』ともいえるでしょうね」
──信頼されるいい人が生き残ることができる理由について、もう少し詳しく教えてください。
「この歳になって振り返ると、世間っていうのは馬鹿じゃない……馬鹿って言っちゃいけないか。やっぱり世間は騙せないんですよ。人を欺いたり、人のものを盗んで得するというのは長続きしないです。社会システムの上のほうにいて、人から絶対に見えない場所で搾取できるみたいな層ならいざ知らず。庶民層ではそういうのは無理なので。情報社会で真実が暴かれるペースが速くなっているでしょう。どんどん暴かれていくので、不正はバレていく。会社でも内部告発があるでしょ。今は我慢せず、みんな書いちゃうから。すっぱ抜かれるのはいいことですよ」
──危険を回避しやすい?
「今の若い人たちは、就活の際に情報を収集して企業をリサーチしていますね。ここはセクハラが多いとか。中で働いている人の不満が情報化されて外から見える。中の人が納得して働いてないという会社はやっぱり駄目なんですよ」
──もし知らずに入ってしまったら、逃げてもいいですか?
「逃げていいでしょう。どうしても劣悪な環境、職場ってあるんですよ。しょうがないですね。職場を変えるのは全然いいと思いますよ、履歴書に書ける程度なら(笑)。1年くらいでコロコロ変わっていると、あとから自分の職歴を追っかけるのが大変だと思いますよ。あんまり変わると自分でも把握できなくなって、年金をもらい損ねてしまうかもしれない。そこだけ気をつけないとね」
後編(1月31日18:00配信)に続きます。
(取材・文/七尾びび)
《PROFILE》
藤森かよこ(ふじもり・かよこ)
大学教員を経て著述業にいたる。1953年、愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課程満期退学。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義者)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』『利己主義という気概』(ともにビジネス社)を翻訳刊行した。著書に『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』『馬鹿ブス貧乏な私たちを待つろくでもない近未来を迎え撃つために書いたので読んでください。』(ともにKKベストセラーズ)や『優しいあなたが不幸になりやすいのは世界が悪いのではなく自業自得なのだよ』(大和出版)がある。