コロナ禍に入ってから、テレビで活躍するタレントや芸人の多くがYouTubeに参入。テレビ仕込みの高い企画力や巧みな話術によって、たちまち人気を集めていきました。そんな中で、「ただご飯を食べてしゃべるだけ」という異色のチャンネルが誕生しました。おかずクラブ オカリナさんの『ときどきオカリナ』です。
「ご飯を食べながらダラダラ話しているだけです」「何もすることがないときに見てください」といった文言とともに更新される動画は、本当にただ食べながらしゃべるだけ。
しかし、そこで飛び出す言葉の数々は、何者にも媚びず、核心を突くようなものばかり。見ながら思わずハッとした人も多いのではないでしょうか? そこで、オカリナさんにインタビュー。
インタビュー前編では、YouTubeでのこだわりなどを聞きながら、媚びない姿勢の真意を探りました。
個人チャンネルでは「やりたいことをやる」スタンスです
――2023年3月で、YouTubeに個人チャンネルを開設して丸3年。今では本当に多くの支持を集めるチャンネルとなっていますが、当初はこんな状況になると思っていましたか?
「いやあ、思っていなかったです。ただ、最初は登録者数ってもっと簡単に増えるものだと思っていたんですよ。でも、そうでもないとわかって。“あ、YouTubeをナメていたんだな”とは思いましたね。でも“まあいいか”と思って続けることにしたんですけど。
そうしたら、半年ぐらいたったころ急に、それゆけちゃんさんという方が、ツイッターで私のYouTubeチャンネルについてつぶやいてくださったんですよ。そこから一気に登録者数が増えました」
――“ご飯を食べる様子を届ける”というスタイルは最初から一貫していたかと思いますが、より登録者数を増やすためにテコ入れをしたことはありますか?
「そういうことは全然ないですね。もともと個人チャンネルを始めたきっかけは、森三中の黒沢(かずこ)さんと、私たちのマネージャーさんに同時期に“YouTubeやってみたら?”とすすめられたことなんです。
コロナ禍に入ったばかりで仕事が減ってきていたし、タイミング的にはちょうどいいんじゃないかということで。で、そのときマネージャーさんに“私がやることに対して、何も言わないんだったらやります”と言って始めたんですよ」
――いろいろアドバイスされる環境よりも、自分主導でできるほうがやりやすいと。
「そこが第一にあるので、“より多くの人に見てもらうためにこうしよう”というスタンスではないんですよね。それに私、“こうすれば面白くなる”がわからないので。ただヒマだから、空いた時間で自分がやりたいことをやった結果が“あの動画”という感じ。狙ったりはしていないんですよね。
……あ、でも、動画を見た妹から“しゃべったほうがいいんじゃない?”と言われたんです。最初のうちは、無言でただ食べるだけの動画だったので“まあ、そうかもな”と思って。そこからコメントを返す形でしゃべるようにはなりました」
――そうしてスタイルができあがっていったと。反響はいかがですか?
「“ひとりでご飯を食べているのに、一緒に食べている感じがして嬉しいです”とか言ってもらえますね。あと、“生きているのがつらかったけど励まされました”というコメントもあります。
そこまで思ってもらえるのかと、私としては意外でした。ただ食べているだけだから。犬猫が出てくるような癒やし動画でもないのになあって」
――きっと、オカリナさんがご飯を食べる姿に癒やされているんでしょうね。しかも、常に自然体なところも素敵だなと感じるのですが、ほぼプライベートの様子だと思います。私生活を切り取ることに、抵抗は感じませんでしたか?
「それも特にないですよ。抵抗を感じる部分は映さないようにしているし、着ている服もパジャマだと思われがちなんですけどパジャマじゃないですし。スッピンだけど顔も洗って化粧水とかもつけているし。寝グセはめんどくさいからそのままですけど」
――なるほど。動画をアップするうえでのこだわりにもつながるお話ですね。
「そうですね。あとこだわりで言うと、おかずはなるべく多めにしています。極端な話ですけど、卵かけご飯ひとつだと、一瞬で食べ終わっちゃうじゃないですか。
それだと動画がもたないので、品数をたくさん用意できる時間があって、なおかつたくさん食べたいなと思ったときにだけカメラを回しています。だから不定期になるんですよね」
媚びない姿勢の真相と普通の人になりたかった幼少期
――また、コメントにも丁寧に素直に返事をしていますよね。とあるYouTuberさんの動画と似ているというコメントが寄せられたときも、「私はその方を知らないんです」「そこが気になるなら、私の動画を見ないほうがいいと思います」とはっきりおっしゃっていたのが印象的でした。
「あ、そんなこともありましたね。私、嫌いなものをわざわざ見る人が理解できないんですよ。たまにいるじゃないですか? 腹立つのに見に行く人。
“そのエネルギー、いらなくないですか?”って思うんですよ。“そのぶん、好きなものを見ていたほうがよくないですか?”って」
――しかも、見に行って否定的なコメントをするんですよね。
「そうなんですよ。YouTuberさんと似ていると言われたときは、同じようなことを何回も言われていたので、“あ、気になる人が多いんだな”と思って。“そういうわけじゃないですよ”と言いたくてしゃべりました」
――オカリナさんの媚びない姿勢や、取り繕わない言い方が素敵だなと思いながら動画を見ています。昔からそうなのでしょうか?
「そうかもしれないです。空気を読むのが苦手なんですよ。だから余計なこと言っちゃうんですけど」
――育った環境がそうさせたのでしょうか?
「というより、私の性質だと思います。そういう人間なんですよ、小さいころから」
――そのほうが生きやすい、ということでもあるんですかね。
「うーん……いや、そうでもないですね。私、もともとは“普通の人”になりたかったんです。世の中にはいるじゃないですか? 普通の体型で、可愛いわけじゃないけどブサイクでもなく、飛び抜けてスポーツができるわけでもないけどめちゃくちゃ運動音痴というわけでもない普通の人。
そういう人になりたかったんですけど、そうはいかなかったんですよね。“変わってるね”と言われることも多いし、結局のところ普通が何なのかもよくわからないんです。だから今、(芸人として)ここにいるんでしょうけど」
――では、今は居心地がいいですか?
「そうですね。普通になれないとわかったし、芸人はダメなところこそ“よい”とされるので、ありがたい職業です。それに、仕事をする中で知り合いが増えたので、楽しいことも増えましたし。
看護師(芸人になる前、約4年間看護師として働いていた)のときは本当につらいことが多くて、事あるごとにリネン庫でリネンを殴ってストレス発散をしていたんですけどね。当時に比べたらかなり居心地がいいです」
人見知りの性格だからこそ、ちょうどよいYouTubeの距離感
――オカリナさんの場合、メディア露出も多く世間にオカリナさんのイメージが浸透しています。だからこそ、YouTubeでのコメントもこちらにストレートに刺さるのでしょうね。
「でも、芸人という仕事に関してわからないことだらけなんですよ。使ってくれてありがたいなと思うけど、なんで使ってくれるのかも、使わなくなるのかもわからない。もう、全部わからないです。どうすれば面白くなるのかもわからないですし」
――YouTubeを始めた経緯のところでも、話してくださいましたね。
「面白いことをしなくちゃいけない状況になったとき、恥ずかしくなるんですよ。ボケることがハズい。ダメなことだとは思うんですけど」
――芸人さんからすると、だいぶ珍しいタイプでしょうね。
「基本的には、“笑いを取ってやるぜ!”という人が多いんですけど、私は違いますね」
――以前、鬼越トマホークさんのYouTubeチャンネルで、オカリナさんについて「狙ってないのにウケる」「ボケてないんだよね」と分析されていました。
「あ、まさにそうなんですよ。私、明確に笑いを取ろうとして取ったことは1回もないんです。そりゃあ、ゆいPが作ったネタの中ではありますよ? でも、自発的に笑いを取ろうと動くことはないですね。
昔から自意識過剰で、ボケることが恥ずかしいんです。誰も私のことをそこまで気にしていないとわかっているんですけど、直せない。私の弱点だと思います」
――でもきっと、NSC(吉本総合芸能学院)時代はネタを発表する場面って多いですよね。
「はい。だから常に“嫌だな”“私まで回ってくるな”と思っていました。ただ一方で、さほど“恥ずかしい”と感じないこともあるんですよ。
例えば、自前のものじゃなかったら下着姿でウロチョロすることもわりと平気です。自前のものだと趣味がバレるのが恥ずかしいんですけど、自前じゃなければいいかなって」
――極端ですね(笑)。
「そうなんですよ(笑)。それに、自意識過剰なくせして周りに配慮できないところもあって。“デリカシーがない”“余計なひと言が多いよね”と言われることもあります。
例えば森三中の大島(美幸)さんと一緒にお風呂に行ったとき、大島さんが“いちご牛乳買ってあげるよ”と言ってくれたんです。そこで返す言葉って、本来なら“ありがとうございます”だけでいいはずなのに、私は“実は普通の牛乳がよかったんですけどね。ありがとうございます”とか言っちゃうんですよ。
もともと人見知りだから、人づき合いがそんなに得意じゃなくて。接するときは土足で踏み入っちゃうか、玄関を開けないかのどちらかしかできないんですよね。
なのでさっき“媚びない”と言ってくれましたけど、この私の性格がみなさんには媚びないように見えているんだなと思います。実際はデリカシーがないだけなんですけど、ちょっと離れてみるとそう見えるのかもなと」
――なるほど。では、YouTubeの配信元と視聴者くらいの距離感のほうが接しやすい?
「あ、そうですね。だと思います。面と向かって接したり、ガッツリ会話をしたりするよりは合っている気がしますね。YouTubeを通して接すると、お互いの悪いところってあんまりわからないし、それ以上深い仲にならないから。
見てくれている方たちがどう思っているかはわからないけど、私としてはストレスなく過ごせる場所ですね」
(取材・文/松本まゆげ、編集/本間美帆)
【PROFILE】
オカリナ 1984年生まれ、宮崎県出身。NSC(吉本総合芸能学院)東京15期。看護師を経て、2009年にNSC東京校入学。同年に同期のゆいPとお笑いコンビ「おかずクラブ」を結成。2019年には『女芸人No.1決定戦 THE W』のファイナリストとなった。現在は、コンビで『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)など数多くのバラエティ番組に出演。個人としては、実写ドラマ『天才バカボン』の主演経験も。