岩崎良美、愛あふれる尾崎亜美との制作秘話にほっこり！ 水泳大会や水着での撮影は「完全にお断りしていました」!?

　今回も、岩崎良美のSpotifyでの人気曲を本人とともに振り返る。前回は、第1位「タッチ」、第3位「愛がひとりぼっち」、第5位「青春」、第9位「チェッ！チェッ！チェッ！」など上位の大半を占める『タッチ』シリーズのタイアップ曲や、長くナレーションと挿入歌を担当している『おさるのジョージ』などアニメ作品にまつわるエピソードと周囲への感謝の気持ち、そして第4位のデビュー曲「赤と黒」への熱い想いを語ってもらった。今回は6位から見ていくが、その前に、アイドル時代のエピソードを振り返ってもらう。

（インタビュー第1弾→岩崎良美『タッチ』タイアップ6曲が令和のサブスクでも大人気！『おさるのジョージ』がつないだ細田守監督との“ご縁”も語る）

4歳差の柏原芳恵とは今も“メル友”。水泳大会はデビュー前から断っていた!?

　岩崎良美がデビューした1980年の同期は、田原俊彦、松田聖子、河合奈保子、三原順子（現・三原じゅん子）、柏原よしえ（現・柏原芳恵）、松村和子など錚々（そうそう）たる顔ぶれとなっているが……。

「ほかにも、シャネルズ、浜田朱里さん、鹿取洋子さんが一緒でしたね。なかでも、松田聖子さんは高校のクラスメイトだったので、よく一緒にお話ししていました。また、柏原芳恵さんは4才も離れているので（高校生と中学生だった）当時はあまり絡みがなかったのですが、ずっと後になって音楽番組でご一緒したのをきっかけに、今ではお互いのお誕生日などを祝い合う“メル友”になりました。それと、同期ではありませんが、（’78年デビューの）石川ひとみさんは現場で会うと、いつもおしゃべりする仲ですね」

　そういえば、岩崎はアイドル雑誌には登場していたものの、水着姿を見たことがない。事務所の方針だったのだろうか。

「グラビアのお仕事はやりましたよ。レコード会社対抗の運動会や雪の祭典などにも出場しましたが、水泳大会や水着の撮影は、私の意志でデビュー前から完全にお断りしていました。小さいときから頑固で、一度決めたら自分の意見を通していましたね（笑）」

　そういった強い意志があったからこそ、「良質な音楽を届けよう」というスタンスをブレさせることなく活動できたのだろう。実際、Spotifyランキングの第6位～第8位、第10位、第12位、第13位という上位層に、タイアップ曲でもないアルバム曲が次々とランクインしているが、シンガーソングライター以外でアルバム曲がこれだけ上位となるのは、かなり珍しい。特に、第6位の「Save Me…お願い」と第7位の「What’s Love?」の再生回数のうち約9割が海外リスナー！　当時のヒット事情を知らないからこそ、純粋にいい音楽が届いているように思える。

尾崎亜美との楽曲はお気に入りのものばかり。電話越しで“朗読”した思い出も

　以下、順を追って見ていこう。まず、第6位の「Save　me…お願い」は、’83年末のアルバム『Save me』に収録されているアップテンポの楽曲。この時期、すでにシングルのTOP30入りからも遠ざかっていたが、岩崎自身は満足のいく作品を次々と発表できていたようで、’02年のCD BOX『ぼくらのベスト』の本人によるセレクト枠6曲の中にも本作を選ぶほどのお気に入り。

自身の楽曲ブックレットを見ながら、当時を懐かしみ笑顔を浮かべる岩崎　撮影／北村史成

　このリスナーの大半が海外なのは、作詞・作曲を手がけた尾崎亜美の作品だからということもあるだろうが、岩崎のカラッとした歌声や、大村雅朗による洗練されたアレンジなど、総合的な作品力も大きいだろう。

「この曲は本当に大好き！　『Save　me…お願い』や（アルバム『心のアトリエ』収録の）『Hurry Up』など、尾崎亜美さんの楽曲はお気に入りの曲が多いですね。亜美さんとは同じレコード会社で、ディレクターさんも同じだったのがお仕事のきっかけですが、すてきな曲をいっぱい書いてくださいました。

　この前年のシングル『化粧なんて似合わない』（Spotify第59位）を作ったのも思い出深いですね。メモに書いていた歌詞の構想を亜美さんに直接渡す勇気がなく、電話をして1回だけ朗読して内容を伝えて、それをもとに作ってもらったんです」

アルバム『Save me！』のジャケット写真。海兵風の衣装に黄色の背景で爽やかなイメージ！

アルバム『Wardrobe』が令和でも大人気！　収録曲の印象的な歌詞にも注目

　そして、第7位「What’s Love？」、第10位「ヒールとスタジャン」、第12位「Congratulaion」は、いずれも’84年のアルバム『Wardrobe』収録。本アルバムは、全曲の作詞を康珍化、作曲を林哲司が手がけている。これだけ人気曲が集中するのは、間違いなく松原みきの「真夜中のドア～Stay with me」や、一連の菊池桃子作品にも通じるシティポップ・ブームの影響を受けているだろう。

　ただ、「What’s Love？」は、“杉山清貴&オメガトライブ”ファンが泣いて喜びそうなクールなドライブソング、「ヒールとスタジャン」は、明るく弾けたアッパーチューン、さらに「Congratulation」は穏やかなミディアム・チューンと、林哲司の楽曲の中でもかなりレパートリーが幅広い。康珍化の歌詞も多彩だし、岩崎良美の歌声も自由自在だし、林自身もいつも以上に作曲の想像力が広がったのではないだろうか。

「『タッチ』のときもお話ししましたが、康珍化さんの歌詞は、アルバムでも名曲ぞろいなんです。12位の『Congratulation！』もめちゃくちゃ好きな曲でした。友達の結婚式で、学生のころから気になっていた男性と再会するという内容ですね。32位の『10月のフォト・メール』……これがまた切ない曲なんですよ！　このアルバムの曲は、こんなに人気なんですね？　今日、家に帰って聴き直します！」

　ちなみに「10月のフォト・メール」は、海外留学した彼から“成田に迎えに来て”と書かれた手紙が届くのだが、日本で待つ彼女にはすでに新しい恋人がいて……という内容。このアルバムは、ほかにもドラマティックな歌詞と印象的なサウンドが凝縮された作品となっている。収録されたシングル曲は「愛はどこに行ったの」（オリコン最高86位）と「くちびるからサスペンス」（オリコン最高73位）で、本アルバム自体もオリコン最高50位。いずれも決して満足のいく結果ではなかったかもしれないが、当時のレコード会社の制作スタッフは、“本当にいいアルバム”と絶賛している。そんな隠れた名盤が、発売から40年近くたって、岩崎良美の中でもっとも海外で評価されているとは非常に感慨深い。

人気曲が詰まったアルバム『Wardrove』。温かみのある光が差すジャケットがおしゃれ！

　そして、8位には’85年のアルバム『half time』収録の「思い出ハーフタイム」がランクイン。本アルバムには「タッチ」が収録されており、「思い出ハーフタイム」は、それに続く2曲目に収録されていることも、再生回数が伸びた一因であろう。アメリカン・フットボールがテーマとなっているノリのいい楽曲だが、岩崎本人は「コンサートで歌った記憶はない」とのこと。ドラマ『スクール・ウォーズ』でのマネージャー役やアニメ『タッチ』シリーズの関連曲からか、岩崎の歌声からは、スポーツ男子への熱い視線が伝わってくる。

“小室サウンド”は「難しかった」、自身の思い入れが特に深いアルバムは？

　13位以下を見ても、アルバム曲からは注目作が次々とランクイン。第13位の「あの時…」は’81年のアルバム『心のアトリエ』収録で、全世代から絶大なリスペクトを受けているギタリストのCharが竹中尚人名義で作詞・作曲を手がけている。彼のギターがループするようなインストゥルメンタル風の楽曲に歌が乗っているような感じで、歌唱力が試されるような難曲だ。

「Charさんとは、イスを2つ並べて、2人で声を重ねていったのが楽しかったです。『あの時…』は当時、ライブでも歌っていましたね。ただ、私の曲はフェイドアウトするものが多いので、（フェイドアウトにはできない）ライブではどうやってエンディングに持っていこうかと、悩んだこともありました」

ポニーテールがとてもお似合い！　とにかく自身の楽曲と真剣に向き合い続けてきた岩崎の言葉には、非常に重みがある　撮影／北村史成

　第17位の「哀愁クルーズ」は’86年のアルバム『cruise』収録で、小室哲哉が作曲を担当。彼の提供作としては、この約半年前に渡辺美里の「My Revolution」が大ヒットしていたものの、まだTM NETWORKのブレイク前である。 ’90年代のTKブームよりもずっと前に、岩崎良美のアルバムにひっそりと提供しているということもサブスクが伸びた要因だろう。岩崎本人によると、

「小室さんのメロディーが今までの自分にない感じで、難しかった記憶があります」

　とのことだが、実際に聴いてみると、軽やかでどこか余裕すら感じさせるほどおしゃれな雰囲気に包まれる。ほかに、20位に’81年のアルバム『Weather Report』収録の「今夜は私RICHな気分（New Version）」も、岩崎には意外なディスコ・ナンバーだが、こちらも見事にハマっている。ひとりのアイドル歌手に、ここまで次から次へと難易度の高い楽曲を歌わせるのかと、改めて驚かされる。

　実際、『ぼくらのベスト』に寄せられたディレクターのコメントでは“岩崎良美は、唯一リミッターを外して制作できた歌手”と絶賛されている。つまり、通常のアイドル出身の歌手に見られる“こんな歌詞は合わない”、“こういう音域は無理”といった制約が、岩崎良美には一切不要だったというわけだ。そのことを本人に伝えると、

「いやぁ、私は本当にいい曲に恵まれてきましたよ。詞も曲調も……全部いい！　しかも、レコード会社の方も、私の意見をどんどん取り入れてくれて、本当に大事にしてくれました。当時からシングル以上にアルバムに力が入っていて、ここに名前の挙がったアルバムは、好きなものばかりですよ。

　特に思い入れが強いのは『Weather Report』(’81年）、その2年後の『Save Me』。このあたりはスタジオに入り浸りで、尾崎亜美さんと一緒にコーラスまで全部やらせてもらって、本当に楽しかったですね。そのリード曲『Save Me…お願い』がこんなに上位だなんて、本当にうれしいです！　でも……私の歌って難しいのよね～。この曲も、かなりキーが高いのに、よく歌えていたと思う！　若さで乗り切っていたのかなぁ（苦笑）」

　このように、本人も楽曲のクオリティの高さに太鼓判を押すほどだ。現在は、ギターとピアノを中心としたアコースティックなライブが中心で、当時の雰囲気とは異なる感じになるかもしれないが、今後のライブにおける選曲でも、現在のSpotifyの人気曲は大いに参考にしたいとのこと。気になる方は、ぜひ最近のライブにも足を運んでみてはどうだろうか。

岩崎自身も愛が深いアルバム『Weather Report』。夏らしいドット柄が爽やか♪

　岩崎良美回のラストとなるインタビュー第3弾では、本人が聴いてほしい楽曲や、近年の活動にも迫ってみたい。

Spotifyでの岩崎良美アーティストページも要チェック！　※記事中の写真をクリックするとこの写真と同じページにジャンプします

（取材・文／人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝）

【PROFILE】
岩崎良美（いわさき・よしみ）　◎6月15日生まれ、東京都江東区出身。姉は歌手の岩崎宏美。高校時代から芸能活動を始め、1980年2月に「赤と黒」で歌手デビュー。翌3月に開催された東京音楽祭国内大会でグランプリに輝き世界大会に出場、国際友好賞を受賞。「涼風」「あなた色のマノン」「愛してモナムール」「青春」などの楽曲でも高い評価を受けたほか、『スクールウォーズ』『花真珠』をはじめとするテレビドラマにも数多く出演。’85年に発表した20枚目のシングル「タッチ」は当時のスマッシュヒットにとどまらず、令和の現在でもカラオケランキングに上位に入るなど、幅広い世代に長く愛されている。現在、長寿アニメ番組『おさるのジョージ』で主題歌とナレーションを務めるほか、アルバムリリースやライブ活動、フランス語でフレンチポップスを歌唱するなど精力的に活動中。