まるで絵画の中から出てきたような優美さをまとうロリータファッション。Twitterのフォロワーは8万8000人以上、中国におけるSNSの総フォロワー数は100万人を超える青木美沙子さんは、ロリータモデルだけでなく、看護師としても働いています。看護歴19年のベテランにして、PINK HOUSE(ピンクハウス)やMelody BasKet(メロディバスケット)などのアパレルブランドとのコラボ商品も多数プロデュースしています。
美沙子さんは、ロリータファッション界のカリスマとして、2009年に外務省から「カワイイ大使(ポップカルチャー発信使)」を委嘱され、海外で日本のファッション文化を広める活動も行っています。しかし、国内ではまだロリータファッションに対する偏見を強く感じるといいます。その一端を表す出来事として、彼女が実際に経験したマッチングアプリでのエピソードをお聞きしました。
(美沙子さんがロリータファッションにハマったきっかけや、看護師とモデル業を兼業している理由などは、第1弾で語っていただいています:“ロリータファッション界のカリスマ”青木美沙子さんが看護師とモデル、二足のわらじを履き続けるワケ)
海外の“ロリータファション愛”にびっくり
──看護師として働きながら、ロリータモデルとしてカワイイ大使にも任命され、活躍の場が広がりましたね。
「はい。世界各国に日本発祥の“カワイイ文化”を広げるために、現地に出向いて活動して、25か国くらい訪問しました。海外に行ってみると、“ロリータファッションってこんなに人気があるんだ”って、改めて驚きましたね」
──具体的に、どのような活動をされていましたか?
「例えば、訪問先でお茶会をして、現地の人々と触れ合いました。マリー・アントワネットらが生きていた時代のファッションを日本風にアレンジしたのがロリータファッション。だから私からみたら、フランス人やヨーロッパの人のほうがサマになると思うのに、“日本人が似合うのがロリータファッション”って、ほめていただいたんです。それも衝撃でした」
──“カワイイ”という価値観の文化が受け入れられていたのですね。
「そうなんです。日本では原宿などに行けば買えますが、海外にはロリータ系のお店がほとんどない。ロリータファッションが好きな方々は、当時は今ほど一般的ではなかったインターネットを駆使して情報を集めたり、雑誌『KERA』を輸入して買って、擦り切れるまで読んでくれていたり……。それを知って、“海外でのカワイイ文化の地位をもっと高めたい”って思いました」
──ロリータモデルとして、使命感が芽ばえましたか。
「海外での熱狂を目の当たりにして、日本人にも、カワイイ文化やロリータファッションをもっと知ってもらいたいという気持ちになりました。自分が先頭になって知らせたいとも思いましたね」
──訪問先では、どこの国が印象に残っていますか?
「海外に行くと、日本ではいち看護師として働いている私が、まるでアイドルになったみたいに“わー”って歓声をあげて喜んでもらえるんです。特に中国はロリータファッションブームなので、コロナ以前には週に1回のペースで訪問していました」
──週1で行っていたのですか!?
「はい。5年前くらいから中国ではブームが盛り上がっていて、いろいろな都市のイベントに呼んでいただきました。上海には、日帰りでも行っていましたよ(笑)」
──すごい熱気ですね。
「中国の人口は日本の10倍以上なので、ロリータファッションを着ている人の総数も多いんです。市場が大きいし、20代や30代だけでなく50代、60代の女性も着ているんですよ」
──カワイイ大使に任命されてから、日本のファッション文化を海外に紹介できたという感触はありますか?
「私の力は微々たるものでしょうけど、あるかもしれないって思います。海外のほうが、ロリータファッションに対してリスペクトがあるんですよ。看護師をやりながらカワイイ大使の活動をするのは体力的にきつかったし、楽しいことだけでもなかった。でも、とても歓迎してもらえたし、“自分はロリータファッションが好き”って再認識できました。人生を捧げるくらいのものに出合えたことは財産だと思います」
マッチングアプリで婚活するも「なんかおかしいな」
──ロリータファッションを着ているだけで、酔っぱらいに絡まれたりすることもあるとおっしゃっていましたが(第1弾参照)、マッチングアプリで婚活をされたときも嫌な思いをされたそうですね。
「(嫌な思いをしたことが)めちゃくちゃありましたよ! 日本は、ロリータファッション好きにとっては、とても生きにくい世の中なんです。ロリータファッションは“デートに着てきてほしくない服装ナンバーワン”と言われているみたいです」
──なぜマッチングアプリを利用しようと思ったのですか?
「30代前半のころに、結婚に対して憧れがあったんです。周りのみんながどんどん結婚していくのを見ていると、焦ってしまって……。とはいえ、看護師の仕事は出会いもないんですよ。“まさか自分がマッチングアプリで婚活をすることになるとは思ってもいなかった”というのが本音ですね」
──マッチングアプリでは、看護師として登録されていたのですか?
「看護師とロリータモデル、それぞれ登録して試してみたのですが、ロリータファッションを着ていると書いたら、とたんにマッチングしなくなるんですよ。例えば、女性だったら男性の年収や離婚歴を見るじゃないですか。それと同じくらいのレベルで、男性側は女性のファッションも気にしているんじゃないかなって思いました」
──看護師として登録をした場合と、ロリータファッションを着ていると書いたときでは、男性側の反応はどれくらい違いましたか?
「看護師で100人からアプローチされるとしたら、ロリータが10人くらいですかね。相手の食いつきが全然違いました……。男性って、なぜか看護師のことを好きですよね。“実は気が強い女の子が多いよ”って伝えたいです(笑)」
──マッチングアプリでは、実際に男性とお会いされましたか?
「はい。看護師として登録したプロフィールでやりとりをしていた相手と、何人か会いました。事前に伝えていませんでしたが、当日はロリータファッションを着ていきました。すると、まず会話が成立しないんですよ。集合して、一緒に食事先に向かう段階で、すでに“なんかおかしいな……”みたいな感じで」
──具体的にはどういう状況だったのですか?
「もう、普通の会話が成り立たない。こちらを見て“そのドレスいくらするの”とか、“その服、どこで買えるの?”って、バカにした感じで聞いてくる。なかには、“こりん星(注:小倉優子さんがアイドル時代に自身が住んでいるとしていた架空の場所)から来たの”って言ってくる人もいましたよ。“どうしてそんなこと聞かれなきゃいけないの”って思いがありましたね。”親に紹介できないよ“って言われたりもしました」
──いち大人の女性として扱っていないような印象ですよね。
「すごくイラッとしたんですけど、出会いがなかったのでマッチングアプリを利用するしかなかった。赤ちゃん言葉もめっちゃくちゃ使われたんです。でも、“外見だけで判断するような人なんだ”って気づいた時点で、私はその相手をシャットダウンします。だから恋人ができるどころか、ひどい現実に衝撃を受けたっていうのが強かったです」
──ロリータファッションに対する偏見って強いのですね……。では反対に、ロリータファッションを着ていると知っていてお会いした男性の態度はどうでしたか?
「“普通の会話ができるってこんなに楽しいんだ”って思いました。でも、結局お付き合いまでは進みませんでしたね……。選んだマッチングアプリがよくなかったのかな(笑)」
──ロリータファッションを着ることに対して、男性側が見せた嫌悪感についてはどう思いますか?
「日本は海外と違って、女性はわりと柔軟性があるのに、男性は保守的なのかなって思う。連れて歩く女の子を、アクセサリーじゃないけれど、“見栄えのよいファッションの子がいい”って思っているような傾向がありますよね」
──雑誌にも「モテコーデ」という特集が組まれるくらいですからね。
「モテ服とかモテメイクを提案している女性もいますよね。(私からしたら)敵ですよね(笑)。そういうのが好きでしている人はいいけれど、相手からの反応を気にしてファッションを選んだり、自分の好きなものを諦めたりするなんて、もったいないって思います」
──もしも、結婚を考えた男性から「ロリータファッションをやめてほしい」と言われたらどうしますか?
「ロリータファッションは私の人生を変えてくれたものなので、その人とどちらを取るかって言われたら、ロリータを取るつもりです。(やめてと言われるのは)価値観を理解されていないということだし、自分を変えてまで、誰かと付き合いたくはないんです」
目標は作らない。好きを貫いて生きていきたい
──普通の女性が感じている“生きづらさ”みたいなものが、ロリータファッションを通してより一層感じられるのかもしれませんね。
「女性の場合は、子どもを産む年齢も限られているので、“何歳までに○○をしなきゃいけない”っていう呪縛がすごくあると思うんです。それを意識していると、女性は生きにくい世の中だと思う。男性は正直、いつだって結婚もできるし子どもも持てる。でも、女性にはタイムリミットがあるって考えると、キャリアと結婚や出産のはざまで悩む女性も多い。その中で、たとえ結婚しない生き方があってもいいと今は思っています」
──ロリータファッションに対しての偏見は、以前よりはなくなってきたと感じていますか?
「今でもあまり理解されていないと思う。でも、言い続けることが大事だって思うんです。女性の場合は、結婚や出産、キャリアで悩むことがある。そんなときに、“自分を変えなくてもいい。好きなことを諦めない選択肢もあるんだよ”って伝えたい。私の生き方が正しいとは思っていないし、“こういう生き方の人もいるんだ”って思ってもらえれば」
──ファンの方は、美沙子さんに対して「幸せになってほしい」と見守っていると思います。
「よく言われます(笑)。ただ、結婚することがすべてだと思っていないし、結婚=幸せっていうふうにとらえると、そこがゴールになっちゃう。でも今は仕事が楽しいですし、プライベートでも好きなことができているので、焦らずにいきたいと思います」
──もしかして、結婚願望がなくなりましたか?
「今38歳ですが、34歳、35歳のときみたいな焦りはありませんね。最近は達観して、奇跡的な出会いを待っております(笑)。結婚もしてみたいと思っているけれど、それがすべてじゃない。輝けるように生きていけばいいなって考えています」
──美沙子さんの将来の目標ってありますか?
「あんまり目標は作らないようにしているんです。“いつまでにこうしたい”って考えると、自分に対するプレッシャーになってしまうので……。恋愛も、“35歳までに結婚したい”って焦った結果、マッチングアプリで失敗したし。でも、コロナが収束したら海外には行きたいと思っていますね」
──最後に、ロリータファッションはこれからも着続けますか。
「ロリータファッションもずっと着続けていきたいし、何に対しても、好きを貫いていきたいって思っています。結婚はしなくてもいいとはいえ、お互い好きになれるお相手がいたら一緒になりたいって思いますし、出産をしたいとも思っている。何かを諦めるってことは、今のところ考えていません。自分が進みたい道からぶれずに生きていったほうが、死ぬときに“よかった”って思えるんじゃないかな」
青木美沙子さんが、国を越えて愛されているのは、誰かが決めた“普通”にとらわれないという価値観が、ロリータファッションから感じられるから。可愛いだけではなく、看護師という職業と華やかなモデル業を両立し、女性が感じている生きづらさや不自由さをメッセージにして発信している美沙子さんの姿は、新たな女性像として輝いていました。
(取材・文/池守りぜね)
【PROFILE】
青木美沙子(あおき・みさこ) ◎正看護師兼ロリータファッションモデル。日本ロリータ協会の会長でもあり、2009年には外務省から「カワイイ大使」として任命され、これまでに25か国45都市以上を訪問。Twitterのフォロワー数は約8万8000人、中国におけるSNS総フォロワー数は100万人を超える。ロリータファッションブックの発売や、数々のアパレルブランドとコラボしたプロデュース業も行っている。
・オフィシャルブログ→https://lineblog.me/aokimisako/
・公式Twitter→@aokimisako