もう珍しくなくなったバーチャルYouTuber、通称・Vtuber。その総数は2022年11月時点で2万人以上。まさに超カオスかつ熾烈(しれつ)を極めている中で、登録者ランキングトップ10のうち8つ(公式を入れると9つ)を占めているのがVtuber事務所・ホロライブの所属タレントだ。
ホロライブオタク界隈(かいわい)の特徴のひとつに「手描きアニメの多さ」がある。作家が配信の一部を手描きアニメで投稿しており、そのクリエイターが人気になることも多い。そこで今回は、ホロライブファンとして、双子でハイクオリティな手描きアニメを投稿している こまいぬさん に「ホロライブの魅力」「二次創作者として推しを推せる喜び」などを伺った。
チャンネル登録者数21万人! ホロライブと手描きアニメの相性がいい理由
――こまいぬさんは普段、週1~2回というハイペースでホロライブの切り抜き動画を作られています。めっちゃ大変なんじゃないかと思うんですが、どんな流れで制作しているんですか?
「制作は双子で取り組んでいて、友達が動画編集などをしています。なので3人で企画を出しながら制作し続けている感じですね。最近はアシスタントさんと一緒に制作しています。
制作自体はめちゃくちゃ大変なんですが、それでも複数人で取り組めるのはアドバンテージなのかな、と思いますね」
――ホロライブって手描きアニメのチャンネル数が多いですよね。しかも登録者数も多い。こまいぬさんも21.8万人(’22年12月現在)の登録者がいて、これはすごい現象だな、と。
「ありがとうございます。僕たちは’21年12月からYouTubeでの発信をスタートしたのですが、そのときには登録者10万人超えの手描きアニメのチャンネルがいくつもありました。ただすごく増えたのは’22年の夏ごろからかな……ここ最近は特に盛り上がってます。
僕たちの創作のゴールは“動画を通してホロライブのファンが増えること”なんですよ。だから手描きアニメの界隈が盛り上がるのは嬉しいですね」
――心の中が立派なオタクなの、ホント素敵だ……。しかし、なぜホロライブ界隈は手描きアニメがこんなに人気なんだろう。気になります。
「まず、配信者であるホロメン(※)のビジュアルがキャラクター化されているので“ファンアートが流行りやすい”という前提があると思いますね。手描きアニメだけじゃなく、絵や同人誌なども、他の界隈より盛んです。
※ホロメン:ホロライブの所属タレントは通称「ホロメン」と呼ばれる。ちなみにリスナーは「ホロリス」
それと普段のホロライブの配信はトークがメインです。それだけだと、ビジュアルで想像しにくいですよね。そこにアニメーションをつけることで、普段は見えない“ホロメンの友達や家族の話”をよりリアルに、可愛いイラストで表現するので、見ていて楽しいんだと思います。
僕たちも切り抜きの素材を探すときは“ホロメンの素が出る部分”や“エピソードトーク”に重点を置いてます」
ひたすらマンガ・アニメ漬けだった学生時代
――ただチャンネルがこれだけ伸びているのは、やっぱりこまいぬさんの動画のクオリティが高いからだと思うんですよ。もともと絵を描くのは小さいころから得意だったんですか?
「好きでしたね。双子そろって幼稚園のころからマンガが大好きでした。当時はコロコロコミック(小学館)のギャグマンガが好きで、自分たちで絵を描いて、見せ合っていた記憶があります。
小学生になっても少年マンガを読みまくっていて、そのころにふわっと“将来はマンガ家になりたいな”と思っていました」
――え? ふたりそろってマンガ家志望だったんですか?
「はい。ふたりともマンガ家を目指していました。小・中と一緒にオリジナルキャラクターを描いていたんですよ。やっていることは、今と同じです(笑)」
――すごいっすね……。”トキワ荘現象“というか、ライバルが近くにいたから、続けられたのかもしれない……。
「言われてみれば、確かにそれは理由のひとつかもしれません。
そんな中学生のころに『バクマン。』(集英社)(※)が始まったんですよ。その影響で火がついて“本気でマンガ家を目指そう”と」
※『バクマン。』:週刊少年ジャンプにて連載されていた、原作・大場つぐみ、作画・小畑健によるマンガ作品。マンガ家を目指し奮闘するふたりの少年を描いた
――ヤバい。それは刺さる(笑)。
「いやもうグサッと(笑)。それで高校生になって、2人で別々に出版社に持ち込みをしたり、漫画賞に応募したり……本格的にデビューを目指すようになりました。
そのころはマンガを描きながら『コードギアス 反逆のルルーシュ』とか『ソードアート・オンライン』とか、いわゆるちょっとオタク寄りのアニメをよく見ていました。でもやっぱりマンガのほうが好きなので、アニメの原作がマンガの場合は、アニメを見ず、マンガを読みがちです(笑)。
大学になってもマンガとアニメ漬けの日々でお互い描きまくっていて、出版社の小さな賞をいただいて、掲載の一歩手前、くらいまではいったんですよ。デビューができなかったんですが……」
――え、めっちゃすごい! 当時の画風は、今の切り抜きアニメに近い感じだったんですか?
「いや、当時は可愛らしくデフォルメされた絵を描くのが苦手だったので、めちゃくちゃ少年マンガっぽい絵でした。やっぱりずっと少年マンガで育ってきたので、可愛らしい絵は見慣れていなかったんですよね。可愛いキャラの絵は、こまいぬとしてホロメンを描くようになってから始めた感じです」
秘密結社holoXの盛り上がりがきっかけでホロライブの世界へ
――なるほど。そこからどういう経路で、ホロライブの手描きアニメに?
「’21年11月の『秘密結社holoX(※)』のデビューがきっかけでしたね。それまでVtuberには触れていなかったんですけど、あまりにTwitterで盛り上がっていたんで、気になって放送を見てみたんです。それが超おもしろくて“なんだこれは!”って」
※秘密結社holoX:ホロライブ6期生として生まれたユニット。ラプラス・ダークネス、鷹嶺ルイ、博衣こより、沙花叉クロヱ、風真いろはの5人で構成されており、「謎の組織」という少しダークなコンセプトを持つ
――おぉ、どこにおもしろみを感じたんですか?
「『秘密結社holoX』の少年マンガ感というか……。双子そろって、戦隊モノの雰囲気にやられました。ビジュアルも人外っぽくて好きでしたし、“謎の組織”というフレーズが、少年マンガ・アニメで育ってきた身としてはたまらなくて(笑)。
そこからどっぷり”ホロライブ沼”にハマりましたね。“僕たちもアニメで応援できる”と思って、YouTubeに動画を投稿するようになったんです。
動画を投稿し始めて気づいたんですが、マンガ持ち込みだと対象が編集者1人なのに対して、SNSだと世界中の人に作品が届くんですよね。今までになかったレベルの反応をいただけるのが、とにかく嬉しいです。特に“こまいぬの動画からホロリスになりました”というリアクションが、いちオタクとして本当に嬉しい……」
ファンアートの創作者ならではの沼のハマり方
――それは二次創作者ならではの喜びですよね。ちなみに推しはいるんですか?
「私はholoXのラプラス推しです。総帥なんですが、悪ガキ感があって、なんか姪っ子を見てるみたいで楽しいんですよね(笑)。双子で一緒に推しているのは、同じくholoXの沙花叉クロヱです」
――なるほど。holoXはやっぱり思い出深いというか……。
「そうですね。でも、基本はホロライブで箱推しです。holoXがきっかけでしたけど、他のホロメンとコラボしてくれるうちにみんなが好きになっていくんですよね。
兄は2期生の湊あくあが最推しですし、個人的には3期生の兎田ぺこらとか、宝鐘マリンも大好きです。キャラクターが強烈なホロメンは、見るのも描くのも楽しいんですよね。
あ、それと二次創作者ならわかると思うんですが“描けば描くほど好きになっていく”っていう感覚があります」
――どういうことですか?
「ホロライブの”尊さ”をきちんと布教するために、キャラクターが話すエピソードをすべて理解したうえで作品をつくる責任があると思っています。だから描く前に“この人のことをちゃんと知りたい”と思って、過去の動画を何時間も見あさって、徹底的に解釈するんですよね。シンクロ率を高めていくっていうか……。
するとアニメを作り終えるころには、もうそのキャラが大好きになってしまっている、という……もうなんか至福の時間ですよね(笑)。この感覚は手描きアニメだけでなく、絵師さんも同人マンガ家さんも同じだと思います。
それで作品を発表したらSNSでリアクションがあるわけです。その声がモチベーションになって、また創作しよう、と。それで、またホロメンの動画を見まくって、“今日も推しが尊い”ってなって、創作して……というサイクルで、どんどんホロライブ沼にハマっていくんですよ(笑)」
――(笑)。おもしろいです! 「ファンアートを作る」という行為は、マジでオタク化に一直線なわけですね。
「そうなんですよ。そのなかで、最初はholoXの戦隊モノ感が好きだったんですが、今は設定がブレちゃう部分とかも推せるようになりました。ちょっと”メタい”発言になるのですが“しっかり者なのに配信で失敗しちゃう”とか“清楚キャラなのに下ネタを言っちゃう”とか(笑)。配信者としての素が出ると“お、推せる!”って思いますね。
同じキャラクター化された個体でもアニメやマンガと違って、ときに予測不能なヒューマンエラーが起きるのは、Vtuberならではのおもしろみだと思います。何が起こるかわからないからこそ、毎日見ていても飽きない。いや本当におもしろいので、今後も僕たちの動画を通して、精いっぱい応援していきたいです。
今後は“手描きの枠を超えていきたい”と思っています。今は手描きアニメだけですが、ミュージックビデオの制作や、コミックマーケットなどへの出展を考えています。いろいろとチャレンジしながら、自分たちが得意なことを通して推していきたいですね」
文化系人間たちならわかる「同じクラスの仲よくなりたかった子」
インタビューにあたって、筆者もホロメンの配信を見た。「いやまさかハマらんやろ」と思っていたが、結果から申し上げると、いま私は数名のYouTubeメンバーシップに登録している。いやほんまに恐怖。怖いくらいおもしろい。
インタビュー中にこまいぬさんと「ホロメンは文化系の学生だった人が、当時友達になりたかった女子なんですよね」という話になった。彼女たちのトーク内容から何かしらの”オタクみ”を感じるのだ。「あれこの人、もしや陰キャ(同族)か……?」みたいな、謎の安心感がある。
「ボカロを聴きながら登下校し、休み時間はラノベを読んでたあの子」みたいな。「ニコ動ネタや東方ネタでニヤニヤしていたあの子」みたいな。なんか、配信から”そこはかとない陰キャのかほり”が漂ってくるのだ。これは以前の記事で、アキバのコンカフェを回ったときに感じた安心感に近い。【参考→「ネットとメイドカフェって似てる」100店舗以上回ったふゅーちゃーさんが語る“コンカフェ20年史”が面白すぎた】
そういう子が、頑張ってアイドルをしている。これはもう応援するしかなかろう。私も学生のころは文化系男子特有の「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」ゆえに、デュフデュフ唱えることしかできなかったが、大人になった今は微力ながら応援ができる。くそぅ。私に絵の才能がある世界線で、ホロライブに出会いたかった。ファンアートってすばらしいなぁ。本気でそう思いながら涙目でスーパーチャットを投げる日々を送っている。
ゲーム好きの方はもちろん、こまいぬさんのようにアニメ・マンガ・インターネットなどのオタク文化が好きな方は見るべきコンテンツだ。マジで推しが尊すぎて用法用量とか音速で無視してしまうほどおもしろいので、ぜひ扉を開いてほしい。
(取材・文/ジュウ・ショ、編集/FM中西)