想像してみてください。
あなたが国民的なタレントだったとして、ある日、自分の家に全然知らない若者が訪ねてきて、こんなことを言ったとしたら……。
「自分は商売を始めたいと思っていて、ちょっと相談したいことがあるので会いにきました。突然、訪ねてきてしまってすみません」
さて、あなたはどんな対応をしますか?
実はこれ、タレントの所ジョージさんが実際に体験した話です。
私は、所さんの飄々(ひょうひょう)とした生き方が好きで、所さんが落語家の林家正蔵さんに贈った「謎の贈り物」についてのエピソードを、以前紹介しました。
(所さんのエピソード第1弾はこちら→記事:所ジョージから落語家・林家正蔵へ、桐の箱に入った「謎の贈り物」とメッセージ)
今回は、所さんのエピソード第2弾。過去にテレビ番組で紹介されていた、突然、訪ねてきた若者への「神対応のエピソード」です。
ある日、『世田谷ベース』にひとりの若者が──
所ジョージさんといえば、車、バイク、ゴルフに模型、モデルガンと多趣味で知られ、その活動場所は『世田谷ベース』と呼ばれる自宅兼ガレージで有名です。
この世田谷ベースは、いわば「大人の秘密基地」のような場所。しかし、通常の「秘密基地」と違うところは、番地までもが一般に公開されていることです。
普通、タレントは自宅の場所を隠すもの。それなのに、この“開けっ広げ感”がいかにも所さんらしい。
普段は、この世田谷ベースで、車やバイクをカスタマイズしたりして楽しんでいる所さん。
ある日のこと、そこに突然、ひとりの若者が訪ねてきました。
この若者、実は自分でジーンズのブランドを立ち上げようと考えていて、「ジーンズといえば所さんだ!」と思い立ち突撃、訪問してきたのです。
公開されている住所の情報を頼りに、世田谷ベースにやってきてみると、中から所さんらしき鼻歌が聞こえてきます。そこで、勇気を出して塀の外から「こんにちは」と声をかけてみたところ、門が開き、ひょっこりと所さん本人が顔を出すではありませんか!
若者は「当たって砕けろ」という思いで、緊張しながら「自分はジーンズのブランドを立ち上げたいと考えていて、ここに来ました」と、突然の訪問理由を説明しました。
すると、所さんの口から、信じられない言葉が……。
突然の訪問者に“神対応”の理由
訪問してきた理由を聞いた所さんは、若者にこう言ったのです。
「むしろ、ありがとね」
「えっ?」となる若者。勝手に訪ねてきた自分に、お礼を言ってくれるなんて!
さらに、所さんは「ジーンズ、俺がはくよ」と、若者が持参したジーンズをはいてくれました。
そして、こう言ってくれたのです。
「(商売を始めるなら)写真も撮っておいたほうがいいんじゃない?」
なんとその日、初めて会う若者とツーショット写真まで!
まさに神対応です。
若者はすっかり感動。所さんとのツーショット写真のアピール効果は絶大で、その後、無事に自分のジーンズブランドを立ち上げることができたといいます。
初めてこの話を聞いたとき、私は「見ず知らずの相手に対してこんな対応をしていて、所さん、大丈夫だろうか? よからぬトラブルに巻き込まれてしまうのではないだろうか?」と、余計な心配をしました。
でも、自分の経験とも照らし合わせてよくよく考えると、所さんの行動に合点(がてん)がいきました。
おそらく所さんは、この若者をひと目見て、悪人ではないと見抜いたのではないかと思うのです。
私の知人の起業家も「自分の最大の強みは、人を見る目があること」とおっしゃっていました。その方によると「初めて会う相手でも、ひと目見ればだいたいどんな人間かわかる。1分話せば、その第一印象は確信に変わる」とのことで、第一印象が間違っていることは「ほとんどない」のだそうです。
たぶん所さんも、この若者の態度や表情から「この子は純粋にジーンズが好きなのだ」と見抜いたのではないでしょうか。
だから「(世の中にたくさんいる“ジーンズ好き有名人”の中から、自分を選んで頼ってきてくれて)むしろ、ありがとね」という言葉を伝え、若者の商売の助けになればと考えてツーショット写真を快く撮らせてあげたのではないかと思うのです。
私も、会社にいたころはあまり感じませんでしたが、フリーランスになってからは、自分のことを信用し、頼りにしてくれる人に対して感謝の気持ちを感じるようになりました。
そうなってみてさらに、この所さんの“神対応”の理由が腑(ふ)に落ちたのです。
(文/西沢泰生)