撮影が始まるほんの数秒前に、ごく自然に身体を動かした高橋文哉さん。そのまま流れるように撮影がスタートし、カメラマンを翻弄(ほんろう)するように表情やしぐさを変えていきます。
そのナチュラルさと天真らんまんさの中に、キリッとした大人っぽさが漂う──。ひと言では言い表せない魅力を目にしたスタッフからは、思わずため息が漏れ出たほど。
インタビュー後編では、そんな吸い込まれそうな魅力を放つ高橋さんに、仕事への向き合い方、そしてプライベート、俳優としての“いま”を語っていただきました。
(インタビュー前編では、現在出演中のテレビドラマ『女神の教室~リーガル青春白書~』で演じる真中信太郎を演じるにあたり、初の役作りへの試みや、高橋さんと信太郎の共通点をお伺いしています→記事:高橋文哉と『女神の教室』真中信太郎の共通点“誰しもが持つ、理想像と二面性”)
「自分に追いつくのに精いっぱい」高橋さんの”いま”
──インタビュー前編では、真中信太郎役を演じ「理解できるところが多い」とおっしゃっていました。役とご自身を重ねて、どんなことを考えましたか?
「真中は、自分自身で変につくった“自分の理想像”に追いつくために必死で、自分を切り崩していくのですが、それは誰しも持っている部分だと思います。他人からの言葉が嬉しくもあり、プレッシャーになって悩むこともある。僕は、自分に追いつくのが精いっぱいなんです。
それは、自分自身のすべてを届けていく仕事なので、僕がつくった理想像というよりは、“みなさんにどういうものを届けられるか、みなさんが求めているものを届けられなくなったら嫌だな”っていう気持ちが、いつもあるんです。
みなさんにつくっていただいてる理想像(期待)や、みなさんが求めてるものを超えていけるように、そこに追いつくのに必死という感覚です。それこそ、家で台本を読んだり、役づくりで筋トレをしたりするのも、全部みなさんに届くと思って、求めていただいているものを届けるためにやる努力です。
仕事というよりは、“自分の求められているものを、まっすぐに届けられるように”と、準備をしています」
──演技をはじめ、仕事で悩んだらどう解決しますか?
「演技の場合は、“いまこの気持ちで現場に行ったら、役に影響が出るな”と思うと、もう悩まなくなるんです。自分が悩んで学んだことは、ノートに書き留めたり、台本に書いたりっていうのを、デビューのときから続けています。
基本的に人に相談することはあまりしないです。相談するっていうよりは、一緒に遊んで楽しんだ流れで、ぽろっとこぼす程度。あとは、寝ますね(笑)」
──芸能活動でターニングポイントになった出来事はどんなことですか?
「デビューですね。この世界を知らなかった人間が、次の日から芸能界で仕事をする。もう……スタート地点から毎日が、ターニングポイントという感覚です。『仮面ライダーゼロワン』がデビュー作ということもあって、目まぐるしい毎日に追いつくのに必死でした。
誰もが知る作品を自分が演じる、という事実を理解するのにも時間がかかりましたし。でも、ここで学んだことは、大小問わず、すべていまに生きていると思います」
──ドラマ出演が続いていますが、仕事とプライベートの切り替えで意識的にしていることはありますか?
「本当にありがたいことに、作品中じゃないことがまだあんまりなくて。でも、今後作品に出ていないタイミングが絶対に来る。その日が来たときに“生きていけるのかな?”とは思います。“やることがない”って思っちゃうかもしれません(笑)。
休みの日はもちろん寝たり、やりたいことやったりもしますけど、台本を触らない日はないです。デビューしてから4年間、正月すらも台本を実家に持って帰って、正月明けに撮るシーンをチェックして。
自分を安心させる安定剤みたいなものなので。そういう生活を送ってきたので、オン・オフというものはなくて、撮影現場と家(というカテゴリー)でしか、分けていないです」
ターニングポイントになったのはあの作品
──今後やってみたいことはありますか?
「スカイダイビングです。ちょうど昨日YouTubeで見たんですけど、これをやったら人生が変わりそうだなと思いました(笑)。いまはだいぶ治ってきたのですが、高いところが怖くて、ジェットコースターも苦手。速いのが怖いのではなく、壊れるかもしれないって考えてしまって(笑)。信じるべきものを信じられないというか。
そんなとき、スカイダイビングをしている人を見て、“なんでこの人、怖くないんだろう?”と。
パラシュートが開かなかったら終わりじゃないですか。そういう経験を一回やってみたい。スカイダイビングをきっかけに、物怖じしなくなるかはわからないですけど、普段は絶対にやらないことに挑戦してみたいです」
──今後出てみたい作品のジャンルはありますか?
「まだ自分にイメージがないだろうな、という理由で、コメディに挑戦してみたいです。でも素の自分か役か、わかんなくなっちゃいそうな気もするので、それは大変そうだな(笑)。役の幅で暴れるのって、めちゃめちゃ大変で難しいので」
──来たものに常に応える、そして自分を超えていきたいという感じが伝わってきました。
「そうですね。だから“すげー!”って思う自分に、なり続けたいんです。仕事をいただいてる以上、やっぱりそこに添う人間でなければならないと、都度思います。それこそ『仮面ライダーゼロワン』に出演したおかげです。
“仮面ライダーとして、子どもに胸を張って自己紹介できるか?”と、考えながら1年間生きてたので。そういう経験が、今に響いていると思います」
世間の“推し”になるってどんな気持ち?
──この4年間で子どもから大人まで、世代を問わず高橋さんのファンが増えたと思います。誰かの“推し”になっている今、どんなお気持ちですか?
「わからないです(笑)。考えたことはあるんですけど……。僕がまだこの仕事に就いていないときは、“芸能人や有名人って楽しいんだろうな”“どんな思いで生きてるんだろう?”って、ずっと思っていたんです。テレビの中で踊っている人たちを見て、“カッコいい〜”ってなりながら。
それがいざ、その立場になると、自分が今どの立ち位置にいるのかも、どのような状況に置かれているかも理解できないんです」
──ええー? マネージャーさんも教えてくれない(笑)?!
「いやいや(笑)。もちろん、だんだんといろいろなところで声をかけてもらうようになって、感じるタイミングもありますけど……。それはもちろん嬉しいですし、(世の中への認知度の)浸透具合もわかるんですけど、まだどこかつかめていない。
ただ、周囲から反響を聞いて“すごー!”って思います(笑)。何かの作品をきっかけにファンになってくれるのって、たまたまだったり、タイミングもあることだから“すごい縁だな”と思いますし、テレビを見ていて予告に自分が出てくると、“あー!”って思います(笑)」
──自分でも驚くのですね!
「自分や家族が追いつけない感覚はあります。こういう感情を言葉にできるタイミングがなかったので、いつかまとめて言葉にできたら、インタビューで言おうって思ってたんです(笑)。
もちろん理解もしていますし責任も感じているんですけど、客観的に見たときに、自身がどんなポジションにいるのか、みなさんから見た僕の現在地のイメージについては、自分では想像できていないんです」
──以前仕事をご一緒させていただいた編集部スタッフが、高橋さんは自分の言葉を持っていると言っていました。同じ質問を複数の媒体から受けても、そのときに自分が感じた言葉できちんと相手に伝えてくれる方だと。
「すごく嬉しいですね。わりと気分屋なので、同じ質問を毎日されたら300……、200回ぐらいは違うことを言っているような人間です(笑)。その瞬間に思うことってあるじゃないですか。”昨日オムライス食べたいって言って、じゃあ本当に今日食べるか”って言ったら、食べない。そんな感じです。目標も日々変わるし。
デビュー当時は、自分が一度言ったことに合わせにいってたんですよ。でもそれがすごく苦しくて。“なんでだろう?”と考えてみたら、“いま思っていることと違うからか!”とわかって。だから僕は、すごく変化する人間です。全部その都度に思ったことしか言わないです(笑)」
──だからもっと知りたい!って思うんですね。追いかけたくなります。
「あはは。だから、本当にどれが正解かわからない人も、たくさんいると思うんですよね。そこは申し訳ない……(笑)」
(取材・文/柚月裕実、編集/本間美帆)
【PROFILE】
高橋文哉(たかはし・ふみや) 2001年生まれ、埼玉県出身。2019年特撮テレビドラマ『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系)で、飛電或人/仮面ライダーゼロワン役を演じる。その後、テレビドラマ『先生を消す方程式。』(テレビ朝日系)、『着飾る恋には理由があって』(TBS系)、『最愛』(TBS系)、『うきわ ―友達以上、不倫未満―』(テレビ東京系)、『悪女 (わる) ~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』(日本テレビ系)など、数々の作品に出演。2022年には『君の花になる』(TBS系)で佐神弾役を好演。劇中のボーイズグループ「8LOOM」のリーダーでセンターを務めた。現在放映中のテレビドラマ『女神(テミス)の教室〜リーガル青春白書〜』(フジテレビ系)に真中信太郎役として出演中。Twitter→@fumiya_0_3_1_2、Instagram→@fumiya_0_3_1_2
《映画情報》
『交換ウソ日記』
□詳細:
公開:2023年7月7日(金)
原作: 櫻いいよ「交換ウソ日記」(スターツ出版文庫)
キャスト: 高橋文哉、桜田ひより
監督: 竹村謙太郎
脚本:吉川菜美
製作: 「交換ウソ日記」製作委員会
配給:松竹株式会社
(C)2023「交換ウソ日記」製作委員会