あなたは、ある日の朝、自分1人だけ会議室に呼び出されて、突然、部署の異動や転勤の辞令を受けたという経験はありますか?
それが、まったく予想していなかった内容だと一瞬、頭が真っ白になって、否定的に考えてしまうものです。
今回は、そんな、会社の上司からいきなり呼び出されて衝撃的な言葉をもらい、人生が変わった人たちの話。
辞令は、ある日の朝、突然やってくる!
まず、私自身の体験です。
私の場合は、会社で広報の仕事(と言っても社内報が主な仕事でしたが)をしていたある日の朝。突然、課長に「ちょっといいかな」と声をかけられたことがあります。
2人きりの会議室で告げられたのは、「社長秘書を兼任してもらえないかな?」という驚きの言葉。
まさに青天の霹靂(へきれき)。「辞令は突然やってくる」です。
はじめは脳内がフリーズし、次に、これは夢かと思い、最後に「できるだろうか」という不安が襲ってきました。
しかし、結果としては社長秘書になったことで、「作業が『超前倒し』になる」など仕事への取り組み方が大きく変化しました。
その経験はフリーランスになった今でも生きています。あの日の上司からのひと言が、ある意味、大きな転機になったのです。
同じように、ある日の朝、会議室に呼び出されて告げられた上司からのひと言で人生が変わったのが、お笑いトリオ『ジャングルポケット』の斉藤慎二さんです。
目指していた役者の道をあきらめて、会社員として働いていたある日のこと。斉藤さんは、上司であるベテラン社員の女性から、たった1人、会議室に呼び出されて、なんと、こう言われたのです。
「あなた、この仕事、面白くないでしょ」
そして、そのあとに上司が続けたひと言が、斉藤さんの人生を変えました。
上司から呼び出された次の日に辞表を提出
上司は、続けてこう言ったのです。
「あなたは、もともと役者を目指していたんだよね。だったら吉本にいったら?」
「えっ? 吉本って、あのお笑いの吉本興業ですか?」
「そう。その吉本。まず、お笑い芸人になって名前と顔を売って、それを踏み台にして役者になればいいんじゃない? そういう人、いっぱいいるでしょ。今から劇団に入っても、年齢的にキツイでしょ。だから、そっちにいけば」
上司は、なぜか軽い感じでそう言ってきたそうですが、言われた斉藤さんは思いました。
「その手があったか!」
さっそく、その日のうちにオーディションに関する雑誌を購入。見れば、吉本興業の養成所への申し込みの、締め切り2日前ではありませんか。
これはもう運命だと思った斉藤さんは、翌日には吉本興業へ願書を送り、退職願を手にして出社しました。吉本入りを勧めてくれた上司の方は、その日は偶然、お休みだったものの、退職願を部長に提出して退社したのです。
すると、その翌日、上司の女性から電話がかかってきました。
「あんた、何考えてんの!」
「えっ? 言われたとおり、吉本に入って、お笑い芸人を踏み台にして役者を目指します。お笑いのことはよくわかんないですけど……」
「バカね! そんなの冗談に決まってるでしょ!」
そんなことを言われても、すでに吉本に願書を送っているし、退職願も提出しています。そして何より、すっかりその気になっていた斉藤さんは、結局そのまま会社をやめてしまったのでした。
その後、吉本に入った斉藤さんは『ジャングルポケット』を結成。
人気者となった現在では、本当に、個性派の役者としてドラマに出演することもあり、声優の仕事なども入るようになりました。図らずも、元上司の冗談のとおりになったのです。
実は、この話には、ちょっとした続きがあります。
後日、“この人との出会いが人生の転機となった”というテーマの番組に出演することになった斉藤さん。番組スタッフが調べたところ、上司の方はすでにお亡くなりになっていたのですが、その会社にくる前は、芸能プロダクションの社長をやっていたことがわかったのです。会社員になってからはダントツの営業成績だったことも判明しました。
こうなると、あの日の言葉は、あながち冗談ではなく、斉藤さんのお笑い芸人としての資質を見抜いたうえで、冗談めかして吉本入りをすすめてくれたのかもしれないのです。そのことを知り、斉藤さんは改めて、その上司に感謝したといいます。
上司から受けた言葉を、どうとらえるかが大事
斉藤さんの場合は、私とは異なり、辞令の打診ではありませんでしたが、「ある日の朝、上司に会議室に呼び出されて告げられたひと言」で、人生が変わった点は同じ。
さらにもう1人、私の知人にも、ずっと総務で働いていたのに、会社の業績不振によって、いきなり営業部門への異動を命じられ、心機一転、ものすごく売れる営業マンになった人がいます。
総務時代に、周りへの気配りをしっかり身につけていて、社内にも「困ったときには頼ってね」と言ってくれる人脈を築いていたことから、動きが早くて「お客様のかゆいところに手が届く営業マン」に大変身を遂げたのです。
このように、ある日の朝に呼び出されて、突然、上司から告げられたひと言が、単なる仕事の変化を超えて、人生の転機になるということ。実は、わりとよくあるのです。
ちなみに、「私なんかに務まるの?」と思った社長秘書の仕事は、とんでもなく忙しかったものの、やりがいがあって、会社からの抜てきに感謝する日々でした。
あなたも、もし、ある日の朝、上司から「青天の霹靂」のひと言をもらったら……。それが、どんなに意外な言葉だとしても、頭から否定して断ってしまうのは、ちょっと早計かもしれません。
もしかしたら上司は、あなた自身が気づいていない、あなたの資質に気がついて、すすめてくれているのかもしれないのです。ですから、「もしかすると、これは人生の転機かも」なんて考えてみてもよいと思います。
(文/西沢泰生)