「台風や梅雨時になると頭痛が悪化、寝込んでしまう」「雨の日は布団から出られない。無理に出ても、身体がだるくて仕事にならない」「天気が悪くなると持病の首こり、肩こりが悪化する」etc.
昨今、こんなことを訴える女性が増えているという。天候が悪化すると、その直前や直後を中心に、前述のような症状が起こるというのだ。敏感な人ともなると、雲ひとつない晴天でも、「(体調が悪くなったので)これから天気が崩れます」と予言、みごと的中させるばかりか、今年1月のトンガでの海底火山噴火に際しては、押し寄せた気圧変化の波を8000キロ離れたこの日本で感じ取り、体調を悪化させた人までいるというから驚くではないか。
女性を悩ます、正式病名なしの不思議な症状
はるか彼方の火山の噴火でさえ体調不調の原因となってしまう敏感さに困り果て、病院でさまざまな検査を受けたものの原因は判明せず、医師から「ストレスですね」「不定愁訴でしょう」「気にしないことですよ」で片づけられてしまうケースも少なくない。
「確かに具合が悪いのに、医療機関で検査しても原因がどこにあるのか一向にわからない。そうした人たちは、気象病の可能性がありますね」
こう語るのは、この症状の臨床治療の第一人者で、せたがや内科・神経内科クリニック院長の久手堅司(くでけん・つかさ)先生だ。
「気象病・天気病外来」を開設し、5000人以上の患者を診(み)てきた久手堅先生によると、気象病とは気象の変化によって起こる症状のこと。つまりは気圧や湿度の変化、寒暖差などによって起きる不調で、症状は頭痛を筆頭に、倦怠感やめまい、首・肩こり、むくみなど多岐にわたる。
特に気圧の変化によって症状が現れるため、夏直前の梅雨時や、秋の到来を告げる台風シーズンなど季節の変わり目に起こりやすいと久手堅先生。そして天気が回復し、気圧が戻るとケロリと治ってしまうなど、症状の変化が短時間で起こることが特徴だ。
症状としては、「頭痛を訴える人が圧倒的に多く、全体の8割を超えています」(久手堅先生)。そして、患者の7~8割が女性と、圧倒的に女性に多いという。
上記以外の気象病の代表的な症状については、久手堅先生の著書『気象病ハンドブック』(誠文堂新光社刊)にも掲載されている「気象病チェックリスト」を参考にしてほしい。
「気象病チェックリスト」 あなたの症状に合うものにチェックしてみて!
□ (1)天候が悪いときに体調が悪い。
□ (2)雨が降る前や天候が悪化する前に、なんとなく天気の変化が予測できる。
□ (3)頭痛持ち(緊張型頭痛・偏頭痛など)である。
□ (4)首こり、肩こりがある。首、肩の持病や不調がある。
□ (5)めまいや耳鳴りが起こりやすい。
□ (6)倦怠感が強い。起床時、日中も常に身体がだるい。
□ (7)低血圧ぎみである。血圧が低くなると体調不良が出る。
□ (8)精神的な不調(不安障害・適応障害・抑うつ・統合失調症など)がある。
□ (9)姿勢が悪い。猫背や反り腰がある。
□ (10)古傷があり、ときおり痛みが出る。
□ (11)原因不明の動悸や消化器の不調がある。
□ (12)パソコンやスマホの使用時間が長い(平均4時間/日以上)。
□ (13)乗り物酔いをすることが多い。
□ (14)運動習慣がなく、ストレッチや柔軟体操をすることが少ない。
□ (15)歯の食いしばりや歯ぎしり、歯科の治療歴が多い。
□ (16)温度設定が一定の場所(夏は冷房、冬は暖房)にいることが多い。
□ (17)日常的に、主にメンタル的なストレスを感じることが多い。
□ (18)更年期障害ではないかと考えることがある。
●判定結果
<判定1>
(1)と(2)が該当する人は、気象病である確率が非常に高い。どちらか1つでも当てはまると、気象病の可能性は約80%!
<判定2>
(1)(2)以外の項目は、該当する数が多いほど気象病になるリスクが高まる。特に(3)~(11)は気象病の典型的な症状。(3)~(18)のうち5項目以上に当てはまると、気象病の不調が起きやすい。ただし、該当項目が多くても、必ずしも気象病であるというわけではない。
気圧が下がると不調が起きる理由
では、なぜ気象の変化がこうした症状を引き起こすのだろうか?
原因のひとつである気圧とは地球を覆っている大気の圧力のことで、平地では通常1気圧(1013ヘクトパスカル)の気圧がかかっている。私たちの身体には、全身に1気圧の圧力がかかっているのだ。身体はこれと同じ圧力で大気を押し返すことでバランスを保っているが、天候が悪化して気圧が低くなると、鼓膜から奥の中耳と、さらに奥にある内耳が膨張する、と久手堅先生。
「飛行機に乗ったら、手に持っていたポテトチップスの袋がパンパンにふくらんだ。そんな経験はありませんか? 気圧が低下すると、耳の中でもこれと同じことが起きるんです。感覚神経である中耳と内耳がふくらんで耳や鼓膜を刺激し、頭痛やめまいを引き起こします。同時に身体の中の水分も膨張して、むくみなどの不調が起きます」(久手堅先生)
「さらに、耳の神経から脳、脳から自律神経へもつながっています。自律神経とは24時間365日、私たちの意思とは無関係に身体の状態を維持するために働いている神経のこと。交感神経と副交感神経の2つがあって、前者は身体と心を興奮させる働きを、後者が落ち着かせる役割を担っています。走ると心拍数や血圧が上がって汗をかきますが、これは交感神経が頑張ってくれているから。走るのをやめると心拍数や血圧が下がり、汗も引いていきますが、これは副交感神経の働きです。
急に暑くなると、交感神経は身体に汗をかかせて体温を下げなければなりませんし、天候が悪化して気圧が低くなれば、副交感神経が働いて身体をお休みモードにしてくれます。このように自律神経は気候に合わせて働いていますから、気象病とも深い関係があるのです」(久手堅先生)
やっかいなのは、症状が多岐にわたるため診断がつきにくいという点だ。加えて天気がよくなればケロリと回復するなど、具合が目まぐるしく変化すれば、症状も軽度から重度までさまざま。そして何よりも極めつけは、「気象病」がまだ、正式な病気だとされていない点にある。
「気象病はまだ“あだ名”のようなもので、正式病名ではないんです。ですから病院で、“私、気象病かもしれません”と訴えても、医師に“はぁ!? そんな病名、ありませんよ”と言われてしまうことが多い。実際に苦しんでいる人がいるのに、なかなか治療に結びつかない理由でもあるんです」(久手堅先生)
気象病と季節病の違いって?
正式病名ではないものの、気象の変化とともに体調の変化を訴える患者が増えているのは事実。久手堅先生の気象病・天気病外来も、台風などが近づくと来院が目に見えて増えると語る。
ただ、気象病と同じように気候で症状が出る「季節病」と呼ばれるものがあるが、両者はまったく異なることは覚えておきたい。
「季節病は、季節によって起こるものが決まっています。春秋だったら花粉症などのアレルギー、冬だったらヒートショック、夏ならば熱中症などですね。ところが気象病は気象の変化によって起こりますから、季節にかかわらず起こります。そこがだいぶ違っています」(久手堅先生)
また症状を訴える人の7~8割が女性と、女性に多い理由については、ホルモンの影響が強いという。
「女性には生理周期があり、生理前と後では女性ホルモンの変動が大きいですよね。ホルモンの変動による不調は気圧による不調ともリンクして、症状をさらに強くします。これが、特にホルモンバランスが乱れやすい更年期の女性に気象病が起こりやすい理由です。さらに女性に多い貧血が原因で、頭痛やめまい、首・肩こり、全身の倦怠感などといったさまざまな不調を引き起こすことがあります」(久手堅先生)
ではこうした症状に心当たりがあったり、「気象病チェックリスト」で当てはまる項目が多くて悩んでいる場合、どの診療科に行き、どうしたらいいのか?
#2(【気象病#2】頭痛やめまいに悩み、「気象病かも」と思ったらどうすればいい? 予防・改善法を医師が伝授 11月30日12:00配信)では、こうした治療法や予防法について、久手堅先生に詳しく聞いていこう──。
(取材・文/千羽ひとみ)
〈PROFILE〉
久手堅司先生
せたがや内科・神経内科クリニック院長。医学博士。気圧予報・体調管理アプリ「頭痛ーる」監修医師。「自律神経失調症外来」などの特殊外来を立ち上げ、「気象病・天気病外来」などの特殊外来では、これまで5000名以上を診察。著書に『気象病ハンドブック』(誠文堂新光社)、『最高のパフォーマンスを引き出す自律神経の整え方』(クロスメディア・パブリッシング)、『毎日がラクになる!自律神経が整う本』(宝島社)など。