TBSラジオ『JUNK』(月〜金曜・深夜1:00〜3:00)が20周年を迎えたのを機に、番組の統括プロデューサー・宮嵜守史(みやざき・もりふみ)さんがラジオ人生を振り返るエッセイ本『ラジオじゃないと届かない』(ポプラ社)を刊行。『JUNK』のお笑い芸人ら人気パーソナリティとの対談は抱腹絶倒、ラジオファンなら涙がほろりとするエピソードも。
宮嵜さんに、昨今のラジオ事情とパーソナリティとの率直な関係、リスナーに届くラジオのあり方について聞いてみた。
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──ラジコのタイムフリーが一般的になる中、働き方の変化もあり、ラジオの聴かれ方やリスナーとの関係はどう変化していますか?
「僕が担当している深夜ラジオに関しては、ラジコだとリアルタイムよりタイムフリーで聴かれる方が圧倒的に多いです。放送の翌朝、通勤通学時と、週末にまとめて聴く2つのパターンが多いですね」
メールやSNS、リアルタイムでコミュニケーションがとれる時代。
「いろんな関係性が生まれたのかな。すごく身近に感じるリスナーもいれば、変わらず“聴き専”のリスナーもいるので、関係性が変化したというより、関係性のパターンが増えたんでしょうね。
僕がラジオを聴いていた高校生のころは、聴きたい番組の時間にダイヤルを合わせていた。つまり放送局が“送り手”だとしたら、視聴者やリスナーは“受け手”で、タイムテーブルどおりに番組を“聴かされて”いたんです。でも今は好きなときに好きなものを聴ける環境にあるので、リスナーは受け手というより“選び手”になっているんですよね」
──YouTubeや音声アプリ、ポッドキャストなどメディアがどんどん増えて細分化され、コンテンツも膨(ふく)れ上がっている状況。そんな中でラジオの存在意義とは?
「TBSラジオで言うとコンテンツの内容は、ラジオの王道である生ワイドから、『工具大好き』のようなニッチな番組まで多岐にわたり、しかもそのほとんどが後からでも聴けるようになっている。先ほど述べた利便性の高い聴取環境になっているので、リスナーは選び放題、聴き放題です。そんな中でラジオの存在意義を掘り下げて考えると、ひとつは緊急時に正確な情報を肉声で届けられるという点だと思うんです」
知っている人の声で、確かな情報を届けられるという強み。
「放送局は国から免許を与えられて運営しているため、情報の正確性は確実に担保されています。例えば大地震が起きたとき、個人の生配信やSNSで“〇〇で地震です。震度〇らしいです”という不確かな情報が流れますが、放送局である以上、正確な情報を伝えなければなりません。究極、それが地上波のラジオの存在意義なのかな。しかもいつも聴いている人の声なら緊急時でも信頼できるし、安心しますよね。もちろん緊急時以外でもですが」
──私たちを悩ませているコンプライアンス問題。自身がかかわった番組の中で、現代だったら絶対にできないような企画やエピソードは?
「めちゃくちゃあります。やっぱり下ネタ系ですかね。僕が初めて深夜番組を担当した『極楽とんぼの吠え魂』では、グラビアアイドル3人がカップラーメンを啜(すす)ってセクシーさを競うという企画がありました。
『おぎやはぎのメガネびいき』では、小木(博明)さんとセクシー女優があえぎ声を競う企画。格闘技のような選手紹介のナレーションから入って、2人があえぎ始めるんですけど、今やったらおもしろく聴ける人は少ないでしょうね」
ナイナイのANNに聴取率で勝ったのが記念に
以前、リスナーの評判がすこぶるよかった深夜番組のノリは、今では通用しない。
「コンプライアンス時代ということもあるし、おぎやはぎさんの年齢やキャリアを考えてもミスマッチですよね。下ネタ企画は当時は面白かったのですが、自然に淘汰(とうた)されて……」
──『JUNK』20周年を振り返って、いちばん手ごたえのあった神回とは?
「やっぱり『ナインティナインのオールナイトニッポン』を抜いて聴取率1位になった回ですよね。当時、僕は木曜日の『おぎやはぎのメガネびいき』のディレクターで、聴取率の結果が木曜日だけ勝てなかったんです。なぜなら裏がナインティナインさんだったから」
オールナイトニッポンには勝てなくて当たり前、みたいな雰囲気があった。
「ある回で『魔法少女まどか☆マギカ』(以下、『まどマギ』)が10代の子に大人気だというメールが来て、“何だそのアニメ?”と矢作(兼)さんがDVDを見始めたら意外にも大ハマり。ところが矢作さんが面白さを一生懸命に伝えようとするんですが、伝え方が下手で(笑)。確かにストーリーは複雑だし、特殊な世界観なんですけどね。そんな矢作さんの拙い説明がウケて『まどマギ』への熱い思いがリスナーに伝わったんです。
TBSの深夜ラジオでおぎやはぎが俺たちの大好きな『まどマギ』を語ってるらしいぞ、とアニメファンがTwitterで拡散。そのうちノンリスナーにもどんどん波及していって。その流れから、アニメの制作会社にご協力いただいてパロディにしたのが、魔法少女の小木さんが、荒れた世界で苦悩する『魔法小木おぎか☆オギダ』です。ラストにちゃんとオチをつけて大盛り上がりでした。
聴取率の結果で『JUNK』の木曜日が初めて1位を取ったので、やっと勝てたという記念回になりました」
伊集院光、山里亮太、爆笑問題はここがスゴい
──JUNK誕生から20周年、長寿番組になった秘訣とは?
「パーソナリティが100%の力を出せる状況を常に考えることです。われわれ裏方が変な制約をつけずに、いちばんパワーを出せる環境を整えることだと思います。
ただ、“さあ今日も2時間勝手にしゃべってください” なんて気持ちは毛頭ないんです。僕は常にどうしたらパーソナリティが面白く映るか、番組が面白く聴かれるかを念頭に置いて、パーソナリティと対峙(たいじ)しています。“宮嵜だったら何でも言うとおりに動いてくれる”ということではないんです。
僕の姿勢は、パーソナリティ全員がわかっていると思う。だから、疑問に感じたことは遠慮なく言ってくれるし、僕も要望はきちんと伝えるし。柔軟にキャッチボールするのは大事なことだと思っています」
──宮嵜さんから見たパーソナリティの素顔は?
「本当に全員が個性的。
伊集院(光)さんは超人的な360度の視野を持ちながら、一瞬で物事を立体的に考えられる人で、どこまでも尊敬できます。
山里(亮太)さんはガラスのハートの持ち主。ほんの小さなことにも悲しんだり憤る人で、そんな面をリスナーに見守られているという新しいパーソナリティの形ですよね。
爆笑問題の田中(裕二)さんは果てしなく平和な人で安心できます。太田(光)さんは底抜けに優しくて、あらゆる立場を理解しようとする姿勢でいる人です。
以前、ナインティナイン岡村(隆史)さんのラジオでの問題発言に対して、太田さんは『爆笑問題カーボーイ』で触れたとき、若者の貧困問題、性差別、風俗業界で働く人、深夜ラジオリスナーなどいろんな人の立場に寄り添って約40分間ノンストップで持論を展開しました。あのときの太田さんの話こそ、ラジオじゃなきゃ届かない話、ラジオで届けたい想いなんだと」
ラジオじゃないと届かない、パーソナリティの個性
──宮嵜さんの考えるラジオのあり方とは?
「僕は本音だけがリスナーに届くとは思っていないんです。ラジオでは素でいることが大事。正直に素でマイクの前に立てるかどうかなんです。つまり自分にもリスナーにもウソはつかないほうがいい。自分を取りつくろい、自分の心にも化粧をして出るような人は、なかなかリスナーとの信頼関係を構築しにくいんじゃないかな」
──テレビでは規制があり、活字だと温度感が伝わらない。ラジオじゃないと届かないものって?
「ラジオじゃないと届かないもの“も”あるということですよね。他メディアとの優劣ではなく。ラジオで言うとパーソナリティの個性のうえに“伝えたい、聴いてほしい”という熱量がないと届かないものだし、そういう気持ちや思いを肉声で届けられることがラジオなんだと思います。
で、それが一方通行で終わらず同時にリスナーと一緒に熱量を上げて信頼関係を築くことも大事。われわれにおいては、最終的には心を込めて番組を作ることなんじゃないかなって思いますね」
(取材・文/浦上優)
《PROFILE》
宮嵜守史(みやざき・もりふみ) 1976年生まれ。群馬県草津町出身。ラジオディレクター/プロデューサー。TBSグロウディア イベントラジオ事業本部 ラジオ制作部所属。TBSラジオ『JUNK』統括プロデューサー。担当番組『伊集院光 深夜の馬鹿力』『爆笑問題カーボーイ』『山里亮太の不毛な議論』『おぎやはぎのメガネびいき』『バナナマンのバナナムーンGOLD』『アルコ&ピース D.C.GARAGE』『ハライチのターン!』『マイナビLaughter Night』『俺達には土曜日しかない』。YouTubeチャンネル『矢作とアイクの英会話』『岩場の女』ディレクター。