工事再開は諦めてほしい

 問題は恐怖心にとどまらない。トンネル工事に近い一部エリアは地盤を固める必要があるとして、対象となる住宅は取り壊して地盤を補修し、補修後に自宅再建して住民に戻ってもらうといった「仮移転」を提案しているからだ。

 NEXCO東日本によると対象は約30戸。仮移転に伴う引っ越し費用や仮移転中の家賃、自宅再建費用などはNEXCO側が負担することになりそうだが、工期は2年程度かかるとみられており、その間の対象住民の生活は大きく変わる。愛着ある自宅をいったん壊されるおそれがあるほか、引っ越しを繰り返す負担も大きい。土地・家屋の買い取りを希望する住民の相談には応じるというから、戻ってきたときに、もとの地域コミュニティーが維持されている保証もない。

 陥没から1年を迎えようとしてもなお、住民の苦悩は解消されるどころか深まっていた。

 冒頭の女性住民は仮移転対象エリアに居住しており、どうしたものかと決めかねている。

「仮移転交渉は個別に始まっており、この土地に戻ってこないと決めた人もいます。対象住民だけ集めて合同説明会を開いてほしいと要望しているんですが、個別交渉が進められるばかりで、いつごろ自宅に戻れるかなど全体像が見えてこない。例えば家は取り壊さなければならないとして、育ててきた庭木はどうなるのか。先行きが見えない中で、ものすごく大きな人生の転換を迫られている感じです」(同女性)

 全体像が見えないゆえに、子どもの転校や進学などで思い悩む住民もいるという。

 高齢の母親を介護する50代男性は「そんな簡単に仮移転などできない」と話す。

「介護しながら移転するのは難しい。それに地盤補修をしたとしても、トンネル工事を再開したらまた陥没が起きるのではないか。工事再開は諦めてほしい。そもそもこれだけの事故を起こしながらNEXCO東日本の社長は辞任もせず、何の責任も取っていないのがおかしい。同社の社員にそう言っても黙っちゃうだけ。都合の悪いことにはダンマリで、トンネル工事をここで中止するという選択肢には触れようとしない」(同男性)

周辺エリアにはNEXCO東日本による掲示がずらり

 別の50代男性はこう話す。

「まず仮住まいに引っ越し、また戻ってくるために2度も引っ越すというのは現実的ではない。地盤を強固にするために薬剤を使うならば、その人体に与える影響はどうなのか。大規模事業のせいかNEXCO側の立場から物事が進んでいるが、私たちはここで暮らしているわけだから、住民の立場で物事を考えてほしい」

 悩まされているのは仮移転の対象世帯だけではない。対象エリア近くに住む30代女性は自宅にヒビが入って傾き、ドアや窓がゆがんでしまったという。

「立ち入り調査で自宅損壊はすべてトンネル工事によるものと認定されました。それでもうちは仮移転対象外なんです。地盤はしっかり固めてほしい。NEXCO側とは話し合いを持ってこちらの要望を伝えていますが、3か月たっても返答がありません。すみやかにしっかりとした回答をしてほしいです」(同女性)