先の見えない陥没事故の着地点
現地取材すると、NEXCO東日本に対する不信感が想像以上に広がっていることがわかった。
同社に話を聞いた。
まず仮移転や買い取りの対象世帯はどのように線引きしたのか。
「陥没の原因究明のために地盤調査やトンネル坑内からの調査を実施し、地盤に緩みが生じているのを確認した世帯を対象としています」(同社の広報担当者)
つまり、対象世帯と自宅の近い住民が仮移転を希望したとしても、基本的には対象外になるということ。
では、対象世帯で仮移転に応じるとして、地盤補修工事のためには必ず自宅を取り壊したり、庭木などを取り除かなければならないのか。
「地盤補修については、住民のみなさまのご意向も踏まえて具体的な方法を検討していくところです。補修方法によっては住宅を取り壊させていただき更地にしたうえで、地盤補修したのちに建物を再建させていただくかたちになるかもしれません。最終的にどのような補修方法をとるかによるため、明確にすべて更地にしてしまうかどうかのご回答はできません」(同担当者)
仮移転全体のスケジュールも補修方法が決まらないと見えてこないという。いつ地盤補修工事が始まり、いつ戻って来られるかがわからない状況で住民に判断を迫るのは無茶というもの。今後の見通しについては補修方法の検討結果を踏まえて「適時適切にお知らせしていきます」(同担当者)とのことだった。
現時点で約30世帯中どの程度の世帯と仮移転や買い取りで合意しているのか。
「プライバシーの問題もあるので個別交渉状況についての回答は差し控えさせていただきます」(同担当者)
仮移転で合意した場合、引っ越し費用や仮移転中の家賃、自宅建て直しの費用などの上限はどこまで認めるのか。
「公正公平な補償を行わなければならないと考えています。不動産市場における地価の動向や損害賠償に関する複数の外部専門家の客観的意見も踏まえて適切に対応していきます。具体的な金額は言えません」(同担当者)
対象世帯のすべてが仮移転や買い取りに応じるとは限らない。交渉期限はいつまでなのか。
「仮移転や弊社買い取りなどを相談させていただきながら地盤補修方法を検討している最中なので、今後の見通しについては現時点では申し上げられません」(同担当者)
陥没事故の着地点はなかなかみえてこない。対象世帯の合同説明会を早期に開き、最新情報を共有してもらいながら、さまざまな疑問に答えたほうが住民の選択材料は増えるのではないか。お金の絡む話だけに個別交渉は必要に違いないが、同じ立場の住民から出た質問や意見が参考になることもあるはず。先を見通したくても見通しようのない住民の苦悩は察して余りある。
◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)
〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する。ウェブ版の『週刊女性PRIME』『fumufumu news』でも記事を担当