「一度だけ変なことがあった」

 男の自宅は事件現場から数キロ離れた場所にあった。地元出身のサザンオールスターズの楽曲にも登場するエリアで、近所の住民はその人物像についてこう話す。

近隣宅の屋根を修繕してあげたり、庭木の伸びた枝を切ってあげる親切な男だよ。少しぽっちゃりしているけど、住宅の塀にハシゴをかけてポンポンと駆けのぼるなど身のこなしは軽やかだった。ずっと独身で高齢の母親と2人で暮らしていて、足腰の悪い母親をお風呂に入れてあげてたから、みんな“偉いねぇ”と感心していたんだ

 事情を知る冒頭の関係者らによると、男の父親は腕のいい宮大工だった。しかし30数年前に他界。30代で父親の経営する工務店を継いだ男は、建築職人としてコツコツと腕を上げていった。

「自分からベラベラとしゃべりかけるような外交的な性格ではないが、頼まれごとには嫌な顔ひとつしない。男きょうだいがいないため、母親から多少甘やかされた部分はあるかもしれないけど」(前出の住民)

 きょうだいは結婚して独立生計を立てており、男は母親との生活が長く続いていた。結婚の話が出たことはなく、自宅に恋人らしき女性を連れて来ることもなかったという。前出の地元関係者は「一度だけ変なことがあった」と振り返る。

「自宅そばの屋外で裸になっていたことがあった。なにか抑えきれない気持ちがあったのではないか。母親の介護や年齢的な問題はあったろうが、結婚したかったのはたしかだと思う」(同関係者)

 自宅に残された母親を訪ねると、男のきょうだいとみられる女性が、

「取材はお断りします。母はもう年ですので」

 と言葉少な。せめて男がどのような問題を抱えていたか教えてほしいと頼むと、そばで聞いていた母親が、「問題、大アリよ」

 と、いたずらっぽく言ってほほえんだ。

 父親の早逝(そうせい)によって、容疑者は人生設計の軌道修正を余儀なくされたのかもしれない。しかし、どんな事情があったにせよ、犯行は許されない。

◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)

〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する。ウェブ版の『週刊女性PRIME』『fumufumu news』でも記事を担当