利益が薄くなっても仕方ない
『atelierBluebottle』最大の特徴は、流れ作業でバッグ類を作らないこと。一般的には、パーツごとに縫製してしていくのだが、1つを完成させてから次を作る。しかも、商品ごとに担当が決まっている。
扱う商品の数が増えた今も、変わらない。とはいえ、さすがに慶さん、里奈さんの2人だけで担えるものではないため、後輩に製作を依頼したりスタッフを雇い入れたり。
依頼する際に、慶さんが特に気をつけているのが納期と工賃。
「納期は言わないようにしているんです。会社員だったころは、絶対に何月の何週目までに売り上げを立てないとだめだ、と言われ、無理やりガーッと生産していたんですけど、そこに大きな疑問を抱いていたから。リュックに関しては工賃はちゃんと出して、作るのが嫌にならないように気をつけて。通常は原価率があって素材やロットを出して上代を決めますよね。でも僕は原価のことは考えず、まず、いくらで売ろう、と決めてから商品開発をしています。いくらだったら自分は欲しいと思えるのか、いくらなら喜んで買ってもらえるのか、ですね、最優先は」
だから、利益が薄くなっても仕方ないと慶さんは言う。
「気持ちよく買ってもらえるほうがいいかな。特に洋服は利益がそんなに出なくても作りたいものが形になれば、それでいいかなと思っている。うちはあくまで、バックパックがメイン。バックパックでごはんを食べていければいいね、くらいな感じでスタートしているし。でもバックパックは原価が高すぎて、卸が全然できないんですけどね」
アパレルに限らず、日本の企業では、減価率は40パーセント以下に収めることが通常。『atelierBluebottle』の商品を原価率40パーセント以下に収めようとしたら、売り値がぐうんとあがってしまうのだ。
「それはやりたくない。売れ残っていたら、そういうことも考えなくてはならないんだと思うんですけど、幸いにもわりと売り切れてくれるんで。安くていいものってよく聞くけど、高くていいものって聞かないですよね。自分たちの利益を削ることで、お客さんが喜んで買ってくれて、売り切れるんだったらそれでいい。その服を継続して買ってくれて、あ〜よかった、ここのだったら新作が出たら買おうかな、と思ってくれるくらいがちょうどいいかな」
売り切る自信がなければ、作らない
お金を稼ぐことにもっと貪欲でもよい気がするが……。注目されている今がチャンスだとは思わないのだろうか。
里奈さんが言う。
「規模を大きくすればいいのに、とよく言われますよ。でも、いっぱい作ったら、きっといっぱい残る。それは単純に悲しい。会社員だったころに、残った商品がセールになったのが悲しかったのを忘れられないんです。売れ残っても平気だったら、今も企業の外部スタッフとして関わっていたはず。『atelierBluebottle』では、需要と供給とが同じでありたい。だから毎回、賭け。ただ、売り切る自信がなければ、作らないです」
おおっ強気な発言! 確かに、すぐに品切れになりますしね。
「怖いですけどね、支払いもあるので。怖いですけど、自信のあるものしか出さない。今のところ、本当に運がいいというか。もっと多く作ってください、と言われることもありますけど、これでも結構たくさん作ってるんですよ」
「僕は、今でもドキドキしてますけど」と、慶さん。
「最初にTシャツを作ったときはドキドキして、支払日が来る前に胃が痛くなりました。卸も展示会もしないから発売まで売れる感触がわからないんですよね。売れるかはわからないんだけど支払いがあることはわかっている。いまだに慣れないですね」
里奈さんは言う。
「そもそもお金を稼ぐために『atelierBluebottle』を始めたわけではないので。うーん、甘いところでもあるし、いいところでもあるのかなあ。あの、なんて言うかな、好きなことと、お金を稼いで生活していくこと、って反比例するじゃないですか。だから、自分の好きな環境を整えることが、好きを仕事にするってことだと考えています。居心地のいい環境で、数字を見て商品を作らない環境というのを大事にしたい」
※後編:『いま注目の登山系ブランドatelierBluebottleを立ち上げた辻岡夫妻「お店を開くなら“簡単にたどり着けない”場所がいい」』
(取材・文/吉川亜香子)
《PROFILE》
辻岡 慶 TSUJIOKA Kei
辻岡里奈 TSUJIOKA Rina
夫婦ともに職人でありデザイナー。「顔の見える相手にバッグを作りたい」と2013年、登山ブランド『atelierBluebottle』をスタート。自分たちで企画デザインし、縫製販売までを行うのをモットーとしている。
https://www.atelierbluebottle.com