ダダイズムからシュルレアリスムへ

 そんなダダイズムの思想を引きつぎ、さらに深めたのが「シュルレアリスム」。前述した「シュール」の語源です。「あの芸人ってシュールだよね~」「わかるわ~、マジ世界観強め」という感じで、たびたび使われますよね。

 シュルレアリスムは、ダダイズムの中心メンバーだったアンドレ・ブルトンが始めました。彼は医学生のころ、兵士が心の病で入院する戦争病院に勤めていました。そこでフロイトが唱えた「精神分析学」を知ります。

 フロイト精神分析をざっくりいうと「人間は意識している部分より圧倒的に無意識の領域が多いんだよ~。だから、無意識下にある感情や記憶を意識化して治すのが大事だよ~」という治療技法の体系です。

フロイトの心理理論の図

 ブルトンはこの「無意識」に目をつけるんです。意識できているものは理性によって”飾られた”ものであり、実は「理性の奥にある無意識こそ、何も着飾っていない人の本質だ」と考えたのです。

 さらに「理性を取り外すと自由になれる」とも考えました。意識上だけだと、思考にリミッターがかかる。例えば「犬の絵を描いてくれ」と言われたら「四足歩行の獣」を描くでしょう。これが思考にリミッターがかかっている状態。「犬といえば四足歩行」という意識を取り払うと、自由に発想できるのです

 つまりシュルレアリスムの思想は「みんな理性のフィルターを外そうぜ! そうすれば真の自分の姿で、もっと自由に生きられるよ」というもの。ダダイズムの思考に近いですが、微妙に違います。だから、シュルレアリストはおのおの「無意識を作品に反映する方法」を探るんですね。

 アンドレ・ブルトンは、とにかく高速で頭に浮かんだ言葉を書きまくる「自動筆記」という方法で詩を書きました。私が今やってみるとこんな感じ。

「ガチャピンが『明日やっと阿蘇山に登るぜ俺』と絶叫していたらしいが全員聞いておらず、ただ漫然とカルタをしながら次元大介を前にした緊張感のなか、ミジンコが住民票に印鑑を押すのを見ていた」

 ……おい、こいつ急にどうした、とか思わないで。自動筆記は誰がやってもこうなるんです。コレ、自分の内面を教えるみたいでちょっと恥ずかしいんですが、まあ私の無意識の領域にはこういう人や物があるわけです。確かに、紅白でけん玉するムックを見たし、正月にカルタできなかったし、ちょっと引っ越し考えてるし……うん、なんだかうなずける結果である。ぜひ、みなさんもトライしてみてはいかがでしょう。今、自分の内面を何が支配しているかがわかって、おもしろい遊びです。

 ちなみに、このほかにも方法があって、例えばサルバドール・ダリは「夢に無意識が反映される」と考え、夢で見た光景をキャンバスに落とし込んでいました。キャンバスの前でスプーンを持って眠り、うとうとしてスプーンを落とす。その音で起きて、まどろみのなかで見た光景を描いていたんですね。ダリに関しては、以前の記事『ダリはなぜ”完璧な奇人画家”に仕上がった?「3大コンプレックス」から紐解いてみた』のなかで紹介しているので、ぜひお暇なときにでも。

 そのほか、シュルレアリスムには、まったく関係ない組み合わせを配置する「デペイズマン」とか、石や木片といった物体のうえに紙を置いて鉛筆などでこする「フロッタージュ」といった技法があります。どれも「意識的に作ること」を徹底して排除しました。