『トー横キッズ』は細分化されている
──ここからは、歌舞伎町界隈の文化について伺わせてください。まず、ニュースなどでも話題になっている『トー横キッズ』とは、どういった人たちを指すのでしょうか。
「歌舞伎町の新たなシンボルとなった、ビルの上でゴジラがほえている『新宿TOHOビル』(旧コマ劇場)の東側の路地でたむろする若者たちのことです。もともとは、トー横周辺は自撮り界隈(※)が交流する際の待ち合わせ場所だったんです。2019年前後からTOHOビルの周りにいて、若くてお金がない彼らのことを、ホストや風俗嬢たちが『トー横キッズ』、『TOHOキッズ』と呼び始めたのがきっかけです」
【※ SNSにハッシュタグなどをつけて自撮りの写真を投稿するのを楽しむ人たちのこと】
──はじめは周りが呼び始めたのですね。
「そこから、“俺たちトー横キッズだ”、“トー横界隈だ”って本人たちが名乗りをあげたのがここ最近ですね。'20~'21年ごろから、路上に30人ほど集まるようになった。最盛期が、昨年の6月くらいまで。その界隈で事件などが起きて摘発も厳しくなり、8月ごろに、たむろする場所を『シネシティ広場』のあたりに移動したんですよ」
──すでにムーブメントは変化しているのですね。
「広場にはホームレスやバンドマンもいる。雑多な場所なんです。そこで顔見知りになってつながっていくコミュニティが生まれた。結局、居場所がない若者だけではなく、ちょっとアウトローな若者も来るようになったんです。カルチャー的なコミュニティだったのが、アイディンティティと年齢によるコミュニティになった。さらに、彼らを利用したりとか、助けようとする大人たちが出てきたんです」
──周りから見ると、一緒くたに見えるけれど、違う“人種”なのですね。
「大人はわからないから、ひとくくりにカテゴライズしますが、本当は放課後の教室みたいに、細かい住みわけがなされているんです。同じ空間にいても、ひとりひとり、所属コミュニティも趣味趣向も違う。でも、薄くつながっている」
──実際に足を踏みいれてみないと、わからない部分ですよね。
「はい。例えば、歌舞伎町で“行き場のない子どもたちが暴徒化している”と報道すると、よけいにそれを利用しようとする大人が近づいてくる。きっとみんな、大人に対する不信感ってあるじゃないですか。私たちはZ世代(※)とカテゴライズされているけれど、基本的に、誰もがこぞって見ているような番組や漫画ってないんです。それくらい趣味趣向が細分化されている。大人は、単純に子どもを叱るよりも、その子がどこのコミュニティにいるのか把握して、向き合うことが必要だと思います」
【※ おおむね1990年後半から2010年ごろまでに生まれた人を指す。物心がついたころからデジタル技術が発達しており、インターネットやSNSを使っての情報収集・発信能力に長けているところが特徴のひとつ】
次にくるのは“ファッションホス狂”
──著書にも登場する『ぴえん系女子』とは、どういうタイプを指すのでしょうか。
「まず、“ぴえん”とは、泣き声の“ぴえーん”を省略した、悲しみを表現した擬態語が始まりとも言われています。心情を表す表現として'18年ごろから広まったものの、数年たつと、“死にたい。ぴえん……”などと、いわゆる“メンヘラ女子”が落ち込んでいるときの語尾につけて多用するように。さらに、例えば自傷行為を“ぴえんしちゃった……”と表すなど、汎用性を高めていきました。
また、ぴえんはファッション用語としても浸透していくんです。メンヘラ女子を中心にはやったスタイルとして、“地雷型・量産型”があります。例えば、著書の表紙にあるような、白・黒・ピンクを基調とした洋服にリボンやフリル、さらには厚底とショートソックス、キャラクターアイテムなどを身につけている子がいたとする。
こうしたファッションをしているだけだと、“量産型だね”とか“地雷系だね”って言うにとどまるけれど、この子が路上にしゃがんでストロング缶にストローを挿していたり、“担当しか勝たん”って言っていたら、『ぴえん系女子』と呼ばれるんです。あくまで『ぴえん系女子』とは、行動様式を含めた文化。そういうふうに定義しています」
──佐々木さんから見て、ぴえん系女子と、90年代にはやったコギャルブーム時代の女子とは、どういった部分が違うと思いますか?
「ブルセラとかコギャルブームの時代って、ハイブランドやモノにお金をかけていましたよね。今は、ヒトにお金をかけている印象です。推しっていう文化がある。今は以前よりも、ギャルっぽい人も、推しをオープンにできる。好きなもの界隈のアカウントを作ることができるのが、昔との違いのひとつだと思います」
──次にきそうな文化はありますか?
「“ファッションホス狂(※)”ですかね。夜の世界を描いた漫画って、人気が高いじゃないですか。だから、本気でのめり込むというよりは、ファッションの一部というか、なんかカッコいいからホストに行く、みたいな。“私は夜の世界を知っているし……”みたいな。高校生のときの自分みたいで恥ずかしいんですけれど(笑)。
ホストクラブでお金を使ったことをSNSでアピールできるようになったのがここ最近。ホストとお客が結託して炎上商法をやることもあるし、そういう意味でも、ファッション的にホスト通いをアピールする人が増えていくんじゃないかって思いますね」
【※ ホス狂は「ほすぐるい」または「ほすきょう」と読む。文字通り、金銭面や生活の大半をホストに投げうってしまう女性のことを指す】
《PROFILE》
佐々木チワワ ◎2000年生まれ、東京都出身。小学校から高校までを都内の一貫校で過ごす。現在、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスに在学しつつ、「歌舞伎町の社会学」を研究中。著書に『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社)がある。Twitterは@chiwawa_sasaki