生瀬家の父親としての顔は?

 不気味な物が大好きなお化け一家のキモカワ家族が主人公の世界的人気ホラーコメディ。『アダムス・ファミリー』の劇場版アニメ第2弾となる今作は、思春期を迎えた娘のウェンズデーの成長と、それを見守り、困難には全力で立ち向かう家族の愛が描かれ、ナイアガラの滝、マイアミビーチ、グランドキャニオンなど、アメリカ有数の観光名所をキャンピングカーで巡る家族旅行は、バーチャル旅行が体験できるロードムービーとしても、大人も子どもも楽しめるエンターテインメント作品になっている。

──続編の見どころは?

「見どころは、タイトル通り“アダムス・ファミリー”なんですよね。家族っていうのが、どういうものなのかっていう。“こういう家族がいます。どう思います?”って。観てケラケラ笑っている人は、よくよく考えたら自分の家族もそうなんだよって。で、そこが笑えれば、ホントにいいし。現実の家族にも、ゴメズみたいなパパがいて、何事にもめげずに、倒れても、思春期の娘にウザがられても、もうとにかく一生懸命やっていれば、いつか娘も理解してくれるんじゃないかな、とか。そんなふうに思ってもらえたらいいなと

──生瀬さんご自身は、どういう教育方針で息子さんを育てられたんですか?

結局、話し合いなんですよ。僕が正しいと思っていることと、妻が正しいと思っていることのどちらをとるのかっていう。それで、ウエイトを考えて、妻のほうが息子と接することが多いし話す機会も多いから、妻に任せるけど、本当に困ったときに僕も意見を言う。妻のアプローチでは息子が納得できないんだったら、僕がアプローチするっていうふうにしてきました」

──ご家庭ではどんな父親でいらっしゃるんですか?

「絶対に叱らないです。息子に対して怒ったことないです。手を上げたこともないし、怒鳴ったこともないです。でも、たぶんそれは、自分の両親からもそうされてきたからだと思います。だから、僕は人とケンカしたこともないんです。今まで、殴ったことも殴られたこともない。生瀬家に生まれたからには、息子にもそういうふうに育ってほしいと思ってきました」

──生瀬家の家訓、一番大事にされていることは?

「人に迷惑をかけない、借金をしない、っていうのがわが家の家訓です。あとは何でも好きなことをして構わない(笑)」

生瀬勝久 撮影/佐藤靖彦

──仲のいいご家族なんですね?

「誰も声を荒らげることはないし、本当に穏やかですね。もちろん、子どもが生まれるまでは、妻とは口ゲンカしたこともありましたけど、でも、怒鳴り合いにはならなかったです」

──生瀬さんとゴメズ、どちらがいい夫だと思いますか?

「ゴメズでしょ、わかりやすくて(笑)」

「妻は僕の一番の評論家です」

──現在61歳でいらっしゃいますが、50代を過ぎてから、考え方などご自身の中で変化したことはありましたか?

絶対に傲慢(ごうまん)にならないようにしようと思いましたね。キャリアを重ねていくと、周りはどんどん優しくなっていくので。それに甘んじない、楽をしないっていうことです。同時に、楽をしている若者を見ると、イラっとするようになった。僕も若いころは楽なことばかり考えていましたけど、ただ単に楽するのと要領よくやるのは違うんですよ。その要領を覚えるために、もっと学習しろっていうのは思いますね」

──これまでのお仕事や人生経験を振り返って、転機となったと思える出来事は?

「やっぱり、大学を卒業してこの仕事を本格的に始めようと思ったことですね。僕は学生演劇をやっていましたけど、当時は卒業したら、舞台はやめてサラリーマンになるつもりで就職活動もしていて。それで就職が決まったんです。でも、いざいろいろなことが決まっていったときに、“このまま演劇をやめていいのか”って自問自答したのが、たぶん、人生の転機。そこから人生が転がり始めましたね。役者……お芝居を続けようと、自分に正直になった。その後、役者にならなければよかったと思ったことは1ミリもないです。芝居が好きだったんでしょうね。それで、ずっと今でも好きだから、本当に天職についたなと思います。

 とにかくキャラクターを自分の視点で作り上げるという作業が、とっても好きで。それで思いもよらぬ方向に自分がなれたときに、“あ~、新しいキャラクターが生まれたな”って。それは、計算ではなくフィーリングでやるので、ある意味、勝負ですよね。なんかこういうふうなイントネーションでとか、こういうふうなボリュームでこのせりふをやろうとかって、思っていないんです。本当に気持ちから出てくる声、表情、動きっていうのが、全部自分のキャリアになっていくので」

生瀬勝久 撮影/佐藤靖彦

──プライベートでの転機は、やはり奥さまとのご結婚でしょうか?

「妻は僕の芝居をずっと見てくれていたので、そういう意味でいうと、僕の作品を100パーセント見ている、一番の評論家ですね。僕のプライベートも知ってて、僕の芝居も全部見ていて、関わった作品を評価してくれる。でも、これがね~否定してくれないんでね。基本ほめてくれるんです。面白かったら、ほめてくれる。面白くなかったら、黙っている。すっごくありがたい人なんです。たぶん僕の才能を、いちばん認めてくれている人なんだろうなって。唯一無二のパートナーなんだろうと思います」